final fantasy VI
『温もり』
前書きに代えて
時々、FF6のゲーム中で展開しているストーリーの……何て云えばいいんでしょう…乙女回路的ワンシーン(笑)を、ぽろっと話を書きたくなります。
──このお話は、御一行様が瓦礫の塔へ赴く一寸前のお話です。
では、どうぞ。
もうそろそろ。
この、長かった冒険の旅も終わる。
そんな頃だった。
様々なモノを乗り越えた果て。
どうやら、ロックとセリスの二人が、互いの距離を縮めつつあるのではないとかと、仲間達が気付いたのは。
だから、マッシュやガウやリルム達が、 そんな二人を事あるごとにひやかす様になったのは、 未だ不確かではあるけれど、まあ、多少のからかいと、祝福を込めて、なのだろう。
──その日も。
一同でなだれ込んだ宿屋の。
大きなテーブルで夕餉の時を取りながら、仲間達は『仲間』達を、からかっていた。
一組の男女の仲を揶揄する声音も言葉も、それはそれは暖かくて。
聞いている周りにさえ、その席を取り巻いた雰囲気は、幸福をもたらしてくれるものだったけれど。
弟や子供達が、料理を口に運びながら語るそれを聞きつつ。
微笑みつつ。
だが、エドガーだけは一人、複雑な何かを、胸の内に抱えていた。
幸せを掴みそうな、一組の恋人同士。
そんな存在が、目の前にいる。
彼等は普通の恋人同士だから。
何の屈託もなく、人々の視線の中で、寄り添っていられる。
人々も又。
唯、滑らかなだけの眼差しで、その恋人同士を見遣る事が出来る。
けれど。
自分、が。
己と己が想い人が抱えてしまった、『恋人同士』と言う関係は。
自身達の間で、どう捉えていようとも、決して、普通、とは言えないから。
何に憚る事なく、人々の視線の中には立てない。
刺のない眼差しで、人々が見遣ってくれる事も、ないだろう。
だから。
眼前の恋人達が立つ場所と、己達が立つ場所の余りの隔たりを、夕餉の席を取り巻いた、その幸福な雰囲気の中に感じ。
彼は、少しだけ、瞳を伏せた。
右手で、酒精の入ったグラスを掴んで、それに注意を払っている振りをして、彼は、テーブルの淵を見つめる。
己が愛する人と、己との、所謂、秘めたる関係を、誰に祝福して欲しい訳でもない、誰に知らせてみたい訳でもないけれど。
秘めなければならない想いであり関係である、と云う事実は、時に、重たかった。
寂しかった。
唯、愛し合っているだけなのに、想い合っているだけなのに、それが、背徳に繋がる、云う事が、辛さを呼び起こすから。
エドガーは、テーブルの淵の一点を見つめて、憂いを、押し隠した。
──と。
テーブルのクロスの端を弄んでいた左手を。
エドガーの隣の席に座り、それまで、マッシュ達と共に、ロックをからかう事に熱中していたセッツァーが、不意に、掴んだ。
周囲の誰にも悟られぬ様、テーブルの下からそっと伸びてきたその指先は、白い布を弄ぶ指の上を滑り、優しく握り込み。
緩い力を加えて来た。
「あ……」
視線だけを流して。
絡んだ指の主に、エドガーは何かを云い掛けた。
「ん? どうした?」
呼び掛けられた相手は、小首を傾げ、さも訝しそうに問う。
「……いや、何でもない」
隣人の、僅か傾げられた面に、ふるふると、小刻みに首を振ってみせ。
エドガーは、絡め取られた己が手に、力を込めてみた。
すれば、緩くだけ加えれられたセッツァーの手に、同等に力が籠って。
彼の胸の内の憂いは、瞬く間に、暖かい何かへと変わった。
気にする事はない、と。
ここにいるから、と。
愛している、と。
絡んだ指の温もりを以て、隣席の、愛しい人が、云ってくれている様で。
右手で掴んだグラスをテーブルに戻し、エドガーは、仲間達を向き直った。
END
後書きに代えて
……たまーーーーに書きたくなるんですよねえ、こういう話。
きっと、発作なのでしょう(笑)。
唯、私には、痛いエピソードてんこ盛りな小説を執筆する方がより燃える、と云う悪癖が実はあるので。
あんまり書きませんけどね、こういう話は(笑)。
……『Will』の反動って事にしておいて下さい(微笑)。
宜しければ、感想など、お待ちしております。