final fantasy VI
『言葉より雄弁な』

 

前書きに代えて

 

 やっぱり先日、チャットルームで盛り上がった時に、廻してしまった煩悩です。
 予定ではもう少し、えっ●くなる筈だったのですが、裏部屋に放り込むまでもなかろうブツだ、と判断したので、ここでお披露目致します。
 ま、エドガーさんってば、相変わらず不憫って云う話であり。
 セッツァーさんって、相変わらず理不尽って話です(笑)。
 では、どうぞ。

 

 

 激しく波打った、白い布の海の中で。
 裸体を投げ出すように寝転がり。
 左の手の甲を、額辺りに翳しながら、天蓋の天井を、ぼんやりと見つめ。
「…………色魔」
 ぼそっと。
 エドガー・ロニ・フィガロは隣に横たわる男に、低い声の詰りを吐いた。
「…下世話な例えだな」
 不機嫌そうなその声を受けて。
 彼の隣に並べていた身を擡げ、寝台の脇に置いたシガレットケースを取り上げ掛けていた、やはり、全身の肌を晒したままのセッツァー・ギャビアーニは一瞬、ぴくりと腕の動きこそ止めたものの、表情一つ変えることなく、聴こえて来た誹りを退けた。
「下世話で悪かったね。何時も何時も、ああ、今夜も、君が余りに、それこそ下世話な程、色事に御執心だから。下世話には下世話で返すのが、相応しいかと思ってねえ」
 が、一度の誹りを跳ね返されたくらいで、エドガーはめげず。
 けだるそうな風情のまま、口先だけは達者に、働かせる。
「下手糞な、三文芝居の中に出て来る掛け合いしてんじゃねえんだ。馬鹿なこと云ってるな。……第一、俺が何時、そんなに詰られる程、色事だけに熱中した?」
 どう穏やかに受け取ろうとも、非難としか聞こえぬ弁をセッツァーは背中で聴いて、今度こそ腕を伸ばしきり、シガレットケースを取り上げ、細巻きの煙草を銜えて、火を点けた。
「何時も。何処でも。今夜も」
「……ああ、そうかもな。だが、俺が色事に御執心だってぇなら、付き合うお前も同罪ってことだぞ」
「私は付き合ってるんじゃなくって、付き合わさせられてるんだ。無理矢理っ」
「無理強いをした覚えなんぞ、俺にはないが」
「嫌だと云わせないのは誰なんだい?」
「嫌だと云わないのは誰だ?」
「云ってるっ」
「お前のそれは、嫌よ嫌よも……の口だろうが。お誘いにゃあ、応えねえとな」
「明日は朝が早いから、嫌だって告げたことの、何処をどう解釈すれば、誘い文句に聞こえるんだ、君の耳はっ」
「……全部。お前の言い訳じみた台詞だけじゃなく。何も彼も、が」
「誘ってないっっ」
「誘ってる」
 ──燻らせ始めた紫煙の漂う、天蓋の中で。
 ぼんやりと天井を見詰めたままのエドガーと、そんな恋人に半ば背中を向けたままのセッツァーは。
 一本の煙草が、根元まで灰となるだけの時間、痴話喧嘩のような言い争いをやり合っていたが。
 吸い終えた煙草をアッシュトレイで揉み消すと同時に、俺がいけない訳じゃない、お前が誘うのがいけない、と、そんな理不尽な言い分をセッツァーが吐いた所為で、暫しの沈黙を向かえた。
「……随分と、面白いことを云うね……」
 漸く、けだるさの抜け始めたエドガーは、その沈黙をゆっくりと噛み締め、身を起こし。
「申し訳ないが、私は君程に、好色には出来ていない。君を誘った覚えもない。屁理屈以前のことで誤魔化そうと思ってるんだったら、それは無駄だよ」
 きちんとこちらを見ないか、と、敷き布に広がる恋人の長い銀髪の一房を、引いた。
「…………教えて欲しいか?」
 思いの他痛みを伴ったそれに、眉を顰めながらセッツァーは振り返り。
 怒っている風な色をした、エドガーの瞳を下から覗き込む。
「教える? そんなこと、出来よう筈もないだろう? 私が君を誘ったことなんて、唯の一度もないんだからっ」
「…つれないな。それとも、自覚がないのか? …………ま、判らないってんなら、教えてやるよ」
 己の中の解釈に添う限りは、何処までも納得のゆかぬ台詞を吐かれて、エドガーは挑戦的な物言いをし。
 セッツァーはさらりと、それを受けた。
「例えば」
 ──そんなことなら、幾らでも『教授』してやる、と。
 恋人を間近で睨み付ける為に、半ば己に覆い被さるような姿勢だったエドガーの躰を、セッツァーは、呆気無い程簡単に返し、仰向けにさせた上にのし掛かり。
「…………君、又何か、良からぬことを考えてるんじゃないだろうね……」
「良からぬこと? 俺はお前の知りたいことを、教えてやろうとしてるだけだ」
 いとも容易く押さえ込まれた自身の不覚さに、軽く唇を噛んだエドガーに、くすりとした笑いを与えて、彼は。
「──例えば、お前の、瞳、とか」
 徐に顔を近付けてやったら、きゅっと固く閉じられた恋人の瞼や、揺れた睫の上を、舌先で丁寧になぞった。
「私の瞳が……何だって……?」
 肌が濡れる感覚に、びくりと躰を竦め、恐る恐る瞳を開き、エドガーは、眼前にある、紫紺色を見上げた。
 少しだけ細められて、楽しそうに笑む形を取るセッツァーの瞳を覗くそれは、若干の不安に揺らぐ、けれど、その揺らぎの奥には、結局の処、恋人と云う存在に寄せてしまう信頼の潜んだ 、『甘い』眼差しで。
「そういう風にお前が俺を見つめるから。……だから、『いけない』」
「…そういう風……?」
「俺を、誘うような、眼差し」
 す……と、セッツァーは、左の掌で、エドガーの両の瞳を、覆った。
「それから……例えは、絡み付くような、髪、とか」
 次いで、彼は。
 敷き布の上に返した時、ばらりと広がった金髪の一房を、右腕に絡げ取り。
「セッツァー……?」
「ああ、そうだな……それから……例えば……俺に触れようと、蠢く時の指先、とか…………」
 そのまま、その腕を伸ばすと、指先で指先を掬い上げ、手を結び合わせ。
「結局は、受け入れてくれる、ここ、とか」
 押さえ付けた躰に、脚を割り込ませて開かせ、膝頭で、エドガーの、両足の付け根を撫で上げて。
「…………俺を呼ぶ声とか……俺の名を紡ぐそこ、とか……」
 彼は、エドガーの唇を、己がそれで塞いだ。
 ──触れ合わせた唇と唇の鬩ぎあいに打ち勝ち、多少強引に捕まえた舌を味わい。
 結び合わせた指先には、強い力を与え。
 瞳を覆った掌で、瞼を閉じさせて。
 己が肌で、肌を擦り上げれば、その身の下で、恋人は打ち震えた。
 耳朶の近くでは、微かな呻きが響き、苦しげに伸ばされた手が、銀の髪を掴みはしたが、それはもう、痛みすら産み出さなかったから。
「……判ったか?」
 その刹那の愛は尽くし終えた唇を離して、セッツァーは、エドガーの耳朶を甘く噛み、音がするまで濡らしながら、云った。
「俺に云わせれば。お前の何も彼もが、誘ってるようにしか見えない。何時も、何処でも、今夜、も。──仕方ないだろう…? 俺には、そんな風にしか感じられない」
「…………君を誘った覚えなんて……私には、ない……」
 熱の籠った接吻を与えられた所為で、語る声を途切れさせつつ、エドガーは緩く、首を振った。
 掌の中で揺れる睫の感触がこそばゆくて、セッツァーは指先で、恋人の薄い瞼を撫でた。
「…そうか? 本当に、そうか? ……お前には。俺を見つめることは、止められないだろう? 俺に触れることも、俺の名を呼ぶことも。止められないだろう? ──お前はな。綺麗なその紺碧で、縋るように俺を見て……引き止めるように触れて……振り返れと云わんばかりに呼ぶんだ…」
 そして彼は、恋人の耳元で、そんなことを語る。
 確信を持った、響きで。
「……違う……。そんなこと、ない……」
 囁きを、エドガーは心もとなく、否定してみせたけれど。
「違わない。見ることも、触れることも、呼ぶことも、お前には止められない。──止められないまま、縋って、引き止めて、振り返れと求めるんだ、お前は。…………これが、誘ってる以外の、何だってんだ…? そうだろう?」
 セッツァーは、微かに開いた瞼の向こうの紺碧を、指と指の隙間より覗き込んで、愛おしげに微笑み。
「お前が俺に仕掛けて来る全ては、俺がお前に仕掛ける全てに、等しいんだ」
 だから直ぐ、その気にさせられる……と、恋人の瞼を覆った右手を、そうっと開いた。

  

END

 

 

 

後書きに代えて

 

 …………冷静な突っ込みを入れてもいいですか。
 このギャンブラーさん、何処まで身勝手に出来てるんでしょうか。
 自身を形成する何処かの段階で、何かを忘れて来たとしか思えません(笑)。
 ……可哀想なエドガー。
 あ、でもこの後にお二人さんは、ちゃんと、第ニラウンド突入してます(笑)。
 そうそう、チャットで盛り上がった、この話の原動力(笑)となったものは、作品の中にあるように、「誘うか、誘わないか」。「エドガーにそのつもりがなくとも、セッツァーは誘われてるって解釈するだろう」…と云うような、お喋りでした(笑)。
 宜しければ、感想など、お待ちしております。

 

 

 

FFsstop