final fantasy VI
『例えば貴方を愛しているとして』
前書きに代えて
……何か…何とも言えない話なんですが(汗)。
では、どうぞ。
随分、怠惰なことをしているな、と思う。
他人に云われるまでもなく。
自ら、そう思う…………と。
うっすらと掻いた汗に濡れたのか、さらり……とは流れてくれなかった前髪を掻き上げ、彼は思った。
寝たいだけ寝て、体に促されるまま目覚めたら、既に日は高く。
否、高い処か、日射しはもう、下降線を辿り始める時刻で。
それまで、一糸纏わぬ躰を横たえていた寝台は、心地よさと心地悪さの丁度境目のような温さを持っていて。
薄い上掛けだけを引っ掛け、のそりと起き上がってみれば、その温い寝台の中には、己と同じく、一糸纏わぬ男が、未だに眠りを貪っている姿が視界の端を掠めて。
夕べの行為がもたらす倦怠感が、鎌首を擡げて来るのを覚えるのだ。
この状況を、怠惰以外の言葉で表す術は、彼にはなかった。
──だから。
目覚めた瞬間にふと見上げた、薄いカーテンの向こうの、溢れんばかりの日の光。
気持ち悪い訳ではないけれど、心地よいなんて間違っても言えない、温い寝台を被うシーツ。
微睡むには相応しくない温度の中で眠り続ける傍らの男。
そして夕べ、その男に好き勝手にされた痕を留める己の躰。
それらを、のろのろと眺め終わった彼は。
「……バーカみたい……」
と、一言、溜息と共に呟いた。
彼が、隣で眠り続ける男と、『こんな関係』になったのは、もう随分前の話だ。
互い、胸の内では密かに、相手を想っているのかも知れないけれど。
彼も、男も、抱えた想いを言葉にせずに、ここまで来てしまった。
躰と躰の関係だけが、先走ってしまった。
──始まりが、いけなかったのかも知れない。
もしかしたらこの男を、抱いてしまうのかも知れない。
もしかしたらこの男に、抱かれてしまうのかも知れない。
…………なんて。
或る夜。
彼等は共に、そんな予感を感じる瞬間を、同時に迎えてしまって。
けれど彼等は、同性同士、だったから。
相手が、己と良く似た予感を覚えているなんて、気付きもせず。
覚えた予感が、余りにも馬鹿馬鹿しくて、秘め事めいていて……口になんて、出来なくて。
どうしてそんな予感を覚えたのか、知りたくなくて、認めたくなくて。
なのに、こんな予感は気の迷いだ、と、流すには惜しくて。
「俺が、な。例えばお前を愛しているのだとして」
「私が、ね。例えば君を、愛しているのだとして」
……と。
冗談にして流してしまえば、許されるかも知れないと、刹那そう想った彼等は、予感を覚えた直後、同時に囁き合っていた。
…………故に。
『例えば』……と云う。
本気ではないんだよ、そんな言葉で自分達を守って、彼等は戯れを起こしてしまったから。
そんな夜から幾月が過ぎて、共にある時は、肌を合わせるのが当たり前のことになって、こうして、怠惰な朝を迎える程、関係が、泥に塗れても。
彼等の始まりは、『例えば』、でしかなかったから。
愛しているのだと、彼は言い出せなくて。
愛しているのだと、男は言ってくれなくて。
なのに、迎える目覚めは、怠惰、で。
どうして自分はこんな処で、こんな風に、この男と過ごしているんだろう……と。
馬鹿みたいだ、と。
彼は、溜息を零した。
────溜息を零してみせても、嫌味ったらしく呟いてみても、男は目覚めない。
規則正しい寝息を立てて、上掛けを奪われた寒さに、若干震えを見せるのみ。
…………だから。
愛している、と言えない己を棚に上げて。
自分がこんなにも鬱々としているのに、安らかに眠り続ける、余りにも憎たらしい男の頬を。
彼は軽く、抓り上げた。
「……ん…」
頬を摘まみ上げた指先に軽く力を込めてやったら、微かな呻きが男からは洩れた。
呻きを上げるだけで、目は覚まさないのかと、理不尽な苛立ちを一層募らせて、彼は指先に込めた力を増した。
「…エ……──」
けれど、男は目覚めず。
寝言らしきものを、低く呟いた。
──男の洩らした寝言は、彼の名前のようだったから。
頬を摘まみ上げたまま、彼は男の口許に、そっと耳を寄せた。
己の名前を呼んだ後に、禄でもないことを囁いたら、本気で叩き起こしてやろうと。
そう思って。
千切れそうになる程、摘んだそこを抓り上げてやろうとも考えて。
彼は、身を屈め。
「エドガー……。愛してる……」
──始まりが、『例えば』、だった所為で。
愛してる、と言えなくなってしまった男の口から。
愛してる、とは云ってくれない男の掠れる声を。
彼は、確かに拾い上げた。
END
後書きに代えて
……なんとなーく。
本当になんとなーく、こんな話が書いてみたかっただけです(汗)。
随分と我が儘さんですね、このエドガーさん……。
セッツァーさん、寝たままだし…。
宜しければ、感想など、お待ちしております。