Final Fantasy VI
『春を待つ君』
雲の上の季節の訪れは、地上のそれよりも遅い。
……かと思えば、地上よりも遥かに早いこともあり。
東の大陸の空にて飛空艇を駆っていた彼、セッツァー・ギャビアーニは、その日。
稀に空にも訪れる、地上よりも早い季節の移り変わりを肌で感じた。
毎年、早春の頃になると、東大陸には強い南風が吹く。
決して、暖かい風、などと言えるような代物ではないが、東の大陸全てに春の訪れを告げる風であるのは間違いなく、それに、飛空艇・ファルコンを、そして己が身を包まれて、セッツァーは。
「…………春、か」
甲板の直中にある操舵を握りながら、ふと、一人洩らした。
──つい昨日まで、この星の北側全ては寒さの中にあったのに、もう、世界は春を知らせている。
季節の巡りというのは、随分と早い。
…………そんなことを、未だ冷たい『春風』に思わされ、やがて。
砂漠の国・フィガロにも、春の訪れを知らせる『何か』はあるのだろうかと、そんなことを思い始めた。
────フィガロ。
彼の、最愛の人が治める国。最愛の人が住まう地。
何時か、何時の日か、最愛のあの人を、唯ひたすら繋ぎ止めるだけのあの国から連れ出すことが叶うならと、そんな淡い夢を見ることもあるけれど、『今』、その淡い夢は決して叶えられぬから、せめて、あの人の小さな心の慰みの一つくらいにはなってくれるだろう、新しい季節の知らせが、フィガロにもあればいいのに、と思い煩う風にセッツァーは考えて、が、唐突に彼は肩を竦めた。
灼熱の砂漠の直中に位置するあの国の、あの無骨な城にも、冬ともなれば、それなりの寒さが忍び込む。
でも、それでも、あの人は暖かさの中にいる。
例え、フィガロには決して降ることのない雪が、あの国を、あの城を包もうとも、あの人は凍えることなく、たった一つの場所を目指し続ける。
あの城の中で。あの国の為に。
……もしかしたら、彼は。
その傍らに己などが添わなくとも、幸せなのかも知れない。
己などがいなくとも、あの人の周りにいる者全て、暖かい。
────でも。
あの国でない国で。あの城でない場所で、『何時の日か巡り来る春』を迎えようと、そんな約束をあの人と交わす者は、きっと。
──直ぐそこに迫った新しい季節、春、を思い。
あの人──エドガーを想い、フィガロを思い。
眼前に広がる蒼天を見つめながら、つらつらと考え続けたセッツァーは、肩を竦めた直後、握り締めた操舵を、左舷へと取った。
もう間もなくやって来る、春に。
あの人と──エドガーと、『何時の日か巡り来る春』を、共に迎える約束をしようと、フィガロを目指すべく。
END
後書きに代えて
2008.03〜05の拍手小説です。
ラヴいんだかラヴくないんだか……(遠い目)。
御免、これ書いた時、私の思考、暗かったのかも知れない……。
──宜しければ、感想など、お待ちしております。