final fantasy VI
『戀』

 

前書きに代えて

 

 さてはて、このお話を書いたのは何時だったか……多分、三ヶ月は前の事かと思います(元気だなー、自分……)。
 メインの方の更新が忙しかったものですから、今まで放り出されてたんですが、まあ、そろそろ、ここらでお披露目をさせて戴きたく。
 ──このお話は、一言で云うならば、『想い』、のお話です。
 では、どうぞ。

 

 

 

 例えば。
 目に眩しい、午前の陽光の中でも。
 少し傾きを持った、午後の日射しの中でも。
 全てが淡く霞む、夕焼けの中でも。
 君が、私を見つめるそれは。
 私を見遣る、眼差しは。
 何時も何時も、同じ、だ。

 

 そして、例えば。
 柔らかな、木漏れ日の下でも。
 薄暗い、石造りの部屋の、片隅でも。
 朧げな、夕闇の世界でも。
 君が、私を呼ぶ声は。
 私だけを見つめて、私の名を紡ぐ君の声は。
 どんな時、でも……変わらない。

 

 ほら、今でも。
 旅の途中の。
 夜半など、遠に過ぎた時刻、宿の褥の中で。
 ふと……瞳を開いてみれば。
 皆や私と共に、寝入った筈の君は。
 何故か、夜着姿のまま、窓辺に立ち尽くして。
 射し込む月光だけが、頼りの薄闇の中……私を、見つめている。
 何時も何時も……君が私を見遣る時、必ず見せる色を、その紫紺の瞳に乗せて。

 君の眼差しは……時に、痛い。
 私だけを見つめているそれは時折、刺さるかと思える程に、鋭い。
 君の眼差しは、真摯過ぎる。
 情熱的過ぎる。
 思わず、目蓋を伏せたくなる衝動に駆られる程に。
 けれど。
 君は私を見つめ過ぎるから。
 私は、君の紫紺の眼差しから、目を逸らす事が出来ない。

 何かを、揶揄している様にも見える。
 何かを、問い掛けている様にも見える。
 悪戯を、仕掛けて来ている様にも見える。
 君がその瞳に乗せる色は……深過ぎて、意味が有り過ぎて……見ていると、苦しくなる。
 逸らす事など出来ないのに。
 私は、苦しさを覚える……。

 駄目だ……と、云ってやりたい。
 そんな眼差しを送るなと、告げてやりたい。
 でなければ……何時か、誰かが、私に向ける君の眼差しの意味に、きっと気付く……。
 私がその『意味』を、受け止めている事、にも……。
 だから、駄目、だ。
 ……そう思うのに。
 私は君から、目を逸らせない。
 眠りの中にいた私を、目覚めさせる程強い、君の『意思』から、逃れられない。
 君の瞳に、そんな色を、意思を、浮かべられたら。
 見つめられたら……。
 私は、覚えてはいけない、何かを覚える。
 高揚、火照り……そして、欲……。
 今は……いいや、本当は決して覚えてはいけない、『何か』、を覚える……。

 なのに。
 どうしても、私は、瞳を伏せる事が出来ないから。
 恐らくは……僅かばかりの戸惑いの乗った……それでも、最愛の人を見遣る色を、己の瞳に映して、君を見返す。
 君の瞳の中に、私だけが居る。
 その事実が与えて来る幸福がもたらす、微笑みさえ浮かべて。
 私は君を、見返しているのだろう。
 この紺碧の瞳に、喜びを乗せて、君の視線に答えながら。
 それでも、どうか、逃がして、と……そんな、『我が儘』も同時に、訴える眼差しをして。

「……エドガー?」
 ……でも、君は、『狡い』から。
 君を見返す私の瞳に、『我が儘』が浮き上がった瞬間。
 何時も私を呼ぶ声で、君は私の名前を紡ぐ。
 伏せられなかった目蓋を、刹那、伏せさせる程の、低く静かな声音で。
 逃がして欲しい、そんな我が儘を打ち砕くべく、私の名前を呼ぶ。
「どうした……?」
 どんな時でも変わらない、優しく甘い声で。
 君は私を呼ぶ……。
 その声で、名を呼ばれたら、最後。
 君の瞳が私に覚えさせた、覚えてはいけない『何か』が。
 それまで以上に、私には刻まれる。
 だから。
 君を見つめ返し、微笑みを浮かべ、
「セッツァー」
 君の名を呼ぶしか、出来なくなってしまう。
 月光射し込む窓辺で佇む君と……手招くに似た眼差しで、声で、君と対峙するしか、私には出来なくなる……。

 だから、君は。
 何処までも『狡い』君は。
「起こした、か……?」
 私の無言の手招きを受け、口許を、ささやかな笑みで彩って。
 呼んだのはお前だ、と云う風に、私に、近付いて……。
 時に、接吻(くちづけ)を。
 時に、抱擁を。
 そして、時に…………──。

 

 接吻の最中も。
 抱擁の最中も。
 睦事の最中も。

 変わらない眼差しで。
 変わらない声で。
 ……君は。

「そんな瞳で、俺を見るな。そんな声で、俺を呼ぶな。眩しそうに俺を見て……微睡む様に、俺を呼ぶな……。奇怪しくなる……」

 私を狂わせているのは、君、なのに。

「見つめずにいられなくなる……。呼ばずにいられなくなる……。お前以外、何も要らなくなる……」

 その紫紺の瞳で、私を見つめて。
 その低い静かな声で、私を呼んで。

  

END

 

 

 

後書きに代えて

 

 陛下の恋心、のお話でした。
 ──この話を書くきっかけは、ある日、ある時、友と盛り上がった事に、端を発してます。
 セッツァーさんの『声』は如何なるものであろうか、と云う話で盛り上がった我々、 『声話』と同時に、彼の目、と云う事に関しても、盛り上がり。
 彼の声も眼差しも、そりゃあ(陛下にとっては)強烈だろう、と、思考が廻りましたのでね(笑)、書いてみました。
 セッツァーの声は、さぞかし甘い、良い声をしている事でしょう。ああ、聴いてみたい。陛下の微睡む様な声ってのも、聴いてみたいですが。
 ……煩悩ですな(笑)。
 宜しければ、感想など、お待ちしております。

 

 

 

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