final fantasy VI

 

 

前書きに代えて

 

 『雀のお話』の、本当に、おまけ(笑)。
 遥か遥か以前。
 某友人に、書け、と指令を受けたブツだったりもしますが、余りにも短いのでおまけになってしまいました。
 堪能して下さい。そして、勘弁して下さい(←私信(笑))。

 

 

 

 夜の静寂とは又違う。
 これから、何かが、ゆっ………くりと動き出しそうな、そんな気配を孕んだ静寂が、辺りを支配している。
 肌に触れる空気は爽やかで、例えようもなく、軽やかだ。
 ──そう…朝の、気配。
 使い古された言葉ではあるけれども、やはり、清々しい…と表現するのが最も相応しいのであろう、その、朝。
 …そんな朝の始まり。
 エドガー・ロニ・フィガロは、何時も通りの時間に、目覚めた。
 自室の奥の間の、天蓋の中。
 羽衣の様に薄い天蓋の布と、ベッドの白いシーツが瞼を開いた彼の視界の中に飛び込んで来た……処までは良かったが。
 爽やかな筈の朝なのに、何処か、息苦しく。
「ん……んー………」
 欠伸の様な物を一つ洩らして、彼は緩慢に、自身の脇腹の辺りを、払う様な仕種を見せる。
「………重い。…重たい…。重たいんだってば、セッツァー…」
 朝の始まりの言葉にしては、幾許か、らしくない声高なトーンと台詞を、エドガーは背中越し、隣で眠る恋人に向けた。
 恋人の半身が、彼の半身にのし掛かる様な格好が、目覚めた時の息苦しさの原因だったから。
 ベッドから起き出す為にも、片割れを起こさなくては、と、彼は声を張り上げたのだ。
「…うるっせーな…朝っぱらから…」
 と、途端。
 肩の向こうから、心底不機嫌、と言った声が返されて来た。
 普段自分が目覚めぬ時間に起こされた事に対する、セッツァー・ギャビアーニの非難の声だった。
「そろそろ、ね。起きないか? セッツァー。日が、高く昇ってしまう前に」
「起きりゃ…いいだろーが……。俺は未だ…眠い…」
 ブツブツ、エドガーの体にのしかかったまま、セッツァーは文句を垂れる。
「なら、退いてくれ」
「…御免だね…」
「セッツァーっ。そもそもね、君は客間で休んでる事になっているんだよ? 普段通りの時間に私が起きて行かなかったら、誰かが起こしにやって来てしまう」
「そんなん、俺の知ったこっちゃない」
「………セッツァーっ!」
「うるさい。ちったあ、黙れ」
 ──二人は、暫し、ベッドの中で押し問答をしていたが。
 やがて、エドガーの方が言葉でセッツァーを起こす事を諦めたのか、実力行使、と言わんばかりに、強引に体を返そうとした。
 下になっている右肩に体重を掛けて左肩でセッツァーの体を押し返そうとして……。
 だが、それは、不機嫌なセッツァーの抵抗に阻まれる。
 くるりと体を、相手毎反転させようとエドガーはしたのに、いや、それは成功したのだが、途端、伸びて来たセッツァーの腕に、彼は体を絡め捕られ。
 今度は逆に、エドガーがセッツァーの上に半身を預ける格好になってしまう。
 しかも抱き竦められているから、起き上がる事も出来そうにない。
 ……これで益々、誰かに起こしに来られる前に身支度を整えたい、と云う国王陛下の願いは遠退いた。
「私はいい加減、起きたいんだけどねえ……」
「気にするな。どうせ、鍵が掛かってんだろう? この部屋には」
「それはそうだけど……」
「何だ? 不服そうだな」
「出来ればね、私は、体裁を整えたいんだが」
「どうとでもなるだろうが、そんな事」
「ならないっ!」
「覗く奴もいないのに、体裁もへったくれもねえだろうが」
 ──誰かが自分を起こしに来る前に、何とかでも、支度を終えておきたかったエドガーは、セッツァーの胸の上に躰を預けたまま、ぎゃいのぎゃいの、喚き立てたけれど。
 セッツァーはセッツァーで、寝起きの悪さが全開で発揮されているのか、がっちりと恋人の躰を掴んだまま、抗議に減らず口を叩き。
 押し問答は何時しか、声高な口論へと発展した。
「そう云う問題じゃないっっ」
「ほんっとーーーーーに、うるっせーな、お前は朝っぱらからっっ」
 そして、その口論に業を煮やしたのか、辟易した──まあ、どちらも似た様なものだが──のか。
 胸の上の躰を、明確な『意志』を以て、己が身の下へとねじ伏せ。
 大層寝起きの宜しくないギャンブラー殿は、共に、素肌を晒したまま寝たと云うに、その起き抜け、睦言の一つを囁くでもないつれない恋人の唇を、強引に塞いだ。
「セッツァーーーーっ!!」
 接吻(くちづけ)が終わるや否や、エドガーは怒鳴り声を上げたが、それは、やっぱり、逆効果と相成り。
 爽やかな、清々しい朝の目覚めを迎えたのにも拘らず、接吻以上の行為を求められる事態に、彼は追い込まれる。
「お前んとこの女官も衛兵も、鍵が掛かってる君主の部屋に、許可もなく入り込む程不作法じゃねえだろうが。諦めろ。俺はな、朝っぱらから聞かされた、お前の冷たーーーーい声の所為で、機嫌が悪いんだよ」
「だからって、どうしてこうなるんだっっ」
 両の手首を掴まれて、ベッドへと縫い止められたエドガーは、セッツァーのろくでもない言い分に、きくつ柳眉を顰めた。
「決まってる。損ねた機嫌なんぞ、とっとと直した方がいいだろう? お前の所為で俺は不機嫌なんだ。……付き合え」
 が。
 そんな事をしてみても、後の祭りと云うのだろう。
 己が恋人の傍若無人さは、彼が一番、身に沁みて判っている事だ。
 案の定、機嫌が悪いのも、事の成りゆきがこうなったのも、全てお前の所為だ、と真顔でセッツァーは言い放ち。
 そのまま彼は、『事に及んだ』。
 どうしようもなく我が儘な恋人の所業に、エドガーが抵抗出来たか否かは……────。

 

 

 さて、その頃。
 王の私室の奥の間で、朝っぱらから一組の恋人同士が、情事になだれ込んでいた頃。
 その部屋の扉の前では。
「……どうでもいいけど。結局、起きてこられるのかしら」
「さあ? そんな事、知らないわ。セッツァー様次第じゃないの? ほんっとうに。お掃除は出来ないし……お食事は冷めてしまいそうだし。……どうしろって云うのかしらね」
 …………と。
 当人達が気付く事はないが、扉を超えて、回廊まで聞こえていた彼等の口論──正しくは痴話喧嘩──を、聞きたくもないのに聞かされてしまったお城の雀達が二人、途方に暮れつつも、呆れた表情を拵えながら、立ち尽くしていた。
 だから。
 今日も又、夕餉の下拵えなぞに、彼女達が従事する時には。
 今朝のこの『騒ぎ』は、きっと話題に登るのだろう。
 そして又。
 ここフィガロの城主とその『親友』との、本当の間柄は。
 公然の秘密であり、暗黙の了解であると云う認識が、深く深く、『雀』達の間には、浸透して行くのだろう。

 

END

 

 

 後書きに代えて

 

 ……今日も朝から、賑やかなフィガロのお城でございます(笑)。
 …………馬鹿ですねー、この人達(笑)。
 馬鹿と云うか……何と云うか……(笑)。うん、馬鹿(笑)。

 

 

 

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