final fantasy VI
『柔らかい場所』
前書きに代えて
確か(昨日今日に出来たものではないので、ちと、記憶が定かじゃないんですが)、何て云うのかな、『そう云う感情』と云うものを、家のセッツァーがどの様な方向性で以て発揮するのか、と云うコンセプトの元に書いた話の筈です(汗)。
……内容をお読み頂かないと、何が何やらさっぱり、ってな解説ですな、これじゃ。
えー、あー……。まあ、語りは後で、と云う事で。
では、どうぞ。
昔、彼の弟は、今の体躯からは想像も出来ない程、虚弱な子供だったと、そんな話を聴いた事がある。
だから、普通の子供の様に振る舞う事が出来ていたとしても、病弱だった弟の、双児の兄として生まれた彼も又、健康優良児、とは言えなかったのかも知れない。
だから、時折……──。
いいや……、あんな激務を表情一つ変えずにこなしていれば、過労に倒れる事があっても、致し方ないかも知れない。
ベッドの中で。
『他人』には余り見せようとしない、疲れ果てた顔をして眠る人を見遣りながら。
セッツァー・ギャビアーニはその時、そんな事を考えていた。
最近、フィガロにもうっすらとはある季節の変わり目を迎えている所為か、恋人が床に臥す機会が増えている。
祖国が、今は消えた大国と、同盟を結んでいた頃の彼は、ある一時期を越えてから、寝込む事など皆無だったそうだが。
時が流れて。
時代が移り変わって。
彼の抱えていた荷物の重さもその質も、若干、様変わりを見せたのだろう。
多少は、気を緩めても許される機会が、増えたのだろう。
故に、時々、セッツァーの恋人である、フィガロ国王、エドガー・ロニ・フィガロは。
もう、その必要は余り無いのに、時が流れ、時代が変わる以前と、何ら変化を見せない激務を、あの頃と同じ様にこなして行くから。
執務、というものに対して、彼が、飄々とした面差しのまま行う『無茶』すら、そのままだから。
稀に、ゼンマイの切れたからくり人形の様に、パタリ、と倒れる。
性も根も尽きたかの如く。
動けなくなる。
だから、最愛の人が床に臥す度、そんな知らせを受ける度、セッツァーは、予定が有ろうと無かろうと、フィガロに駆け付ける事にしている。
当然それは、恋人の身を案じるが故の行為で、心配でもあるし、不安でもあるし、寝込んだ彼を見るにつけ、どうしてこいつは、てめえの事も顧みないで無茶ばかりをするのかと、腹立たしくもあるのだが。
それは又、安堵の為の行為でもある。
臥してはいるけれど、そう心配する程の事でもない、と、その目で確かめる為の安堵であると同時に。
もう一つの安堵を覚える為の、行為でもある。
エドガーが、過労故に倒れる事を、セッツァーは、心の何処かで、喜ばしい事だと、思っていない訳ではない。
寝込めば、それを理由として、当人に納得があろうと無かろうと、執務を休む事が出来るし、周りも、疲弊した、仕事中毒の国王から執務を取り上げるし、何より。
……そう、何よりも、体調を崩そうと、精神的に過度の負担が掛かろうと、決して休む事の無かった若かりし頃に彼が溜め込んだ、様々な『澱』を、今になって漸く、吐き出せている様な気がするから。
時に、透ける程に顔の色を失い。
時に、高い熱を出して。
時に、眠る事もままならぬ程、床の中で苦しむ。
そんな彼を、案じつつ、苛立ちつつ、不安を感じつつ、看ながらも。
セッツァーは、ふっと、安堵を覚える。
何も彼をも投げ出して、眠りの中に居続ければいいと思う。
少しずつでいい、時間が掛かってもいい、過去の『澱』を、その身の外に、滲み出させてしまえばいいと思う。
この処、こんなに頻繁に倒れるのは、激務の与えてくる疲れの所為ばかりではなくて、過去に溜め込んだ、疲れの所為もあるのだと確信しているし。
だから、確かに、彼が臥す事は不本意ではあるけれども。
全てを忘れて、安らぎを得ればいいと思う。
例え、この瞬間、彼が、恋人である己の事すら忘却の彼方に放り出していても構わない、とすら、セッツァーは思う。
彼が、安らかであるなら。
彼が、穏やかであるなら。
自分という存在さえ忘れ去られても、幸福だ、とすらセッツァーは思う事がある。
愛している人の、平穏が全て。
愛している人が幸福で在れるなら、それで、いい……と。
閨の中で眠り続ける人の傍らに腰掛け、少しばかり熱い額に片手を乗せて、セッツァーは心の底から願う。
己の心の中の、最も柔らかい場所に、何時しか住まった彼の、平穏を、幸福を、心から。
最愛の彼が、望む事ならば。
それが、如何なる事であろうとも、叶えてやりたい。
望まれる物が、地の果ての大地にある、伝説の果実であろうと。
天の頂きの、その又向こうの光であろうと。
己が、命や魂、であろうと。
彼の為になら。
──心の中の柔らかい場所、そこに、何時しか彼が住まった様に。
彼の心の、最も柔らかい場所に、何時しか、住まう事を許されているから。
彼の望む事ならば、何でも叶えてやりたい。
彼の平穏だけを、願って生きて行きたい。
彼の幸福を、護り続けたい。
出来る事なら、この腕に包みながら。
それが叶わないなら、この腕の外ででも。
──心の中の、一番柔らかい場所。
互い、そんな場所を、覗き覗かれした者同士として。
最愛にして、唯一の彼、を。
護りたい。
護り通したい。
彼が何を望むのか。
真実の願いは何なのか。
真実、彼の為に出来る事は何か。
……例え、それが、うっすらとした感触でしか、掴み得なくても。
彼の為に出来る事が、判らなくとも。
こうして……病に倒れる彼を見遣り、安堵を覚える程に、セッツァーは。
己すら、その範疇の外に置き、エドガーの、『全て』の平穏だけを願って。
「……気付いたか? 又、無茶しやがって。だから、性懲りもなく、ぶっ倒れるんだ、馬鹿」
うっすらと目蓋を持ち上げた人に向けて悪態を付きながら、セッツァーは優しく、抱き締めた。
すれば、エドガーは、熱を帯びた重たい体を、身じろがせ。
「…………傍に……居て、くれたんだ……」
泣き出しそうな程、安堵と幸福に満たされた笑みを浮かべた。
──叶うなら。
もしも、願いが叶うなら。
最愛の人が、永久(とわ)に、安らかで在れる様に。
そして、もう一つだけ、願っても許されるのならば。
最愛の人が、永久の安息を求める場所が、この腕の中であります様に。
……例え、彼の為に真実出来る事が判らぬ、おぼつかぬ、腕でしかなかろうとも。
END
後書きに代えて
……多分、優しい、んでしょう、このセッツァー。
前書きに書いた、『そういう感情』とは、優しさ、の事でもありますしね。
こう云う時の彼は、優しい、んだとはね、書いた私も思いますが。
でも、セッツァーさん、『それは、違うよ』(謎コメント)。
違うんだなー、それは。だから君は、書いた私に、ケツの青いガキ扱いされるんだよ(笑)。認めてはあげるけどね。でも、そんな貴方が好きよ♪
(ああ、どんどん、コメントが、謎と化してく(汗))
宜しければ、感想など、お待ちしております。