final fantasy VI
『病の幸福』

Setzer version

 

前書きに代えて

 

 病の幸福、Edgar version、の方に書きましたように。
 今年のエドガーさんのお誕生日には、自己生産したくなかったので(笑)、特別に企画は致しませんでしたが、何もないのも寂しいので(以下略)……の第二弾。
 では、どうぞ。

 

 

 

 獣ヶ原を越えた頃だった。
 広い草原の中で、道を見誤った冒険者達は。
 底が尽き始めた荷物と。
 枯れ掛けた魔力と。
 疲れ果てた体で、草原の魔物達と戦いながら。
 野宿をする為のささやかな場所を、『戦場(いくさば)』の出口に、求めようとしていた。
 民家は遠く。
 その身を休められる柔らかな褥も遠く。
 夜空の元に、一つ二つと拵えた、粗末な天幕の中で彼等は。
 今日、と云う日を、お終いにしようとしていた。

 

 薄い、毛布の上に横たわり。
 同じく薄いそれを掛け。
 セッツァー・ギャビアーニは、辛そうな息を吐いた。
 強大な魔物との戦いで彼は、負傷したのだが。
 敵と出会ってしまったのは、薬も無くなり、回復の呪を唱えられる体力も気力も、仲間達の誰もが失ってしまっていた後の事だったから。
 誰にも、どうしてやる事も出来ず、本人にも、どうする事も出来ず。
 明日には何とか辿り着けるだろう街まで耐え忍ぶしか、彼には術がなかったし、耐え忍ぶ彼を見守るしか、仲間達には出来なかった。
 命に別状はないだろう、とは思うが。
 ……肌を、肉を、骨を抉った傷は、絶たれた血の路から溢れ出る、紅い液体の流れを、中々止めてはくれず。
 血の流れが収まった後は、発熱を呼び起こしたから。
 怪我こそ負いはしなかったものの、ボロボロの彼と大差ない程に草臥れ果てた仲間達が、自身達も知らぬ内に眠りに落ちた夜半を過ぎても、朦朧とした意識が、セッツァーの中には残っていた。
「……眠れないかい……?」
 そんな彼の傍らから、静かな声が掛かった。
 彼の、恋人の声。
 エドガー・ロニ・フィガロ、と云う青年の声。
「ああ……。ちょいと……な……。さすがに…こうも熱が高いと、辛い……」
 冷たい水が冷やしたエドガーの指先が、額へと降りて来て、苦笑しながらセッツァーは、緩慢に目蓋を閉ざした。
 負傷したセッツァーと、看病をするから、と云ったエドガーの二人に、天幕の一つを仲間達は明け渡していたから、ここには今、彼等の他に誰もいない。
 だからセッツァーも、普段は滅多に吐く事のない、弱音、とも聞こえない事のない物を告げていた。
「庇ったりなんかするから……」
 触れた額の熱さに、エドガーは肩を竦め、溜息を付く。
「…お前が、……いや、お前でなくとも……他の誰かが、こうなるよりゃ……いいだろう…が……」
 近くの川から汲んで来た水に浸した布を絞って、苦情に反論して来たセッツァーを、睨み付けて。
「……誰がこうなっても、良くはない」
 きつく、彼は云う。
「そりゃ……まあ……な……」
「ポーションの一つもない。ケアルさえ、唱えられない……。宿のある街も遠い……。なのに……こんな姿の君を見るのはね……辛くて……自分が情けなくなる……」
「……エドガー…。お前の…所為じゃないだろう……?」
 熱を取る冷たい布と共に、額に降りて来て、動こうとしない恋人の手に、セッツァーは手を重ねた。
「判ってる。それはね。でも。…君は時々、無茶をする……」
「良く云う、な……。無茶が得意なのは、お前の方…だろう……」
「判ってる……。こんな事があると、良く判る。私は君に何時も、心配ばかり掛けてるんだって事がね…。それがどれだけ、君にとって辛いのかと…そんな事、も……良く、判る……」
 重ねられた掌は。
 とても、熱く。
 熱に浮かされ、苦し気な表情を消し去る事の出来ないセッツァーよりも、尚、辛そうな面を、エドガーは刹那、作った。
「…大丈夫、だ。俺は…な……。俺は、大丈夫……。だから、そんな顔を、するな」
 薄目を開けて見遣った、世界の中で。
 恋人が湛えたそんな表情を、セッツァーは、見逃さなかったから。
 重ねた指先に、力にならない力を込めて握り、ツイ……と、腕を引いた。
「……ん?」
 どうかしたのかと、今はか弱すぎる恋人の腕の力に、それでもエドガーは逆らわず、身を寄せる。
「エド…ガー?」
 ──発熱に潤んだ紫紺の瞳。
 どうやっても掠れる、テノールの声。
 それらに、セッツァーは、それでも。
 何時もの眼差しを浮かべ。
 何時もの、低く甘いトーンを乗せ。
「傍に……いてくれ……」
 恋人を見つめ、恋人を呼び。
 指先を掴んだ手を遡らせると、豊かな金髪の中へと差し入れ、『強く』、引いた。
 不意の出来事に、バランスを崩して凭れ掛かって来たエドガーの頭(こうべ)を、肩の上に乗せて彼は。
「この方が…良く、眠れる……」
「セッツァー、でも……──」
「いい……から。……この方が、良く眠れる。……そうだろう…?」
 緩く、想い人の躰を抱き締めて、又、目蓋を閉ざした。
 抱き留められたエドガーは。
 暫し、その腕の中で、躊躇いを見せていたが。 
「…………。お休み……」
 『彼がそう望む』なら……と。
 そのまま、薄い毛布の中で、恋人に、身を寄せ直した。

 

「大丈夫、だから。心配しなくても、いい……。お休み、エドガー」
 ──耳元で、静かに呟かれた台詞を子守唄に。
 エドガーは何時しか、眠りに落ちた。
 彼の知らぬ間に。
 開かれていた、紫紺の眼差しの中、で。

  

END

 

 

 

後書きに代えて

 

 病気ネタ、という奴は、どうしてこんなに、ラブリーになるのでしょうね(家のお二人さんが可愛いか否かは、別問題ですが)。
 この、病の幸福、Setzer versionは、純粋に、完璧に、upするの、忘れていたものです……。
 しかし……このセッツァー、優しいですね。
 何時も何時も、色魔な部分ばっかり発揮してないで、常にこうあってくれれば、陛下も、お心(否、お体)お健やかでしょうに(笑)。
 宜しければ、感想など、お待ちしております。

 

 

 

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