final fantasy
『春夏秋冬』

 

前書きに代えて

 

 とある御仁の、一年。
 その愛すべき生態の物語です(笑)。
 管理人の発作と、長期に渡る野望から生まれた小説。
 では、どうぞ。

 

 

 サボテンダーなるモンスターがいる。
 彼(若しくは彼女)は、見ての通り、読んで字の如く、サボテンの化け物だ。
 愛嬌のあるそのお顔、見目プリティな姿、だが裏腹に、イタチの最後っぺの如く、ぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺ、と、HPを1000も削ってくれる凶悪な攻撃『はりせんぼん』を繰り出す御仁。
 泣かされた冒険者の皆様も、多いだろう。
 可愛さ余って憎さ百倍。
 だがしかし。
 彼は彼で、それなりに不幸な境遇に置かれているモンスターなのだ。
 サボテンダーがサボテンから変化(へんげ)した物の怪である以上。
 悲しいかな、サボテン──和名・覇王樹と言う名の植物の有り様から逃れる事は出来ない。
 サボテンダー。
 ああ、悲劇のモンスター。

 

〜〜春〜〜

 

 麗らかな季節、春。
 サボテンにとってこの時期は、生育期に当たる。
 と言う事は当然、全ての緑が芽吹くこの時期、サボテンダーにとっても、生育期に当たる。
 決して、人間に害をなそうと日々暗躍している訳ではないのだが、その愛くるしい──この表記は真実なのだろうか──姿とは裏腹に、実は物凄い勢いで人見知りをするサボテンダー(以下、さぼー)、砂漠の直中で、極稀とは言え人間に出会おうものなら、余りの恥ずかしさに、己が心を裏切って、本能が『はりせんぼん』を喰らわせてしまうので、出来ればさぼー的には仲良くしてみたい人間に、全く近寄っては貰えない。
 例え人間が近付こうとしても、さぼーの方から『はりせんぼん』を喰らわせて、逃走するのが現実なので、それは無理な相談だと思うのだが。
 とにかく、故にさぼーは孤独な魔物なのだ。
 だから彼はこの時期。
 そう、春が来て、夏が過ぎ、秋の休息が訪れるまで。
 懐いてみたい人間の手を借りる事も出来ずに、良く日の当たる風通しの良い場所、と言う、サボテンにとっては必要不可欠な生活環境を求めて、一人じりじりと、炎天下の砂漠を移動している。
 

 とすとすとす。
 とすとすとすとすとすとすとすとす。
 とすっ。
 しゅたたたたたたたたたた。

 四季のない、砂漠の黄砂の上を。
 今日も孤独にさぼーは進む。
 点々のお目々と、固まったまま動かす事のない、あのかけっこ途中の様な姿勢を微塵も崩さず、ケンケンをしている風に、さぼーは砂漠を進む。
 時々、見守る者すらいない中、とすっと転んじゃったりなんかする。
 倒れ込んだ大地に向け、条件反射で『はりせんぼん』攻撃もしてしまったりもして。
 こんなんだから、誰も僕の世話をしてくれないんだと、どっぷり悲哀に暮れながら、起き上がりこぶしの様に、やっぱりあの姿勢のまま、びよよよよ……ん、と起き上がるさぼー。
 それでもじりじり……ではない、とすとすと、サボテンが生息するに相応しい場所を目指し、さぼーは健気に走って、否、跳ねて、砂塵の向こうへ消えて行った。

 

〜〜夏〜〜

 

 灼熱の土地に相応しいサボテンと言えど。
 夏はやはり、辛い時期である。
 人間同様、日陰でなければ行き倒れる。
 だが。
 照れ屋さんが原因で、ロンリーな日々を送るしかないさぼーがどう頑張ってみようとも、涼しく快適な木陰へと運んでくれる人間に出会える筈もない。
 そもそもさぼーの、『まあ、照れ屋さんね♪』とか、『そう、貴方は深く静かな孤独の内に生きているのね……』てな事情が人間様に伝わろうとも、所詮、人と魔物が相入れられるとも思えないのが現実なのだが。
 だからその日も。
 とすとすとす。
 とすとす……(以下略)。
 ──と、さぼーは一人、木陰を求めて砂漠を進むのだった。
 頑張れ! さぼー! ……と、密かに思ってみたりもするのだが、何にもない何にもない全く何にもない(出典・「ギャートルズ」エンディングテーマ)、てな砂漠の何処に辿り着けば、快適な一夏を過ごせる木陰がさぼーに与えられるのかは、永遠の謎だ。

 

〜〜秋〜〜

 

 カンカン照りの、日光め、焼き殺そうとしているだろう、としか思えない、誠に灼熱な陽光も、多少は弛んでくる時期。
 漸く、日光浴をしても辛くはないかな? と言う程度には、砂漠のど真ん中でも思えるくらいにはなる。
 折しもその頃サボテン、ではないさぼーにとっては休眠の時期にも当たるので、ナイス──そうだろうか、少し不安だが……──な季節の巡り合わせだろう。
 秋の時期のサボテンは、室内で育てる場合、風通しの良い窓際に置き、十分に日光浴をさせてやらないと、ひょろひょろした軟弱な形のサボテンとなってしまう。
 それは、さぼーにとっても例外ではない。
 だが同時にこの秋と言う季節、サボテン科の植物&魔物にとって、水が天敵となる頃でもあるのだ。
 春の頃、育成に相応しい場所を求めて彷徨い、夏の頃、過ごすに相応しい木陰を求めて彷徨ったさぼー、今度は、夜、しっとりと落ちて来る、冷たい砂漠の夜露との戦いを繰り広げなくてはならない運命と戦わねばならない。
 とすとすと砂漠を進むおみ足、又は、照れ故に、バスバスと人間をぶっ刺してしまう千本の針を使ってサボーは何とか、夜毎砂の中へと潜る。
 年月を経た大御所さぼー(召還獣クラス)になれば、ぎゅりりりりりんと、全身を回転させて、黄砂に潜行する技も取得出来るのだが、大抵のさぼーは、回転ドリルの様な目の廻る技は取得出来ないままその生涯を──殆どの場合、砂漠を行く冒険者達の容赦ない攻撃によって──閉じる。
 何処までも、悲劇で孤独なモンスター、さぼー。
 秋の夜長、さぼーは何とか砂の中に潜り込んで、彼等にとってはフカフカで暖かい『お布団』から、真ん丸点々お目々とぽっかり空いた口だけを晒して、卑怯だ! と叫びたくなるくらい嘘みたいに寒い砂漠の夜を、過ごすのだった。

 

〜〜冬〜〜

 

 昼間の内は、あっづい、と叫びたくなる癖に、夜になると、嫌ぁぁぁぁぁ! と泣きたくなる程寒い、要するに、異様なまでに激しい寒暖の差が、この上もなく激しくなる冬。
 さぼー達にとっては、一年で一番幸福な時期が訪れる。
 十二月(正確には、〜翌三月に掛けて、だが)。
 そう、冬も深まるその頃。
 殆どのサボテンは一斉に、その身に花を咲かせる。
 例外は、ほんの僅かしかない。
 そしてその例外の中に、さぼーは含まれていない。
 冬。
 例えばナルシェなんかでは、夜毎昼毎、雪が降り続く頃。
 さぼーの頭のてっぺんには、綺麗な綺麗なお花が咲く。
 赤や黄色の、デザートフラワーに相応しい彩りをした、そりゃあラブリーな花が、実は咲くのだ。
 一年を掛け、様々な艱難辛苦を経た後に、自身の身に咲かせたお花達。
 それをさぼーは慈しむ。
 何故、慈しむのか。
 その答えは簡単明瞭。
 点々お目々を瞑って、ぽっかり開いたお口も我慢して閉じて、とてとて跳ねる足元を、何とか砂に埋めつつ立てば、おや、見事なサボテンの花だと、盛大な勘違いをした旅行く人間達が、寂しんぼさぼーを愛でてくれるからだ。
 近付いてくれるからだ。
 ロンリーな日々を過ごすさぼーに訪れる、一年にたった一度の幸福。
 余りに嬉しくて、嬉し過ぎて、今度は人見知りしてしまうからではなく、激しい歓喜故に、近付いて来た人間達に『はりせんぼん』をお見舞いする事になってしまっても、さぼー的には幸せだったりする。
 冬、某国の砂漠を渡ると、サボテンの花に喰われる、などと言う噂が世界中に流布している事実も知らず、さぼー達は。
 ……犠牲となった人間達に向ける涙を禁じ得る事は出来ないが、この物語は、さぼーの隠された日々を語る物語なので、さぼーが幸せだと言うのならば、それで良い……と言う事にしたい。
 この幸福な冬の一時が終わりを見れば、又、長く、辛く、そして孤独な、さぼーの一年は始まるのだから。

 

 ──サボテンダー。
 サボテンが変化した、見目麗しく(?)、愛すべき(?)魔物。
 彼等の一年は、こうやって過ぎて行く。
 ちょっぴり寂しくって、ちょっぴり迷惑で、何処か救われない──気がする──彼等の春夏秋冬。
 これからも、長きに渡り、あの世界で生き続け、冒険者達に照れ満載の『はりせんぼん』を振りまいて行くのだろう。
 時々、その愛くるしい照れに、ベヒーモスやモルボルに向けられる以上の憎しみを、人間達が抱いてしまう悲劇が起こるが……まあ、それにも耐えて──と言うよりは、その悲劇に気付かぬままに。
 さぼーは今日も、砂漠を渡るのだった。

 

END

 

 

後書きに代えて

 

 愛してるんです、さぼー。
 最愛のモンスターの一人なんです。
 だって、ラブリーでしょ? 彼(笑)。
 ずっと書きたかったんですよ、この話(笑)。
 宜しければ、感想など、お待ちしております。

 

 

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