final fantasy VI
『遠い空、近い貴方』

 

前書きに代えて

 

 えーーっと(ごそごそ)。
 このお話も、今、調べてみたら、2001.12.20頃に書かれたもののようです。
 今を遡る事、二ヶ月前の事ですね。
 ええ、管理人は、書いたまま、こそこそと隠し(笑)、upのタイミング、じっと計っておりました。
 設定は、本編の彼等ではありますけれど、一応、本編(Will)とは切り離してあるお話です、が……。…………鬼?(汗) いえ、内容が内容なんで……。
 では、どうぞ。

 

 

 

 砂漠の朝が明け切らぬ頃。
 冷たい、空気の中。
 部屋着の胸元を、軽く握りしめる様にして、長い回廊を歩き切ったエドガー・ロニ・フィガロは。
 静かに、部屋の扉を押し開いた。
 城外を、そして回廊を包んでいたひんやりとした気配が伝えて来るそれとは違い、ほんの僅かな時間、空にしていただけの室内は、沢山の温もりが残っていて。
 上着を脱ぎ捨てた彼は一人、奥の間の、寝所へと戻った。
 未だ、起き出すには早い時間。
 かと云って、寝直すつもりはないけれど。
 ベッドに横たわるくらいの怠惰ではいようと、そんな風に彼は思ったから。
 薄い衣服も纏ったまま、室内に漂うそれと同じ温もりが残るそこに、腰を下ろした。
 足を床に付けたまま、半身を投げ出せば。
 視界の端には、乱れ広がった己の髪と、白い布の海が映る。
 先程まで。
 己と……そして、恋人が、共に在った場所が映る。
 あの人の温もりが、今だ残る場所が。
 ──だから彼は、手を添えた。
 布の上に手を添えて、数分もすれば消えてしまう、想い人の温もりと残り香に、名残りを惜しもうと、横たえた身を起こした。
 素肌を晒したまま、そこで寝入っていた恋人の姿が、ありありと、脳裏に蘇る中。
 彼の指先は、布の上をなぞって、そして。
「……あ…」
 布の上を這った指先は、一筋の、髪を見つけた。
 長い髪。
 銀の髪。
 彼の人の背で靡くそれ。
 己を魅了して止まない、彼の人の『部分』の一つ。
 彼の人の……名残りの、一つ。
 ──エドガーは。
 拾い、掌の中に納めたそれを、暫し、見つめていたが。
 やがて、銀の髪を手にしたまま立ち上がると。
 窓を開け放ち、砂漠を渡る風へと、それを手放した。
 強い朝の風が逆立てる、己が金の髪を押さえながら。
 瞬く間に消えた、一筋の銀髪を、何時までも、見送って。

 

 

「……ん?」
 漸く、全てが朝日に席巻されようとしている砂漠の直中を渡っていたセッツァー・ギャビアーニは、ふと。
 漆黒の色をした、自身の衣装の胸元を、見下ろした。
 何か、うっすらと光るものが見えた。
 常なら、その様なもの、気にする事などないのに。
 その日に限って彼は、何故か意識をそれに傾け。
 布の織りをなぞった。
 這わせた指先に絡み付いて来たものは。
 長い髪。
 金の髪。
 恋人の、姿を彩るそれ。
 ……少し前、砂漠の城の門柱の影で、人目を憚り、が、名残りを惜しむ様に、彼の人と抱き合ったから。
 恐らくその時に、付いたのだろう。
 ──その腕には。その胸には。
 その場所で、彼の人を抱き締めた時の温もりが、残り香が、今だ残っている。
 いいや、あの刹那に受け取った、恋人の名残りよりも。
 遥かに強い、夕べの、情事の名残りが、彼の人そのものが。
 彼の肌の上には、残っている。
 閨の中で掻き抱いた、最愛の人の、それ。
 なのに。
 漆黒の布の上に残った、たった一筋の金の髪は。
 彼の中に残り燻る、彼の人の、全ての名残りに勝って。
 立ち止まり、握り締め、暫し、一欠片の『金』を見つめて彼は。
 その時、立ち尽くす己が脇を駆け抜けて行った、砂漠を渡る一陣の風に、その金を渡した。
 去りゆく風と相対し、歩みを進めつつも。
 一度だけ振り返って。
 肩越しに、砂漠の彼方へと消えた恋人の名残りを、彼は見つめた。

 

 

 約束の逢瀬。
 甘い一時。
 待ち侘びた時。
 それを過ごして迎えた、『暫しの別れ』の朝。
 これから又、次の逢瀬を迎える日まで、彼等が互い過ごす時間は、確かに、『暫しの別れ』ではあるけれども。
 決して、避ける事の叶わぬ別れ。
 逢瀬が巡り来る度、必ず訪れる別れ。
 そして、何時の日にか。
 『暫しの別れ』は、本当の別れになるかも知れない。
 恐れている『時』は。
 何時か、静かにやって来るかも知れない。
 けれど。
 遠く離れ出した、別々の空の元。
 一筋の名残りを見つけるだけで、彼の人の存在を、直ぐそこに感じられるなら。
 ……何時か。
 必ず訪れる『別れ』は。
 『暫しの別れ』への、別れになるかも知れない。
 そんな日は、来るのかも、知れない。
 だから今は、それぞれの名残りを手放して。
 巡り来る、次の逢瀬の、為に。

  

END

 

 

 

後書きに代えて

 

 元々は、単に、髪フェチな管理人が、髪の毛話を書きたい、と思った事に、端を発するんですがね、この話。
 この話単体で見れば、取り立てて、痛い話でも何でもない、極普通のお話なのですが。
 本編の展開が展開なもんで。はははは……(誤魔化し笑い)。
 だったら、今、このタイミングでupするなよ、阿呆管理人、と云う御意見もお有りかと思いますが、私は己の中の予定通りに、更新を行っているので…その……(御免なさい、私、やっぱり鬼かも……)。
 宜しければ、感想など、お待ちしております。

 

 

 

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