Final Fantasy VI@parallel

『黄金(こがね)の海』

 

前書きに代えて

 

 この話は、読後、読んでしまったことを後悔される方が、もしかしたらおられるかも知れないと思います。
 ご注意を。
 後悔すると言いましても、死にネタとか、そーゆーのではありません。
 因みに、現代パラレル。
 原典では、エドガーさんは国王陛下でセッツァーさんはギャンブラーですが、その系統のことは、いっっっさい、忘れて下さい。

 それでは、どうぞ。『黄金の海』。

 

 

 土埃を立てる、茶色い大地の上に、彼等は向き合い、立っていた。
 向き合い立ち、見つめ合い、彼等は互い、決意を胸に秘めたように。
 唇を、真一文字に結んでいた。
 そんな二人へ、荒削りな丸太と有刺鉄線で作られた柵の向こうから、フィガロ砂漠を渡る風が強く吹き付けて、双方の長い髪は激しく舞い上げられ、言葉よりも雄弁に何かを物語っている強い光宿る瞳も、キッと結ばれた口許も、まばらに覆い隠した。
 ──佇む彼等へと、ぶつかるように吹き付ける、砂漠の彼方に広がる海の向こうからここまで、消えることなくやって来る強い風には、砂漠の黄砂が含まれていて。
 けれど。
 黄砂が含まれていることよりも、その風に、微か、飼料や堆肥の臭いが漂っていることの方が、そのように佇んでいる彼等にとっては遥かに問題ではなかろうかと思えるそれに、長い髪を巻き上げられても。
 乱れる髪、漂い、周囲を満たす飼料や堆肥の臭い、それらを微塵も気に留めることなく、黙りこくった、農作業着で身を包んでいる二人は、情熱的に視線を交わし続けた。


 誠に、自然溢れる臭いの中に佇み続ける彼等──片方はセッツァー・ギャビアーニという名を持ち、片方はエドガー・ロニ・フィガロという名を持つ二人は、この農学校の、三年生だ。
 そしてもう間もなく彼等は、三年間を過ごした農学校の学び舎を、無事卒業する。
 その名が示す通り、セッツァーは男子生徒であり、エドガーも又、男子生徒だ。
 ────彼等が三年へと進級した年の夏──即ち、今を遡ること数ヶ月前、フィガロ王国の、首都フィガロを襲った暴風雨が、彼等の通う農学校の農場や牧場をも襲い、入学してより三年間、研究に研究を重ね、交配を繰り返し、三年を月日を得てやっと畑に植えること叶えた、エドガーの『力作』である新種の小麦を全滅させ掛けた際。
 真夜中だと言うのに、やれ、育てている豚が溺れるだとか、鶏や牛が飛ばされるだとか、私の稲がああああ! とか叫びながら、わらわらわらわら、学内施設に溢れ返った生徒や教員達同様、エドガーも又、己の大事な小麦畑へ走って、身を呈して小麦達を守り、その時。
 何時も何時も、入学してからずうっと、顔を合わせる度に、「お前みたいな優男に、農業なんか出来るのか」と、エドガーをからかい続けたセッツァーが、小麦の穂を庇い続けるエドガーに手を貸す、という出来事が起こった。
 故に、それ以来、二人の関係は好転して、好転するだけなら良かったのに、何処で何をどう間違ったんだか、犬猿の仲から一転、仲良し二人組になって、挙げ句の果て、彼等は、互いが互いに、恋してしまった。
 ……ま、恋愛などという物は所詮、当人同士が良ければそれで良いです、が基本と言えば基本なので、多くは語らない。
 兎に角、二人はそんなことになったのだ。
 そうして、後数日も経てば卒業式を迎える、と相成った、晴れ渡った春の某日。
 決意を胸に秘め。
 当人達的には、悲壮、とも言える覚悟と共に。
 牧場と農園に挟まれているが故に、『香しい』臭い漂う『農道』で、セッツァーとエドガーの二人は、情熱的に見つめ合い。


「………………エドガー」
 長らく続いた、熱帯びた視線の絡み合いを経て。
 徐に、セッツァーがエドガーを呼んだ。
「……何?」
 誠に農学校らしい風薫る中、重々しい声を絞ったセッツァーへ、それに相応しいだけの緊張に満たされた応えを、エドガーも返した。
「これを、受け取って欲しいんだ」
 己の呼び掛けに応えが返るのを待って。
 セッツァーは、農道の傍らに植わっている木の影から、何やら巨大な物を引きずり出して来て、ずいずい! ……と。
 エドガーの前に差し出す。
「…………セッツァー、それは?」
「俺が、この三年間、心血注いで育てて来た、新種の菊だ。やっとこの間、ビニールハウスの中で咲いてくれた一輪目だ。……だから、これを受け取ってくれ、エドガー! 俺はお前が好きなんだ!」
 ぐいぃ、と差し出された巨大なそれは、一抱え以上もある、重たい陶器の鉢植えで、そこには、見事、と言うよりは、デカイ、と例えた方が相応しい丈を持ち、その丈に相応な大きさをした『立派』な花が、茎に巻かれた幾重もの針金に支えられる形で咲いている、大輪にも程があるだろう、と、一般的な感覚の上では言ってみたくなる、黄色い菊が植わっていて。
 巨……──見事、な菊の花を見つめながら、エドガーは、それは何だと問い、問われたセッツァーは、愛の証として、己が造り上げたこの菊を受け取って欲しいと、大声で告白をした。
「……そう。……有り難う、セッツァー。凄く……、凄く嬉しい……」
 ──くどいようではあるが。
 あくまでも、一般的な感覚として語るなら、そんな花と共に、しかも同性から愛の告白をされた日には、全速力で、五百メートルは後退したくなるのが通常の反応ではないかと思われるが。
 エドガーは、何処までも真っ直ぐセッツァーを見上げて、頬を赤らめ、心底嬉しそうに。
 その細腕の一体何処にそんな力が、と言いたくなる程、ヒョイっ、と簡単に、セッツァーの手からそれを受け取って、頬擦りせんばかりに抱き締めた。
「受け取ってくれるのか……? ……有り難う、エドガー。──聞いてくれ、その花の名前を俺は、『スイート・エドガー』と名付けたんだ!」
 贈り物も、告白も、退けることなくエドガーが受け取ったので、セッツァーも又、興奮したようになり。
 彼は、急くような調子で、その菊の名前を告げる。
「……えっ……? 君がその手で造り上げたこの菊に、私なんかの名前を付けて、いいのかい……?」
 菊に付けられた、『スイート・エドガー』なる名を知って、エドガーは益々、頬の赤味を増した。
「いいんだ。お前に捧げる為に、俺はこれを完成させたんだっ」
 すればセッツァーは、照れた風に、わざとらしくエドガーから視線を外し。
「…………セッツァー……。──……ああ、そうだ……。私も……」
 感激の余り、うるっと目許を潤ませてしまい、慌ててエドガーは、どうしようもなく重たい筈の鉢植えを片手で抱え直して、空いた片手で瞳を拭い。
 私も、と。
 そう言って、作業着のポケットに手を突っ込んだ。
 そして彼は、セッツァーへと、やけに可愛らしい紙袋の口を、やけにラブリーなリボンで結んだ物を手渡す。
「…………これは?」
「私が交配に交配を重ねた、新種の小麦の種。……暴風雨の時に、君が守ってくれた小麦の種だよ。交配を始めて三代目の子なんだ。台風の被害さえ受けなければ、ジャングルかと見紛うくらい、それはそれは『立派』に繁殖する、『逞しい』種でね。手前味噌だけど、素晴らしいんだ、本当に。……だから、君に受け取って欲しい」
 手渡されたそれを、不思議そうにセッツァーが見遣れば、エドガーは中身の正体を語って。
「私も君が、好きだからっ!」
 叫ぶように、己からの告白を果たした。
「……間違いなく、疑いようもなく、両想いなんだな? 俺達は……」
 だからセッツァーは、感慨深く、手の中の、新種の小麦の種入り紙袋を握り。
「ああ。──……セッツァー? ……実は私も、その小麦に、名前を付けてあるんだ」
「…………どんな?」
「……怒らない……?」
「怒ったりする訳がないだろう?」
「…………その。『ゴールデン・セッツァー』っていう名前にしたんだ」
「……エドガー……。お前の小麦に、俺の名前を…………」
 本当に本当に恥ずかしそうに、エドガーは、その小麦の名前を告げて、セッツァーは、感激の握り拳を固めた。
「……エドガー」
「……ん?」
「俺は、このフィガロが、もっと緑豊かになるように、そう思って、『スイート・エドガー』を作ったんだ」
「……私もだよ、セッツァー。砂漠の多いフィガロでも立派に育つ強い小麦を、そう考えて、『ゴールデン・セッツァー』を交配したんだ」
「…………そうか。俺達、思うことは一緒だったんだな」
「ああ。育てる種こそ違え、私達の目指している処は一緒なんだ」
「……なら。これからも。共に手を取り合って、農業の道を進んで行こう、エドガー!」
「そうだね、セッツァー。君の『スイート・エドガー』と、私の『ゴールデン・セッツァー』で、このフィガロの大地を、黄金色に変えよう!」
 ────そうして、彼等は。
 互いが互いに注ぐ愛と、目指す道の先を確かめ、手と手を結び合い、どうしようもなく情熱的に見つめ合って。
 祖国・フィガロの大地を、何時の日か、巨大な菊、『スイート・エドガー』と、逞し過ぎる程に繁殖する小麦、『ゴールデン・セッツァー』で、黄金の海と見紛うばかりに埋め尽くすことを心に決め、その願いを成就させるべく、愛を支えに生きて行こうと誓い合った。

 

End

 

 

 

後書きに代えて

 

 読み終えて、後悔為さった方は、挙手して下さい(笑)。
 ……書いてて、余りの設定に、頭痛くなるかと思った……(笑)。
 ──セツエド同盟のチャットお題、『学園パラレル』の為に書こうかと思って止めた、農学校設定、なお話。
 これを本当に投稿したら、槍投げられそうなので止めときます(笑)。
 因みに、『スイート・エドガー』は我が友の命名。
 『ゴールデン・セッツァー』は私の命名(笑)。
 ──皆様に、お楽しみ頂ければ幸いです。

 

 

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