final fantasy VI

『desire』

 

前書きに代えて

 

 えーと……まあ……その……どうぞ。
 大してえっちくもないですが。私はひたすらに恥ずかしい……。
 裏に置き掛けた程、恥ずかしいです(笑)。真面目に、裏に置くつもりでした(この程度で)。をほほほほほ(笑)。
 desire──欲情、と云うタイトルですが…名前負けしてるかも…。

 

 

 恋人の温もりが傍にあると。
 つい彼は、微睡みの世界に誘われてしまう。
 午後のお茶の時間を目前にした、己が部屋の長椅子の上。
 最愛の人に、その身の重さを預けながら。
 真夜中の、天蓋の薄幕に包まれた、柔らかな褥の上。
 寝物語を話し始めたばかりの人の、横顔を見つめながら。
 気が付くと、彼は。
 幸せそうな笑みを、その頬に、唇に浮かべて。
 眠りの世界に落ちている。
 そして。
 眠り込んでしまった己の面を覗き込む、紫紺の瞳にやがて気付き。
 閉ざされた目蓋を持ち上げ、紺碧の眼差しで、見つめるのだ。
 恋人の面ざしを。
 優しく見下ろして来る紫の瞳を。
 ──そう。
 己の、世界の全て、を。

 

 その日の午後も。
 寄り添ってくれる、最愛の人の温もりが嬉しくて。幸せで。
 常の様に、エドガー・ロニ・フィガロは、泡沫の世界に落ちていた。
 何故なのか、理由は判らないけれど。
 これが、幸福と云うものなのかも知れないと、エドガーにしみじみ思わせるくらい、服や肌を通して伝わる恋人の体温は心地よくて、普段は眠りの浅い彼が、多少の事では目覚めぬ程、その眠りは深かった。
 彼の恋人──セッツァー・ギャビアーニの存在によってもたらされるそれから、彼が目覚めるには、幸せそうに眠るその面を、じっと見つめる紫紺の瞳の視線に、彼自らが気付くより他に手段はない。
 ──エドガーが微睡み始めてから、一時間程も経った頃だろうか。
 静かな寝息を立てていた彼は、ふと、眠りから引き戻された。
 セッツァーの眼差しの気配に気付いて。
 ゆるりと、幸福な眠りの世界から、彼は帰還する。
「……何…?」
 未だ、はっきりとしない、霞掛かった思考を持て余したまま、エドガーは恋人へ問い掛けた。
「ん……? 何でもない。随分と、幸福そうな顔して、眠りこけてやがるな、と思っただけだ。毎度毎度、俺を放り出したまま、良く眠るな、お前」
 眠りの中で身じろぎ、ほつれた金髪を直してやりながら、『取り残された』時間に対する苦情を、冗談めかしてセッツァーは云う。
「…御免……。でも、気持ち良くて……」
 心の片隅で、すまないとは思っているんだ、と考えながら、それでもエドガーは、手放し難い眠りの淵へ、又、戻ろうと目蓋を閉ざした。
「ああ。判ってるから。眠りたいだけ、眠りな。傍にいてやるから」
 髪を梳いていた指先を動かして、伏せられたエドガーの薄い目蓋をなぞり。
 セッツァーは、耳元でそう囁いてやる。
「うん……」
 こくり、幼子の様にエドガーは頷いて、恋人の胸元に、猫の様な仕種で、すりっと頬を寄せた。
 僅か開かれた唇から、軽い溜息が漏れる。
「……お前は……──」
 そんなエドガーの態度を吐息を、目にし、耳にし。
 ふと、セッツァーは何かを呟いた。
 語尾の掠れた呟きの後、一拍程を置いて。
 先程、恋人の目蓋をなぞった指先が、己が胸に縋る頬を伝って、薄桃色の唇へと降りた。
「…ん? ……何……?」
「気にするな。……寝てろ」
 そっと、何度も何度も、唇をなぞってゆく手の感触が気になるのか、夢と現の挾間で、エドガーが問い掛けて来たが、セッツァーの動きが留まる事はなく。
 寝入る恋人の体を支えていた腕も、するりと伸びて来て、無防備な頤を撫で上げ始めた。
「ん……」
 だから。指先の遊戯から逃れる様に。
 エドガーの頭が、セッツァーの腕の中で、ころ……と向きを変え、面が、上向いた。
 その寝顔に。
 セッツァーは啄む様な接吻(くちづけ)を落とす。
 ……否……それは、接吻とすら、言えなかった。
 何度も何度も、触れ合うぎりぎりの処で、唇は唇を掠め、離れ、又、掠めた。
 眠る人の、整った、小さく綺麗な唇を、セッツァーは、指先でなぞり、唇を掠めさせて行く。
「セッツァー。……何を悪戯して……。眠れないよ……」
 繰り返し己を襲う、こそばゆい感覚に、とうとう、エドガーは目蓋をこじ開けた。
 が、巡らせた視線のすぐそこに、愉快そうに細めらた紫紺の両の瞳を見つけて、彼は瞬く間に、眼差しを逸らしてしまう。
「何をして……」
「……馬鹿。そんな事は、聞かなくったって判るだろう? キスしてる」
 さっと、恋人の頬に刷かれた朱色を見つけて、からかう様に云い、セッツァーは『悪戯』に戻った。
 悪戯の続きは、それまでよりも、少しだけ深い接吻。
 舌で舐め取られた、濡れた唇を、エドガーのそこに柔らかく押し付けて、呼吸を奪って。
 幾度も彼は、接吻る角度を変えた。
「セッツァ……」
 力の隠らない両手で、エドカーは、恋人の体を押し退けようとした。
「うるさい。……眠いんだろう? 遠慮しないで、眠ればいい」
 けれどセッツァーは、今だ続く接吻と、頤に添えたもう片方の指の動きで、それを簡単に封じてしまう。
 ──だから。
 少しだけ激しさを増して、遊戯の様な接吻は続けられた。
 触れ合った唇が離れる寸前。
 濡れたセッツァーの舌が、滑りを移されたエドガーの唇を、ゆるゆると舐め上げた。
 そこに、甘い泉が湧き出ているかの様に、舌先は、唇を貪って行く。
 軽い音さえ立てて。
 午後の遅い時間、室内に存在していた静寂をかき乱す、その小さな、けれどはっきりと耳に届いた音は。
 エドガーの瞳を固く閉ざさせ、目尻を、震わせた。
「セッツァー……君は何を…考えて……」
「別に。キス、したいだけだ。今、お前にな。他に何も、考えちゃいねえよ」
 舌先が離れ、唇が離れた刹那。
 エドガーは何処か苦しそうに、詰る様な声で、恋人に訴えたけれど。
 そんな訴えは、やはり、通用しなかった。
 ──接吻は、執拗になって行く。
 優しく呼吸を奪うだけだった激しさは、熱さえも増して、唇を貪っていた舌先は、受け入れろ、とでも云う風に、ツン……と『扉』を叩いて来た。
 ……拒めなくて。
 拒む、つもりもなくて。
 舌先の促しに、エドガーは薄く、唇を開く。
 すれば、するりと、セッツァーのそれは侵入して来て。
 エドガーのそこを、絡め取った。
「ん……。あ……」
 触れ合った唇と、絡み合った舌の奥から。
 エドガーの声が洩れた。
 声音は、唯。
 セッツァーの気分を、ひたすら良くするに役立って。
 濡れた生き物の蹂躙は、激しさだけを増していく。
 時折だけ解放される唇から、透明な滑りが見えても、『接吻』は、止まなかった。
 ……深い深い……魂さえも屠(ほふ)る様な、その行為。
 握られたエドガーの右手が、トン、とセッツァーの胸を叩いても。
 止む事は……なくて。

「……どうする?」
 やがて。
 ぺろりと、己が唇を濡らしたものを舐め取りながら、不敵に、セッツァーが笑った。
「……その答えを、私に聞く気かい、君は……」
 眼差しを逸らして、エドガーは答えた。
「悪かった」
 機嫌を損ねた様な声音を絞り出す恋人に、くすり、と笑んで。
 もう一度セッツァーは、最愛の人に接吻を贈ると、腕の中の躰を、その長椅子に横たえた。
 

 

End

 

 

  

 

後書きに代えて

 

 ちゅーをしている話。
 ちゅー、だけをしている話……って奴をですね。書いてみたかったんです。
 ふと、そんな衝動に駆られたんです。
 えっち……なのかな……。うーん(悩)。
 それでは皆様、宜しければご感想をお待ちしております。

 

 

 

 

 

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