final fantasy VI

幸福の果実』

 

 

 このお話は。
 『Duende』の、キリ番カウンター『111』を踏んで下さった、『るり』さんに捧げます。
 リクエスト、どうも有り難うございました。

 

 

 

 

 洋の東西。
 様々な国の様々な物が、船で運ばれ、やはり、様々な人種の集まる賑やかな市場で、威勢の良いやり取りと供に手と手を行き来する場所。
 港町、ニケア。
 海を見渡せるパブの前に、無造作に置かれた木箱に並んで腰掛けて、今、セッツァーとエドガーが、船着場へと続く石段の方を、じっと見つめていた。
「…どっちにする?」
「んー………。さっきは君が男だったから…男」
「じゃあ、俺は女」
 石段の頂上に注がれる二人の視線は、真剣そのもの。
 そしてその真剣な眼差しは、市場へと続く階段から頭を覗かせた一人の人間に集中する。
「…フフ…。俺の勝ちだ」
「奇怪しいなぁ……。確率は、二分の一。そうそう、君ばかりがツイているとは思えないんだけどなあ…」
 石段を登って来たのは、潮風が、スカートの裾を舞い上げるのを押さえながら歩く女性で。
 そんな彼女の姿に、セッツァーはしてやったり、と云った笑みを浮かべ、エドガーは、納得いかない、と云った顔を作った。
 どうやら二人は。
 次に石段を登って来る人物が、男か女か、と云う、最も原始的な賭の勝負をしている様だ。
 さて、彼等は何を賭けているのだろう。


 そもそもの発端は。
 市場を仲間達と散策している時の、カイエンの呟きだった。
 色とりどりの果実を店先一杯に並べていた、露天商。
 その店先で、サムライはふと、足を止めた。
「随分と珍しい物があるでござるな」
 彼はそう云って、一つの果実に手を伸ばす。
 ニケアの辺りでは確かに、余り見ない類の物だった。
「なあに?」
 ティナが、カイエンが取り上げたそれを、珍しいそうに覗き込んだ。
 二人の仲間が足を止めた所為で、自然、他の仲間達も、歩みを止める事になる。
「ティナ殿は知らないでござるか。…これは『石榴』と云うでござるよ」
「…ザクロ?」
「そうでござる。ドマの辺りでは、珍しくも何ともないでござるが」
 そう云って、カイエンは、更に石榴の説明を、ティナにしようとした。
「おーい、置いてくぞ?どうした?」
 彼の講釈を阻んだのはセッツァー。
 そして彼も又、カイエンの手の中の果実を見遣る。
 セッツァーの後ろから、ひょいっと首を伸ばした、エドガーも。
「美味そうじゃねえか」
「石榴か。私も、食べた事はないな、そう言えば」
「おや、誰もこれを食べた事が無いでござるか?結構、イケるでござるよ?」
 チャリン、と、露天商の老人に小銭を払って、カイエンは石榴を半分に割った。
「どんな味がするの?」
「…東方では、人食い鬼の女に、神が人肉の代わりに与えたと云う伝承がござって。…だから……──」
「人の味がするってのか?…悪趣味な話だな、おい…」
 東方に伝わる伝説を聞いて、セッツァーは思い切り顔を顰める。
「はははは。そんなのは、唯の伝説でござる。何方かと言えば、甘酸っぱいでござるかな。それにこれは、ドマの辺りでは、食べると幸福になると言われているでござる」
 割った果実の片方を、如何かな?と、ティナに渡し、カイエンは再び歩き出した。
「…私も買ってみようかな。…セッツァー、どうだ?君も一つ」
「あんな話聞いて、良く食う気になるな、お前…」
 フム…と、露天の果実を眺めて腕を組んで、エドガーが云ったが、セッツァーは嫌な顔をする。
「まあ、いいじゃないか。珍しい物だし。…それに、幸福になれるんだろう?旅の縁起を担ぐには、いい話だ」
「お前がそう云うならな、まあな」
「じゃ、決まり」
 しょうがねえな、と、結局は紺碧の瞳をした人にセッツァーは折れて、頷いた。
 勝てる筈もないか、と、内心で苦笑しながら。
 どんな些細な事だって、彼に言われたら、あっさりと折れてしまいそうな程、自分はこの男にベタ惚れなのだから、しょうがない。
 だが。
「……一寸待った、エドガー」
 懐から財布を取り出そうとしたエドガーに、セッツァーは待ったを掛けた。
 何時も何時も、唯、すんなりと折れていたのでは、面白くも何ともない。
「ん?」
「どうせなら、もっと、面白い事をしてからの方がいいだろう?俺と、賭、しようぜ。俺が勝ったら、俺もお前にそれを買って貰う。お前が勝ったら、俺がそれを買ってやる。…たまにはどうだ?こう云うお遊び」
「賭……ねえ……」
 申し出にエドガーは、かなり、不服そうな顔をした。
「気に入らないって、顔だな?」
「嫌じゃないけど?ギャンブルは君の方に、一日の長があるからなあ。何で勝負を決めるんだい?…カード…コイン…ダイス…。…うーん……どれも、イカサマされそうだ」
「負けず嫌いだなー、お前も。…じゃあ、こうしようぜ…。…っと……何処がいいかな…」
 カードもコインもダイスもどれもこれも、イカサマで勝ちを収められそうで嫌だ、と、エドガーがそう云うから、セッツァーは笑って、キョロッと辺りを見回した。
 不意に、ニヤッと彼は笑って、船着場への石段を指さす。
「あそこから、次に登って来る奴が男か女か。…それで賭けようぜ?なら、イカサマの仕様もないだろ?」
「そう云う事なら、乗った」
 露天を離れて、石段が良く見えるパブの前の木箱に、二人は腰を下ろした。
「じゃあ…そうだな。先ず、俺は男に賭ける」
「なら、私は女」
 彼等は、行き交う船の乗客や船員でごった返す船着場へと、顔を向けた。
 暫しの時を隔てて。
 賭けの軍配は、セッツァーに上がった。
 石段を登って来た、数人の船員を認めて、唯、エドガーは肩を竦める。
「常勝無敗のギャンブラーは、運も一級って事かな」
「さあてな?……ま、お前が納得行かないってなら、未だ、続けてもいいが?」
「うー………。じゃあ、もう一勝負」
「そうこなくっちゃ、詰まらねえ」
 少しだけ悔しそうな顔をしたエドガーに、ニヤッと、セッツァーは笑ってやった。


 ──そうこうする内に、もう、小一時間程、彼等は賭けを続けていた。
 キャラキャラと、目の前のアクセサリー屋をひやかしていた女達の声も、少しずつ、減り出してくる。
 仲間達は皆、宿屋に戻ると云って、市場を去った。
 夕暮れも、近い。
「悔しい。納得行かない。どうして、こんな単純な博打に、勝てないんだ」
 いい加減、ムスっとした表情を、エドガーは浮かべて、チロっとセッツァーを睨み付けた。
 一度も勝てないまま、どうも勝負を、終わりにしなくてはならない。
 それが彼は、納得出来なさそうだった。
「ふ……ふはははははは……。まーだ、気付かねえのか?お前」
 拗ねた様なその顔が、夕日に映えて、綺麗で可愛くて、腹を抱えて、セッツァーは大笑いをした。
「は?」
 きょとんとして、エドガーは首を傾げる。
 何に気付かないと云い、何を目の前の人は笑うのか、と。
「ほら、あれ」
 笑いながら、セッツァーは、斜め前に開かれている──だが、もう店仕舞いを始めたアクセサリー屋を指さした。
 示された指の先を、瞳を凝らしてエドガーは見つめる。
「……あ。……ああああっ!イカサマじゃないか、セッツァーっ!」
 女達がひやかしていたその店先、身につけるアクセサリーがその肌に映えるかどうか、彼女達が確かめる為に、鏡が片隅に置かれていて。
 丁度それは、上手い具合に、石段を登る人々を映していた。
「イカサマ抜きだ、なんてなあ、通らないぜ?」
 鏡の存在に気付かず、一時間、どうして勝てないのかと、首を捻り続けていた相手に、セッツァーは笑いを止められない。
「それはそうだけど……。あ、何となく……腹が立った」
 何も彼も判っていてその場所を賭けに選んだセッツァーと、それにうかうか乗ってしまった自分と、消えない笑いに、少しだけ腹を立てて、がたりと、エドガーは立ち上がった。
「……本当にもう……っ。もう二度と、君と賭けはしないっ」
「まあまあ…。そう怒るなって。ちょいと、からかいの度が過ぎちまったな。詫びに、例のあれ、俺が買って来てやるから」
 腕を引いて、もう一度エドガーをセッツァーは座らせた。
「…多分…もうね、店仕舞いしてしまったんじゃ?私が君のイカサマ賭博に引っかけられている内に」
 ムッとしたまま、エドガーはそう云う。
 お目当ての物が買えないんじゃ、本末転倒もいい所じゃないかと、ブツブツ、文句を零しながら。
「平気だって。未だじいさん、いるじゃないか」
 少し、からかい過ぎてしまったその人を宥める様に、セッツァーは立ち上がって露天へと駆けると、石榴の果実を一つ求め、パブの前に戻って来た。
「ほらよ」
 ポン、と投げてやれば、エドガーは慌ててそれを受け取って、渋々だけど、と、そんなポーズで、漸く機嫌を直した。
 カイエンがそうした様に、ぱきりとそれを割り、片方をセッツァーに返し、あれ?と、エドガーはふと、眉を顰めた。
「どうした?」
「でも…それにしても、変じゃないか?幾ら鏡で登ってくる人が先に判ったからって、正解を私が云う可能性だって、あった筈なのに」
 イカサマだと判っても、どうしても消えない疑問が、エドガーに残った。
「そんな事は、決まってるじゃねえか。……俺が人目を盗んで、こっそりお前にキスした分だけ、お前が正解を云ったって事さ」
 シャリッと、分け合った確かに甘くて酸っぱい果実を齧って、セッツァーはウインクを一つ、して見せた。
「…やっぱりもう、君と賭けはしない事にするよ」
 返答に、呆れたのかエドガーは立ち上がって、宿屋へと歩き出した。
 少しだけ進んで、彼は振り返る。
 夕日が眩しくて、セッツァーからは良く見えなかったけれど、彼は微笑んでいる様だった。



 翌日、ニケア。
 今度は宿屋へと続く石段の下で。
 もう二度と賭けはしないと云った舌の根も乾かぬ内に、エドガーはセッツァーを捕まえて、昨日と同じ賭けをしていた。
「イカサマは抜きだ。今度は、負けないよ」
 悪戯っ子の様に彼はそう云って笑って、セッツァーを賭けに誘った。
 ──その日、勝者が手にする物が何かは、彼等しか知らない。
 そして、再びの賭けの軍配が何方に上がったのかは、面白くなさそうに、銀の髪を掻き上げたセッツァーの顔を見れば一目瞭然と云う物だろう。



 港町で見掛けた、『幸福の果実』。
 この旅の先の幸福の足しに、なるのかは判らないけれど。
 少なくとも、彼等に、一時の幸福はもたらしてくれたらしい。

 

 

 

 

 

 キリ番をゲットして下さった、るりさんのリクエストにお答えして。
 『幸せで暖かいセツエド』&『勝負師vs王様』(笑)と云う事で。
 海野、書かせて戴きました。
 ちゃんと、リクエストにお答え出来てるかなー……。
 ちと、不安。
 ですが、るりさんからリクエスト戴いた時、真っ先に頭に浮かんでしまったのは、どう云う訳かギャグ調の物だったので……。てへっ♪
 気に入って戴けましたでしょうか、るりさん(はあと)。

 

 

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