final fantasy VI
『略奪者』

 

前書きに代えて

 

 この話もですね、先日upした『失格者』同様、去年(2001)の内に書き上げて、じーーーっと、隠しておいたものです。
 そろりそろりと、upしよう、と思って(笑)。
 完璧な対ではありませんが、ある意味でこれは、『失格者』と云うお話の対になります。
 では、どうぞ。

 

 

 

「ただいま」
 ──そう言いながら、その部屋の扉を開け放ち、微笑みを湛えながら踏み入って来た人に。
 向けられた微笑みと同じだけの笑みを、エドガー・ロニ・フィガロは浮かべてみせた。

 

 全てを、知っている。
 何も彼も。
 ……彼は、私の全てを知っている。
 恋人を見ていると、エドガーは良く、そんな思いに駆られる。
 自分がどれだけ、彼を愛しているのか。
 恋人には、全てがお見通しの事なのだ、と。
 彼は思う。
 実際。
 彼が『彼』の何を愛しているのか。
 何を感じ、何を傾けているのか。
 彼の恋人、セッツァー・ギャビアーニには、きちんと判っている。
 

 セッツァーには、全てが、判っている。
 エドガーの全てが。
 ──傾けられる愛だけではなく。 
 その深さだけでもなく。
 例えば、その、躰。
 セッツァー……と、名を囁く時の、声の甘さ。
 見遣る眼差しの色。
 金の髪の柔らかさ。
 伸ばされる指のしなやかさ。
 歩む時の足取り。
 紺碧の瞳から流される涙。
 怒りの声。
 笑い声。

 エドガーと云う存在の在り方。
 その扱い方。
 心の強さ。
 心の弱さ。
 望む事。
 胸の奥底に沈む願い。
 どうすれば、喜ぶのか。
 どうしてやれば、微笑むのか。
 何をしたら、嘆くのか。
 からかい方も、褒め方も、怒らせ方も、慰め方も。
 愛し方、も。
 セッツァーは知っている。
 全てを、知っている。
 まるで、微睡み続ける小さいな存在を、その両の掌の上にそう……っと乗せて、包み込んで、静かに見遣り、護り続ける者であるかの様に。
 セッツァーは、エドガーを扱い。
 愛を傾ける。

 そして、エドガーも、知っている。
 己の全てを、恋人が、手にしていると云う事を。
 己の全てが、彼の手の中にあると云う事を。
 全てを捧げてしまった。
 全てを曝け出してしまった。
 声を届ける先、眼差しの行方、想い、躰、命。
 感情の全て、存在の全て。
 そして、恐らくは運命、も。
 何も彼も、明け渡してしまった。
 王である自分、誰か一人のモノで在る訳にはいかぬ自分すら。
 エドガーは、恋人に差し出してしまった。
 己の全てを、彼が知らぬ訳がない。
 全ては彼の、手の中にある。
 彼の掌の上で、恐らくは、護られている。
 全てを。
 それを、エドガーは、知っている。
 全ては彼に差し出され。
 奪われたものだ。
 己が、自ら、そうした。

 

 けれど。
 そう、眼前に立って、紫紺の瞳の眼差しを向けて来るセッツァーを見ていると。
 エドガーは。
 全てを知り、全てを理解し、掌の中で、全てを護っている恋人と云う存在を。
 己が両の、掌の中に感ずる。
 何も彼もを掴んでいる……掴まれている、セッツァーと云う存在を。
 掌の中に、閉じ込めている気になる。
 彼は、全てを知っている。
 己の、全てを。
 そして。
 この身の全てを得た彼の、愛を確かに掴んでいるのは自分だ、と。
 エドガーは、そう思う。
 ──全てを差し出した。明け渡した。
 奪われた。屠られた。
 それが、望みだった。
 だが。
 全てを奪った彼を、掴み、逃さぬのは、己だと。
 明け渡した己と云う存在の『中』から逃れられないのは、彼、だと。
 ……エドガーは、思う。
 本当の略奪者は、己。
 全てを得た彼を、決して逃さないのは。

 

 

「お帰り」
 エドガーは。
 お前の傍に帰って来た、そう云いながら近付いて来た、最愛の人を。
 何時もの言葉で、何時もの笑みで、出迎えた。
 全てを得た彼の。
 良く知る声、良く知る笑みで、迎えた。

 ──今宵も彼を、逃さぬ様に。

  

END

 

 

 

後書きに代えて

 

 簡単に云えば、結局、一番強いのは陛下? って話になりますでしょうか。
 ある意味で、奪い尽くされる事は『負け』ではないし、弱い事でもない。
 ま、そんなお話です。
 それを、ストレートにセッツァーに言えればねえええ、陛下もねえええ……(ごにょごにょ)。
 こうやって見ると、私の書くエドガーさん、何処か過剰に情熱的な部分もあるのねって気もしますな(笑)。
 宜しければ、感想など、お待ちしております。

 

 

 

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