final fantasy VI@第三部
『理由(わけ)』
前書きに代えて
Halloween.
管理人、結構好きなんです。フィガロでは、Halloweenではなく、万聖節ですが(マイ設定炸裂)。
なのでまあ、その記念に(笑)。
第三部のお話です。一寸だけ、『今日の陛下』に関わりあいがあるお話。
では、どうぞ。
とかく、女性と云うものは……否……こう云う表現の仕方を用いると、反感を買ってしまうかも知れないので、訂正してみよう。
世の女性は、『比較的』、占い、と云うものを贔屓にする。
その現象は、ここ、フィガロでも例外ではない。
女学生やOLさん達の間では評判の、占い館、なんてものも、若者達の集まる繁華街の片隅にはちゃあんとあって、その店は、週末ともなると大抵、長蛇の列が出来ており、一寸した「名物」と化している。
恋人に付き合って、その列に並ばされている男性陣の、引き攣った様な、げんなりとした様な横顔も、別の意味での名物だが。
その日は。
年に一度の、万聖節の日だった。
この国では、祭神、バァルの化身と云う伝説を持つ、バハムートの生誕を祭る日であるのは周知の通りだが、元々、十月三十一日の夜は、全世界的に、神秘的な出来事が起こり易い、と云う逸話なんかもあったりするので、今、巷で評判の『占い館』も、普段以上の繁昌振りを発揮する。
……で。
その、神秘的な出来事が良く起こる、と云われている十月三十一日の昼間。
よーく当たると評判の、その占い館で順番を待つ列の中に。
マッシュとティナの姿があった。
ティナ嬢が、女史と呼ばれるに相応しい、博学の持ち主であっても。
彼女も又、一人の若くて麗しい女性、しかも、恋する女性であるので。
ま、占いに興味を示してみたくなる時も、あるのだろう。
だから彼女は、恋人であるマッシュを伴って、自分達の恋の行方……なーんてものを、『占い館の占いオババ』に、占って貰った。
求めた占いの結果は、かなり上々で、その後のデートタイムを、彼女は至極御機嫌、で過ごしたのだが。
付き合った片割れ、マッシュは。
その夜、寝床の中に潜るまで、少々複雑な心境のまま、時を過ごす事になった。
──何故なら。
水晶球を用いた、ティナ嬢の恋占いが終わった後。
徐に、じっとーーーーーー…………と、己の顔を覗き込んだ占いオババに。
「あんた、気を付けた方がいいよ。不吉な相が、顔に出てる。……今夜は特に、万聖節だしねえ。……不憫だねえ、人生、苦労の連続で」
……と。
一寸ばかり、謎めいた一言を洩らされたからだ。
老婆が、何を云っているのか、マッシュには理解不能だったけれど、心の底から同情している様なその顔と声音に、さすがに不安を覚えてしまったのだが。
が、所詮、彼は彼。
『あんな』性格ではあるから。
細かい事を気にして、何時までもウジウジしている男ではない。
潜り込んだベッドの中で、訪れた睡魔と仲良くなる頃には、そんな不安など、記憶の彼方へと投げ捨てて、マッシュは、安らかに眠りの世界へと落ちて行った。
だが。
何時も何時も、健康優良児の見本の如く、穏やかな眠りを過ごす彼も。
不気味な占いオババの不吉な予言を聞いた所為か、普段なら見もしない──と云うか、記憶に留められない──夢を見た。
……いや、決して、『悪夢』だった訳ではない。
懐かしい女(ひと)が出て来る夢だ。
青春の一時、仕官学校時代を共に過ごした悪友、ダリルの夢。
あの、一年戦争で、故人、となってしまった女性。
自身の悪友の中でも、際たる人物である『あの』セッツァーを、弟の様に扱って、何時も、ケラケラと楽しんでいた彼女。
そんなダリルの出て来る夢を、マッシュは見た。
夢の中で彼女は、生前と変わらぬ姿で話し掛けて来て。
友人達の事を色々と尋ね。
それは楽しそうに、声を挙げて笑っていたのだけれど。
繰り広げられていた会話が、彼女が『特に』可愛がったセッツァーの近況に至った時。
顔色が、さあっと変わった。
『あんたの兄さんが、あいつの恋人……ですって……?』
「う、うん、まあ……──」
──如何な、夢、とは云え。
生前の彼女に、一度足りとも頭が上がらなかったマッシュは、告げてしまった事実を、どもりながら肯定する。
『……ホモ…って事? あいつが、ホモになったって事っっ? あたしの弟分が、よりにもよって、ホモ! になったって事、それってっ?! どう云う事なのっっっ』
「いや、どう云う事って云われても……」
『しかも、相手があんたの兄さんっっ? あんた、何やってたのよっっ。あんたが付いていながら、どうしてそんな事になってるのよっっっっ』
「あの……その……」
『じょーーーーーっっっだんじゃないわ、ホモなんてっっ。あんたの兄さんったら、あれでしょ? あれっ! あれと、セッツァーが、ですって? いい男が、いい男と引っ付いてどーすんのよっ。そんな、勿体ないっっ。女の立場がないじゃないのさっっ』
ごにょごにょ、もぞもぞ。
現実は、どう繕ってみても現実であるので、エキサイトし続けるダリルの弁を、マッシュは否定出来なかった。
そして、その、否定出来ないマッシュの態度が、又、ダリルの怒りを煽って。
ぎゃいのぎゃいの、散々喚き散らした後、夢の中でダリルは、すっく、と立ち上がった。
『仕官学校の頃から、ずーーーーーーっと、「可愛がって」やった恩も忘れてっっ。あんな禄でもない性格した男、恋愛対象には絶対したくないけど、ビジュアルだけはいいからっっ。連れて歩くにはもってこいだったのよっっ。それが……それが……ホモ! ですってえええええっっっ。弟みたいに可愛がった奴が、ホモっ! 嫌ーーーーーーーっ。絶対、許せないっっっ。あたしは、ホモの素質バリバリの男を、連れて歩いてたって云うのっっ? 冗談でしょっっ』
「あ、あの、ダリル……。その……。庇う訳じゃないけど、セッツァーも兄貴も、別に、根っからの同性愛者だって訳じゃ……」
『んな事、どうだっていいのよっ。問題は、事実なのよっっ。生涯賭けた愛だか何だか知らないけど、ホモはホモなのよっっ。──マッシュっ!!』
立ち上がり、演説をぶった後。
彼女は、強く握り拳を固めて、マッシュを呼んだ。
「……何だよ……」
『阻止、しなさいよ、あんた。今からでも遅くないわ。ぶち壊しちゃいなさい、そんなんっっ』
「そ、阻止ぃ?」
『そうよっ。二人の仲、壊すのよっっ。あんただって、自分の兄さんがホモだなんて、冗談じゃないでしょっっ。邪魔しなさいよっ。別れさすのよっっ。あたしはね、生前、顔がいいからって理由だけで、ホモを連れて歩いてた、なんて過去は、お墓入った後でも、抱えたくないのよーーーっ!』
「でも、別れさせろって云われたって……──」
『どうとでもなるでしょっっ。いーい? あんたの責任で、ぜっっっっったいに、何とかしなさいよっっ。あたしの輝かしかった生涯に、泥を塗らないで頂戴っっ。失敗したら……──』
「……したら……?」
怯えるマッシュに。
彼女は、今は鬼籍に入ってしまった人物に相応しい、にったぁぁぁ……と、やたらと迫力のある笑みを湛えた。
『祟る、からね』
「た、祟るぅぅ?」
──だが、幸か不幸か。
ダリルが、そんな不吉な一言を言い残した所で。
マッシュの夢は、終わった。
「うっっっわっっっっっ!」
凄まじい、ダリルの笑みを、鮮明に記憶に留めたまま。
マッシュが夢から目覚めたのは、未だ、日の明け切らぬ頃だった。
がばりと起き上がり、じっとー……と、シーツを濡らす程掻いた冷や汗を拭って、ぼう……としたまま彼は、ベットヘッドにある、灯りのスイッチへと手を伸ばす。
正確な時間が、知りたかった。
余り、良いとは言えない夢見を振り払う為に、もう一度、寝直すだけの時間があるのかを確かめたかったのだが。
うっすらと、カーテンの隙間から射して来た、朝の光の方へと、起き上がった姿勢のまま、彼が視線を泳がせた時。
そこには、生前と変わらぬ姿をした、ダリルの幻影が佇んでいた。
「──────っっっ!」
そんな幻を見つけてしまって、ずさっっっと、マッシュはベッドの上を、猛烈なスピードで後ずさる。
血の気を失った顔色をしながらも、目線を外す事の出来ないダリルの幻影は。
隙間から射し込む朝日が強まると同時に、綺麗な微笑みを残して、消えて行った。
摩訶不思議な出来事が、当たり前の様に起こる、と云うこの夜。
マッシュの見た夢が、何だったのか、の審議はさておき。
次いでに、早朝の淡い光の中、見てしまった幻が、本当に幻だったのか、の審議もさておき。
夢が覚める瞬間、ダリルが言い残した、
『祟る、からね』
と云う一言は、随分と長い間、マッシュの脳裏にこびり着いて離れなかった。
だから。
壮絶な決意を以て、うん、と自分に言い聞かせた彼は。
それから数日後、携帯電話を取り上げ、セッツァーの番号をコールすると。
明日、合コンに付き合わないか、と切り出したのだった。
彼の顔を覗き込んで、不吉な相が出ている、と告げた、占い館の占いオババの予言は、あながち、嘘ではなかったのかも知れない。
不可思議な夜、見てしまった女性の夢と、幻影に突き動かされて掛けてしまった一本の電話の所為で。
彼が又、要らぬ苦労を背負い込んだ事だけは、確かだから。
END
後書きに代えて
親愛なる弟君、マッシュ殿下へ。
……合掌(笑)。
愛してるんですけどねえ、マッシュの事も。タダでさえ不幸な彼を、私は益々不幸に陥れています。可哀想に……(違)。
さて、このダリルさんは、幻でしょうか、現実でしょうか(笑)。
宜しければ、感想など、お待ちしております。