final fantasy VI

『Zero』

 

 管理人の海野です。
 お陰様で当サイトも、三周年を迎える事が出来ました。
 皆様、有り難うございます。
 さて、この度皆様に御協力頂きました、三周年&50000hit記念の、アンケート小説が出来上がりましたので、お届け致します。
 それでは、どうぞ。
 今後とも、Duendeを御贔屓に、宜しくお願い致します。

 

 

 

 

 全てが、終わる。
 誰もが皆、そう思い。
 ──何も彼も、終わらせる。
 終止符を打ち、冥(くら)い世界を塗り替え。
 かつての日々を、取り戻してみせる。
 …………誰もが皆、そう、誓った。
 だから、こうしている。
 自分も、仲間達も、彼、も。
 今日が終わり、夜が終えれば。
 決戦の地へと旅立つ時は、やって来て。
 未だ見ぬ、あの地で。
 全ては、終わる。
 『何か』を、犠牲にするかも知れないけれど。
 全てのこと、は。
 

 

 明日。
 この世の覇者を目指している、魔導師ケフカの在る地、瓦礫の塔へ乗り込もうと、この、長い冒険の旅路を過ごして来た彼等は、決めていたから。
 決戦を控えたその夜、飛空艇を降り、大地に足を付け、人々は、唯一人を除き、宿屋でのんびりした時間を過ごしていた。
 ある者は、湯殿で寛ぎの時間を過ごし、ある者は、酒場で酒精と戯れ。
 ある者は語り合い、ある者は一人静かに、瞑想に耽り。
 月も星も眠りそうな、夜更け。
 柔らかな寝床にて彼等は、幸福な時を過ごしていたが。
 穏やかな夜を過ごすこと叶わなかった、唯一人の人物、エドガーは。
 夜着に着替えもせず、軽装のまま、宿の外、石造りの壁に凭れて、月を見上げていた。
 ──明日が来たり来れば。
 全てが、終わる。
 全てのことの、決着がつく。
 それは、望んだ未来で。
 確かに、自ら、手を伸ばしたことだけれど、と。
 美しく輝く真円を見遣り、彼は溜息を付いた。
 明日に、なれば。
 正か負か、それは判らないけれど、確実に未来は変わるから。
 どうしても、エドガーは、落ち着き、と云うものを、得られずにいた。
 これまでにない、最大の戦いが、明日には控えている。
 もしかしたら。
 …………ああ、考えたくもないけれど。
 その戦いの最中、『誰か』が命を落とすかも知れない。
 己が、命を落とすかも知れない。
 皆、揃って、無事に。
 『世界』へと舞い戻る、確信はあるけれど。
 誰かを失うかも知れない、己を失うかも知れない、その可能性は、zeroではないから。
 落ち着くことなど、彼には出来なかった。
 ──彼が。
 『誰か』を失うこと、己を失うこと、それを『恐れる』理由は、一つある。
 この、長い旅路の果てに得た……いや、得てしまった、愛しい人、と云う存在が、その理由だ。
 あの人の為に、『世界』を取り戻したい、と思う程。
 その存在の為だけに、かつての日々を取り戻したい、と願う程、彼にとって、その存在は、唯一無二だった。
 この戦いに赴くと決めた時から、死など覚悟していた彼が。
 『彼』だけは失いたくないと思う程、『彼』の為に己を失いたくないと思う程。
 その彼、は。
 ──だから、明日を控えた今、エドガーは少しばかり、心の均衡を欠き、こうしていると云うのに。
 遠くから響く……多分、エドガーが寝台にいないことに気付き、探しているらしき足音の主だろう、エドガーの唯一無二は。
 決してzeroではない可能性には、僅かも思い至らぬのか、飄々と、常のように、今宵を過ごしていたから。
 それでなくとも欠かれている心の均衡は、益々バランスを崩して、エドガーは一人、軽装のまま、宿屋の裏手の寂れた場所で、月を慰みにしていたのに。
 愛しい存在の立てる足音は、迷うこともなく、近付いて来て。
 少しばかり、強張った顔をしながら彼は、月から眼差しを逸らし、『存在』を振り返った。
「……何してる?」
 振り返った彼に、夜着にコートを引っ掛けた姿の、セッツァーと云う名の『存在』は云う。
「…ぼうっとしてた」
 強張った顔に、ぎこちない笑みを、エドガーは浮かべた。
「なら……。ぼうっとしながら、何、考えてやがった?」
 肩より流れる、銀の長髪を、さらりとセッツァーは掻き上げて、その手を、エドガーへも伸ばし、寄り添うように、並び立った。
「別、に…………」
 己の髪を掻き上げたのと同じ要領で、ほつれ毛を正してくれた恋人に、少しだけ、エドガーは身を凭れ掛けさせた。
「何かに怯えてやがるのに? 何も、考えてなかったってか?」
「怯えてなんか……」
「本当に?」
「…………私は、唯………君を失いたくないだけだ…………」
 エドガーと同じく、石造りの壁に背を預け。
 淡々と質問を繰り返したセッツァーに、やがて、エドガーは僅かだけ、胸中を語った。
「…お前、そんなことに、怯えてたのか? 失う、なんて。考えてみたって始まらない。人間なんて何時だって、何も持っちゃいない。zeroから始まるんだ、誰だってな。失ったら又、掴めばいい。違うか?」
 ──言葉を聞き止め。
 言葉を吐き出した恋人の肩を抱き。
 くすり、セッツァーは笑った。
「お前を失いそうになったら、俺は又、手を伸ばすだけだ。例えお前が、あの世へ逝こうとしても。取り戻す、それだけだ。だからお前も、そうすればいい」
「…………君のような男には、ね。多分、私のこの気持ちは、判らない。前だけを見て進んで行く、君みたいな男には。……でも、私は。今まで、ずっと、zeroだったから。『振り返って』ばかりいたから、ね。前向きになんてなれないし、漸く得た君を失うなんて、考えたくもないし考えられない。失ったら取り戻せばいい、だなんて……思い至らない……」
 廻された、片腕の中に収まり。
 セッツァーから瞳を逸らして、エドガーは俯いた。
「信じればいいだろう? 俺と、自分を」
 閉じ込めた腕を解き、両手を恋人の頬へ添え、下向いてしまった面を、セッツァーは上げさせる。
「そう云う問題じゃない……。そう云う次元の話、じゃないんだ……」
「じゃあ、何だ?」
「信じるとか信じないとか。……そうじゃない。私の思惑より遥かに隔った場所で、未来が動くかも知れない、それがもう、嫌なんだ。他のことであるならば、怯えもしないし、恐れもしない。何を失(な)くそうと、何を零してしまおうとも、耐えられるし、進める。でも、君だけは…………」
「……中途半端に我が儘だな、お前」
 無理矢理に合わせさせた眼差しを覗けば、嫌そうに瞳を濁して、ぶつぶつ、エドガーが云い募ったから。
 少しばかり、セッツァーは肩を竦めた。
「だから……云ってるだろう? 君には、判らないって。君みたいな男には、多分、汲めない感情だって」
 恋人の取った仕種の中に、理解不能、と云う滲みがあると、そう感じたのだろう。
 エドガーは、頬に添えられたセッツァーの両手を弾いて、その肩を掴み、トン、と石造りの壁に押し付け。
「『何もない世界』でやっと見付けた、初めての存在に傾ける、『子供』の中途半端な我が儘なんて、君には理解出来ない……っ」
 すっと背筋を伸ばし、踵を持ち上げて、セッツァーに『そうされた』時の仕種を真似たかのように、恋人の頬を両手で捕らえ。
 何をされるのか察し、微かに瞳見開いたセッツァーへ、強引な接吻(くちづけ)をエドガーは贈った。
「おい……?」
 吐息の切れ間ごとに放たれる、セッツァーの戸惑いの声に耳も貸さず。
 幾度も角度を変え、互いのそこが音を立てるまで濡らし。
「エド……──」
 名を呼ぼうとした恋人の隙をついて、唇を割り、舌を絡めた。
「……変わらない。明日が来たって明後日が来たって。何も、変わりゃしない」
 濡れた紅い舌を、ぺろりと舐め取りながら去った、同じだけ濡れた唇が、遠のくさまを見送りながら。
 頬を押さえていた手を、首筋に纏わり付かせて来たエドガーに、セッツァーは囁いた。
 …………この世の名残り、とでも云いたげに。
 こうしていられるのは、これが最後だ、とでも云いたげに。
 幾度も施された、そんな風にしか思えない恋人の接吻に向けた、囁きだった。
「浅ましいと思うかい? ……でも、これは確かに今、私の望むもので、望むことだ。君の云う通り、明日が来ようと明後日が来ようと、『世界』は何も変わらないかも知れない。…だけどっ。何も彼もに、明日、決着を着ける、それは、我々の望む未来だ。どのような形であれ、『世界』を変えるのが、我々の望み。変わらないなんて、有り得ない。必ず変わる未来が、私は恐い。……だから…私は今、君が欲しい…………」
 耳朶を震わせた囁きに、エドガーは首を振る。
 きゅっと瞼を瞑り、ふるふると、何かを認めたくない、そんな感じに彼は小刻みに首を振って、セッツァーの頬に、頤に、首筋に、濡れたままある唇を触れさせ。
 夜着の襟元を寛げ、現れた胸元を強く吸った。
 ──彼等がそうしている間も、変わらず注ぎ続けられた真円よりの光の元、セッツァーの胸元に、ポッ……と、鮮やかな薄紅が浮いた。
「……判らない、んだろうね、君には…………」
 自身で色付けた、その薄紅を指でなぞり、哀しそうに笑って、エドカーは俯く。
「本当に、そう思ってるんだったら。お前は俺を、買い被り過ぎてる」
 躰は寄り添わせたまま、心だけを放した恋人を、セッツァーは上向かせた。
 見上げて来た、潤み、揺れる瞳を、掌で撫ぜて閉ざさせ、掠めるように彼は、キスをする。
「この世の最後の名残りになるかも知れない、なんてな。俺はそんな風に考えながら、お前を求めたくないだけだ。──明日が来ようと何も変わらないし、変えるつもりもないし。例え、全てがzeroになろうとも、諦めるつもりもない。……この夜は、特別なものなんかじゃない」
「そう云うことを言うから、買い被るんだよ…」
「そう思いたいだけだ。……それくらい、許されるだろう?」
 『可愛らしい』キスを一つしただけで、近付けた顔を離し、微笑んだ彼に、エドガーは苦笑を向けたが。
 苦味の残るその表情へと返されたものは、深みを増した笑みだった。
「明日になって。『全て』が終わって、そして変わって。俺達の何も彼もが変わらずに終わった時に、又、お前から誘ってくれ」
 首筋に絡み付いたままの、エドガーの手を解かせ、刹那、強く抱き締め、戻ろう、とセッツァーは促す。
「何も失(な)くならない。zeroにはならない。大丈夫だから。又、明日……な?」
 恐れていることなど、何一つも起こりはしない、そんな想いを込めて添えられた掌を布越しに感じて、その温もりに背を押され、zeroでない明日に向かい、エドガーは歩き出した。

 

End

 

 

 

 

 御協力頂きましたアンケートにて、最も得票が多かった、『積極エドに翻弄されるセツ』、を書かせて頂いたつもりなんですが。
 セッツァー、翻弄されてないし……(遠い目/いや、その。これを書き出してから書き終えるまで、リクの中に、翻弄されるセツ、と云うキーワードがあった事、ころっと忘れていたなんて…ええ、云いませんとも……)。
 三周年と50000hitの記念企画物小説なので、エロも、かなり薄味です(汗)。
 あー……投票して下さった皆様、管理人、リベンジは必要ですか……?
 尚、この小説は、お持ち帰り&転載OKにしようかと思っていたのですが、余り、意味のない事かも知れない、と考え直しました。ので、ここでお披露目。
 ですがもしも、持ち帰りたい、転載したい、と思われる方がいらっしゃいましたら、掲示板で御連絡下さい。

 それでは皆様、宜しければ御感想など、お待ちしております。

   

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