月の綺麗な真夜中

 


 

 真夜中に。
 不意に、お前を殺してみたくなった。
 毛艶のいい猫みたいに眠るお前に、さっくり、ナイフでも突き立ててみたら、さぞかし、旨そうな色した赤い血が流れるんだろう。
 その細首を締め上げてみたら、随分と可愛らしい声で『鳴く』んだろう。
 口移しで毒を盛ってやったら、まぁるく見開かれた瞳を、閉ざすことなく見せてくれるんだろう。
 …………出来る話じゃねえけどな。
 ああ、きっと。
 そんな馬鹿、死んだって、できゃしねえんだろうが。
 でも何時か。
 叶うなら、こんな月の綺麗な真夜中。
 眠るお前を殺してみたい。
 レテ河の向こうにあるだろう、白く長い階段を、二人登りつめても。
 永遠なんて、ありゃしねえだろうけどな。

 一一勿論。
 嫌だなんて云わねぇだろう?
 お前のことだ。
 最後まで、付き合ってくれるよな。
 月の綺麗な真夜中。
 俺がお前を殺しても。
 それでもお前は、微笑んでくれるんだろう?
 

 


 

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