Final Fantasy VI
『新しい年の始まりに』

 

 

 ポン、と自棄に軽い音が、遠く聞こえた。
 遠く聞こえたそれ──新年の訪れを祝う花火の音は、フィガロ城の裏手より打ち上げられているから、王都の片隅にいる彼等に『遠く聞こえる』筈はないのだが、それでも、今の彼等に、花火の音は遠く聞こえた。
「……相変わらず、派手だな」
「そうかい? 昔よりは地味になったよ」
「かも知れないが……。……ああ、そうだ。未だ言ってなかったな。──a Happy New Year.」
「あ。そう言えば、私も告げている暇がなかったんだった。──新年、おめでとう」
 ──── 城塞都市でもある王都の片隅の、滅多なことでは人目も届かぬ路地裏の行き止まりで、全てのことから忍び、抱き合うようにしていたセッツァー・ギャビアーニとエドガー・ロニ・フィガロは、互い、別世界の音のようだ、と思いながら聞き届けた花火の音へ顔を巡らし、何とはなしに苦笑を浮かべてから、「約束事だから」と、二時間程前に迎えた新年を祝う言葉を交わし合った。
「…………と、言ってはみたものの。めでたいんだか、めでたくないんだか。正直、どうでもいいな、新年の祝いなんざ」
「まあ、君はそういう質だよね」
「年が変わったからって、何が変わるって訳でもねえからな。──それよりも、本当に良かったのか?」
「何が? あ、城から抜け出して来たこと? 平気だって、もう、国王として私がやらなくてはならないことの大抵は終わったのだから」
「それは、判ってる。但、こんな日にまでお前を勝手に連れ出したことがバレたら、お前ん処のじー様に、又、恨みを買うんじゃないか、と」
「……今更だろう? と言うか、そんなこと、本心では少しも気にしてないくせに、良く言う」
「俺にとっちゃどうでもいいことだが、一応は新年だからな。少しは、世間の常識って奴を鑑みた方がいいかと思ったんだ」
「世間の常識、ねえ……。世間の常識を、多少でも鑑みようとするなら、その手は何だい?」
 無骨な石造りの城壁に、二人凭れ掛かり、それぞれが、それぞれの耳許で囁くように交わす言葉はそんな風で、『常識』など何処吹く風の生き方をしている碌でなしのくせに、珍しいことをほざいたセッツァーへ、エドガーはクスクスと笑い掛け、『意味』を込めた手付きで腰に絡み付いた『碌でなし』の腕を、ぴしゃりと叩いた。
「お前こそ、良く言うな。俺と二人きりで城を抜け出して、色気の一つもなしに済むなんて、端から思っちゃいないだろうに」
「まあね」
 少々きつい仕打ちを受けて、一度は手を引っ込めたものの、セッツァーは懲りることなく、エドガーを軽く抱き締めている腕を、背より腰へと滑らせ。
 全く……、とか何とか、口先だけでは言いながら、エドガーも、今度はされるがままだった。
 だから、エドガーは石造りの固い壁に背を預け、セッツァーはエドガーの腰を支え続け、縺れる風に、彼等は抱擁を深めて、やがて、接吻(くちづけ)を交わし。
 又、遠くから聞こえた花火の音に、ほんの少しだけ耳を貸しながら、そのような場所だと言うのに、『行為』に没頭し始めた。

 ──彼等の、生涯忘れ得ぬ冒険の旅が終わって、もう、何年が経つのか。
 数え切れなくなる程、季節は巡り、年月は流れ、共に迎える新年も、そろそろ指折り数えられなくなる。
 ……それだけの、歳月。
 あの、冒険の旅の頃から。
 彼等はずっと、変わらず、互いの立場の裏に、恋人同士、という顔を隠し、時を過ごして来た。
 人知れず、愛を育み続けて来た。
 歳月が流れ行きても、変わることなく。
 誰にも、何一つとして打ち明けられない、背徳の恋であり、背徳の関係だけれども、二人には、それを手放すことなど出来なかった。
 そして恐らく、互いがこの世を去るまで、関係も、愛も、手放すことは出来ないだろう。
 この世の全てのモノから、『正しくない』と言われても。
 この世の全てのモノから、『正しくない』と言われているのを、識(し)っているけれども。

 接吻が終わっても、それぞれの唇から洩れる吐息は、甘く、熱かった。
 セッツァーへと伸ばされたエドガーの両腕は、しっかりと恋人の躰に絡み付いて、前だけをはだけさせたエドガーの肌へと忍んだセッツァーの指先は、妖しく、忙しなく蠢いていた。
 少しばかり荒くなった息遣いの中に、銀髪の彼は、愛しい恋人の名を織り交ぜ始め、金髪の彼は途切れ途切れに、嬌声を放ち始め。
 ────背徳だと解っていて。
 背徳だからこそ。
 二人立ち尽くしたまま、何時、誰に見られてしまうかも判らないこんな場所で、名も、立場も、何も彼も全て、かなぐり捨てた風に、彼等は愛し合い続けた。
 フィガロ王都の片隅の、滅多なことでは人目も届かぬ路地裏の行き止まりで。
 新しい年の始まりの日に。
 『未来』の訪れに、本当は、怯えている二人だから。

 

END

 

 

 

後書きに代えて

 

 2008.02〜03の拍手小説です。
 温いなんてもんじゃないラブ度ですいません……。ぐ、具体的に書いたら長くなるし!(笑)

 ──宜しければ、感想など、お待ちしております。

 

 

 

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