final fantasy VI
『相棒』
前書きに代えて
とある方が、惚気てます(きっぱり)。
誰かさんの、お惚気のお話です。そりゃあもう、ごっつい惚気です。
何処かの誰かさんの『お惚気』を、聴いてやって下さい(笑)。
では、どうぞ。
どうも最近。
色々な事がやり辛くってイケねえ。
……ああ、原因は、良く判ってる。
俺とあいつの関係が、連中に勘付かれた。
それがここの処、居心地の悪い原因。
──派手な衣装のピエロ野郎を蹴倒す為の冒険に、首を突っ込んでから。
まあ…色々と、あったからな。
俺とあいつの間には。
そう……色々と、あった。
連中は、ずっと、馬の合う悪友同士だと、俺達の事を見ていたらしいから。
それは、晴天の霹靂だったんだろうが……。
仕方ねえだろう? 男同士だろうが、身分や立場がどうだろうが、デキちまったモンは、デキちまったんだ。
だから、俺とあいつは、今ではれっきとした恋人同士。
別段、それを俺は、後ろめたく思ったりなんざしねえし?
あいつだってアレでいて、そんな事を気にするようなタマじゃねえ。
ま、かと云って、おおっぴらにするつもりはなかったから、デキちまう以前みたいに、連中の前では振る舞ってたつもりなんだが……。
どうしたって、綻びって奴は、生まれるんだろう。
男同士の俺達が、そんな関係なんじゃねえか……って事に、連中が、気付きやがった。
まあ……な。
こいつ等は、だからと云って、兎や角云ったりはしねえし、口を挟みゃしねえから、それが、救いと云えば救いかね。
…尤も、俺のやる事に口を挟む奴なんぞ、例え相手があいつだったとしたって、容赦しねえが。
ああ、でも。
それでも、ここン処、色んな事が、やり辛くってイケねえ。
『そういう者』同士は、『そうある』のが当たり前だと、連中は思ってるんだろう。
何かに付け、俺達を、一緒にさせたがる。
何処ぞのガキが、お手々繋いで遊んでんじゃねえんだ、何が哀しくて、年がら年中、あいつの顔だけを見てなきゃならねえんだよ。
……そりゃ、な。
連中風の例えで云えば、俺にとってあいつは、愛しい愛しい、極上の恋人って奴だ。
四六時中、あいつの顔だけ眺めてても、飽きる事はない。
でも、な。
連中は、誤解してやがる。
男の人生ってのは。
それだけ、じゃねえだろう?
色恋だの、至上の愛だの。
そんなもので、男の人生が塗り潰せる筈もない。
…こいつ等だって、それは判ってるんだろうさ。
人生には様々な局面がある。
ここぞって時の、勝負処。
何も彼もを賭けて、挑む瞬間がある。
……勿論? 極上の恋人と、愛とやらを傾け、傾けられして、閨の中で乱れる瞬間ってのもな、確かにある。
連中だって、その程度の事は、理解してやがるんだろうから。
こいつ等の云うそれは、優先順位の事なんだろう。
人生の上を過る、山程の勝負処で、人が一体、何を選択すべきか。
己の手の中に、唯一の存在を掴んでいるなら、その存在を、様々な局面で優先するのが道理だと。
……連中は、そう考えているのかも知れない。
…………でもなあ?
紛う事なく、それが道理だとしても。
俺が真実、恋人として、あいつを愛しているとしても。
人生って奴は、そうじゃねえだろ?
…だから。
連中は今、とても不思議そうな顔を、俺に向けやがる。
いや……不思議そうってな、ツラでもねえな。
どちらかと云えば、理解出来ない、もっと云っちまえば、非難。
どいつもこいつも、そんな面構えだ。
…………お前等、な。
もっと良く、考えろよ。
──この草原は。
予想よりも酷いレベルで、魔物共の巣窟だった。
そんな中、俺達が目指しているのは、この先にある村。
「危険かも知れないから、全滅を避ける為、幾手かに分かれて、ここを進もう」
出立前に、あいつがそう云った時にも、お前等、そんな顔したな。
あいつの言葉に俺が頷いて、
「じゃあ、落ち合い先の村でな」
と、俺があっさり、あいつに背を向けた時。
どうして共に動かない、そんな疑問に満ちた瞳を、俺達に向けてきたな。
……別段、不思議な事じゃねえだろうが。
戦力ってのは、均等に分散させるのが、常套だぞ?
布陣組んで、戦やってんじゃねえんだ、俺達は。
俺達は、そうするのが最も効率がいいから、そうしてるだけだ。
…………そう……今、も。
──例え、あいつが消えた方角から、遠く離れたこの場所に届く程の、魔物の咆哮が轟こうと。
轟いた咆哮の直後、破壊呪の光が空に立ち上ろうと。
全滅をする訳にはいかない、その為に、俺達は幾手かに分かれたのだから。
振り返るつもりなぞ俺にはないし、今、あいつの元に駆け付けるつもりも、俺にはない。
……お前等、な。
そんなツラを向けるのは、お門違いってモンだ。
あいつの事だけを思って、今、この場を離れるのが、正しい道である筈がねえだろう?
…………ほら。
進めよ、さっさと。
大して手強い魔物に出遇うこともなく、俺達はこの草原をやり過ごせてんだ。
目の前にはもう、目的地の門が、見えるじゃねえか。
とっとと、潜っちまいな、その門。
今、この局面で、俺達が選択するベき道は、それ以外には、ないんだ。
────振り返るのなんざ、それからだって、構わねえんだよ。
あいつの元に向かうのは、その後だって構わない。
…あいつは、なあ。
恋人の顔してる時でさえ、こっちが下手打ちゃ、閨の中でさえ容赦なく爪を立てて来る、山猫みてぇな性分なんだぞ?
簡単に、くたばったりなんざしねえよ。
あいつが一緒にいる限り。他の連中も、きっと無事だ。
…………あいつは、な。
俺の恋人である前に、あいつは、あいつなんだ。
人生の分岐点、ここ一番の勝負処で、勝利の女神に微笑まれる確率が、百万分の一でしかなくとも。
やってみなけりゃ判らない、そう云って、綺麗に微笑む男なんだ、あいつは。
……人間…ってのはな。
簡単に、人を裏切る。
夫だろうが妻だろうが恋人同士だろうが、仲間、だろうが。
他人は必ず、掌を返す。
……だが、人間ってのは又、一人では生きて行けない性分で。
何度裏切られても、必ず、他人を求める。
だから。
必ず裏切られる他人を、必ず求めなければならないのなら。
神に見放された勝負の中でも微笑む奴を、俺は選ぶ。
それが、俺の『信頼』。
そして、『信頼』を寄せたあいつは。
あいつは、決して。
俺を『裏切らない』。
俺が決して、あいつを『裏切らない』と、誓うように。
あいつは俺を、裏切りはしない。
……あいつは。
至上の恋人である前に、信頼を寄せた、俺の相棒。
だから……な。
その門を潜った後で、振り返るのも、あいつの元を目指すのも。
俺達にしてみれば、当たり前の事。
お前達に、何故、恋人を案じないんだと、そんなツラを向けられるのは……お門違い、なんだよ……。
──これが。
どんなに幸福な事か、お前達に判るか……?
あいつが、唯の恋人であったなら。
過ぎ行く人生の分岐点で何時か、俺は呆気無く、あいつを捨てるだろう。
あいつが、唯の相棒でしかないなら。
俺達は、何時か互いを裏切るだろう。
けれど、あいつは、至上の恋人であり、信頼を寄せた相棒であるから。
俺は何時でも、あいつに背を向けられる。
何時でも、背を預けられる。
そして何時でも、俺達は、向き合える。
様々な、人生の局面で、俺達は。
恋人である互いを選択する事も出来。
相棒である互いを選択する事も出来る。
だから、今は、唯。
相棒であるあいつを、俺は見ているだけだ。
そして、あいつも、恐らく。
…………そうだろう? エドガー。
…まあ、そろそろ。
向かえに行ってやろうとは思うがな。
余計なお節介の、無駄足に終わるんだろうが。
END
後書きに代えて
……おっとこまえー、なセッツァーが、急に書きたくなり。
早朝、うきゃうきゃと挑んでみたのは良かったものの。
どうしてこの方、こんなに快調に、惚気てるんでしょうか……。
これ、書き上がったの、早かったんですよねー……。セッツァーさん(否、海野の脳内)、何があったのかなー……。
宜しければ、感想など、お待ちしております。