final fantasy VI
『酒場にて』

 

前書きに代えて

 

 最近、セッツァーと云う人に対して、ふっと、思ったことがありまして。
 どうしてなんだろうなあって、考えてしまったものですから(ゲームキャラに、何を自分……とは思いますが(笑))。
 一寸、書いてみました。
 他愛無いお話なんですけれどもね。
 男同士の、酔っ払った上での、馬鹿話って云う(笑)。
 では、どうぞ。

 

 

 

 とある国の、とある町の、とある酒場にて。
 その夜、集った三人の男が、同じテーブルを囲み、同じ酒を飲み、馬鹿話に興じていた。
 彼等は皆、とある冒険の旅の途中に知り合い、友となった者達で。
 それぞれの年の頃も、二十代半ばから後半に掛けてと、とても近く。
 それぞれがそれぞれ、愛する存在を、その背中の向こうに隠しているから。
 泥酔、とまでは行かないが……『いい感じ』に出来上がってしまった彼等が語ることは、自然、色事が主題のそれへと、流れ始めて…………──。
 

 

 並々と酒の注がれたグラスを、しっかりと両手で掴んで、少し、俯き加減に。
「セッツァーさあ……」
 とても大柄で、精悍な顔付きの青年が、隣に座る、長い銀髪の美丈夫を呼んだ。
「何だ? マッシュ」
 セッツァー、と呼ばれた銀髪の美丈夫……しかし、その端正な面に、幾つかの傷を刻んでいる彼は、自分の名を口にした、少しばかり長めの金髪の、誠に体躯の良い友を見遣った。
「……この間、まーーた、兄貴、『死んでた』んだよね…。一日、ベッドから出て来なくってさあ。じいやが、ぶつぶつ云ってたっけ。陛下のお加減は最近、どうしてしまわれたのやら…って。──お前、さあ。少し、『手加減』しろよなー…」
 ちろり、と見遣られたマッシュは、やはり、ちろりと上目遣いで友を見て…ぶつぶつ、ぼそぼそ、云いたくなさそうに、『忠告』を始める。
「……マッシュ。そりゃあ、云うだけ野暮ってもんだって。んなこと云って、こいつが聴く耳持つんなら、エドガーの奴が一日ベッドから出て来られない…なんてこと、起こりっこないんだからさ」
 マッシュが、ごにょごにょと云い募った弁を聞き届け。
 答えたのはセッツァーでなく。
 その場に居合わせた、三人目の青年、だった。
 酒のツマミの干し肉を、指先で器用に裂いて、口の中に放り込んでいる、飄々とした印象の、短い金の髪の青年。
 その面差しはやはり、整っていた。
「ロックぅ…。そこでそれを云っちゃったら、話が始まらないだろう……」
 セッツァーに説教なんて、無駄無駄……と、干し肉を掴んだ手を、ひらひらと振った青年──ロックに、セッツァーへと向けていたチロッ…と云う眼差しを、マッシュは向け直す。
「だって、事実じゃん。大体さー、色事に関する説教を、俺らがこいつにしようってのが、間違いだって」
「そりゃ、そうだけどさあ……。セッツァー、イロに関しては見境いなさそうだけどさあ……。でも、兄貴がぁ……」
「仕方ないだろ、エドガーにだって、責任あるって。こいつ選んだのは、あいつ本人なんだし」
 ──彼等が語るエドガーと云う人物の性別に、若干の疑問は残りはすれども……どうやらその、エドガー、と云う人物は、マッシュの『兄』であり、セッツァーの色事の相手でもあるようで。
 兄を気遣う余り、小動物のような眼差しをしてしまったマッシュと、セッツァーのことも、エドガーと云う人物のことも良く知る風なロックとのやり取りは、暫し続いたが。
「………てめえらな……。本人目の前にして、云いたい放題、云ってんじゃねえよ…」
 あけすけな、マッシュとロックの言葉に、それまで黙って二人の会話に耳を傾けていたセッツァーが、ぴくりと柳眉を吊り上げて、低い、不機嫌そうな声を絞り出した。
「…本当のことじゃん。何か、反論でも?」
「…………だなー……。嘘は云ってないよなー…」
 が、あからさまに不機嫌さの滲む、泣く子も黙りそうなセッツァーの声音を受けても、ロックはケロリ、マッシュはしみじみ、答えただけで。
「てめえらだって、人のことは言えねえだろうが……」
 傾けていたグラスの酒を一気に煽ってセッツァーは、空になったそれに、新たな酒精を注いだ。
「…何がどう転んだとしても、お前程激しくない、俺は。一緒にすんなよ」
 話を振り返して来たセッツァーに、マッシュはきっぱり、云い。
「お前さんは、れ・い・が・い。だーれかさんのタフさと一緒にされてもねー」
 ロックも又、それに追随した。
「やってるこたぁ、一緒だろうが」
 しかし、セッツァーはそれ以上、機嫌を損ねることなく。
 忍び笑いを洩らした。
「そりゃ、まあ……ねえ……」
「限度問題、ではあるけどな……」
 だから二人はぼそぼそと。罰が悪そうに笑う。
「でも、さあ。セッツァー」
 ──暫しの間、彼等は笑い合い。
 静かに、酒を嗜んでいたが。
 ……ふっと、三本目のボトルが空いた頃だろうか、付いていた頬杖を崩して、ロックが顔を上げた。
「ん?」
「お前、何だって、そんなにエドガーのこと、『虐める』ワケ?」
「……苛めた覚えは、俺にはないぞ?」
 顔を上げたロックの問い掛けは、セッツァーに対する素朴な疑問で。
 取られた比喩に、銀髪の美丈夫は、きょとん、とする。
「寝込む程に………なら、充分、苛めてるっつーんだよ」
「人聞きが悪いぞ、ロック。……じゃあ、聴くが。お前んトコはどうなんだよ。閨で励んだ後でも、あっさりとカミさんがうろつける程、淡泊なのか? お前は。……ジジイじゃあるまいし」
「…おまっ……。お前ねーーーっ。下品な奴だなーーっ」
「だーから。ロックが云ってるのは、そういうことじゃなくって。…………なあ?」
 ふとした疑問から始まった、セッツァーとロックの馬鹿げた会話は、暫し続き。
 それに、マッシュも参戦し。
「そうそう。セッツァーの場合は、過ぎる程なんじゃないか…って、云いたい訳さ、俺達としてはね。…昔っから、そんななのか、お前って」
 彼等の話は、又、戴けない方へと転がったが……。
「いや、別に? 大体……──」
「──大体?」
「……あー……。女なんざ、遊びでしか、抱いたことがないからな……。飽きりゃあ、それで終いだし……。何度も…とは思わなかったし……。大体が、こっちの『都合』って奴だったからな……」
「…うっわーー。人でなし。女の敵だな、セッツァー」
「言えてる……。あーあ、兄貴に聞かせてやりたいよ、この話」
 洩らされた、セッツァーの告白に、ロックとマッシュは、更に盛り上がってしまって。
 彼等の話は、止まらなくなった。
「お前らにだって、一人くらいはいただろうがっ。遊びで抱いちまった女の一人や二人っっ」
「俺は、真面目だもん。そりゃあ…まーねー……セリスしか知らないって訳じゃないけど……」
「…………俺は、もっと真面目だぞ? モンクが、遊びで女抱いてどうするんだよ。第一さあ……その……あー…………。そういうこと、ってさ…。もっと……何て云うか……こう……神聖ったら変だけど…。欲求よりはさあ、結ばれるー……みたいな感じで…って云う方が、俺は強いし……」
 ──止まらなくなった話は。
 普段、こういったことを黙して語らぬマッシュの口をも、開かせた。
「マッシュ君……。純情だねえ、君は……。んなこと思ってると、何時まで経っても、ティナに手なんて、出せないぜ?」
 そんなマッシュを、けらけらと、ロックがからかう。
「るっさいなー。俺だってね、ティ……あーーーーっ。もうっ! 言わせんなよっ! じゃあ、自分はどうなんだよ、自分はぁぁっ!」
「俺? …俺は、うーん……。どうかな…。俺達、もう夫婦だし……。子供欲しいからって云うのも、正直、あるし……。んー……でもやっぱり……そういう部分も、守ってやりたいって云うのが、あるかなあ……。大切にしてやりたいし、満たしてやりたいし……。ま、若干、矛盾なのかも、だけどさ」
「………どっちもどっちだな。随分、優等生な言葉だ。二人共」
 マッシュとロックの掛け合いを聴いて。
 ぽつり、セッツァーが云った。
「不真面目の代表のような、お前には云われたくない」
「そうだよ。それに、セッツァー結局、どうして兄貴と……なのか、答えてないじゃん」
 やれやれ、そんな感じで洩らされたセッツァーの言葉に、二人が噛み付く。
「…………自分のものに出来るから、だ」
 ──囲んだテーブルに、身を乗り出さんばかりにして、二人に問い詰められ。
 抑揚なく、彼は答えた。
「…………あいつは何時だって、お前のもんじゃん。…そっちの意味では」
「…俺も、そう思うんだけど。とっくの昔に、兄貴、ものにしてるじゃないか、セッツァーってばさ」
 自分のものに出来るから。
 ……そう告げられたセッツァーの言葉に、ロックとマッシュは、首を捻る。
「そう云う意味じゃなくってな……。あいつと、そうしてる時が一番、『こいつは俺のものなんだ』……って実感が、湧くってえか……。──征服欲が強い、と云われれば、それまでなんだが。…閨の中で、掴んで、抱いて……何時までも、そうしていないと……何処かに行かれちまいそうで…………」
 『自分のものに出来るから』、その真意は? と、眼差しで問うて来た二人に。
 少しばかり遠い目をして、セッツァーは語った。
「………………セッツァーってさ。そこまで、我が儘に出来てたんだ……」
 友の語りを受けて。
 溜息を零しながら、マッシュが云った。
「………不憫だねえ……エドガー……」
 ロックは、この場にはいない『彼』に、深い同情を寄せた。
「自分でもそう思う」
 が、あっさりとセッツァーは、それらを肯定する。
「特別……だから……な、あいつは。過去の、遊びの女共とは違って。……快楽、じゃなくて……。唯…………──」
「──特別、ねえ……。特別、か……。そうだよなあ……。その気持ちは、判る。俺だって、セリスは特別だもんなあ……」
「確かに……。特別って意味ならね。俺も……。──結局さあ……形が違うだけで、やってることは一緒なのかなあ、俺達……って云うか、男って」
 ……遠い、遠い眼差しで、小さく、あいつは特別だから……と。
 快楽でなく……唯……と。
 そう洩らしたセッツァーの言葉に。
 二人の青年も又、思う所があったのか。
 ぽつりぽつり、呟きつつ……彼方を見遣る眼差しをする。
 そして彼等は暫し。
 それぞれが、それぞれの『彼方』を見詰めて、噛み締めていたが。
「……仕方ねえな。……送ってやるから。出るぞ」
 長らく続いた沈黙と雰囲気を、パンと断ち切るように、セッツァーが立ち上がった。
「そう……だな…」
「…ああ」
 たった今、見詰めていた『彼方』へと、それぞれ、帰ろう。
 席を立ちながらそう告げた彼に、マッシュも、ロックも、頷き。
 やはり、立ち上がった。
 

 

 『馬鹿話』に興じた、とある国の、とある町の、とある酒場を後にして。
 それぞれが、それぞれの背中に隠した、愛する存在の元へと、戻り行くべく。

  

END

 

 

 

後書きに代えて

 

 セッツァーさん、マッシュ君、ロック君、の馬鹿話、でした(要するに、セツエドであり、マシュティナであり、ロクセリ、な設定の話……。ま、家は何時もか…)。
 ……男って…(笑)。
 冒頭に書いた、この話を書くきっかけになった、管理人の考えてしまったこと、と云うのは、セッツァーってどうして、色魔なんだろう、と云う素朴な疑問です。
 ええ。私の中で彼は、色魔なんです(笑)。
 それにしても……こうやって書くとセッツァーさんって、不幸な人ですなあ…。
 宜しければ、感想など、お待ちしております。

 

 

 

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