final fantasy VI

『今日も明日も』

 

 このお話は。
 『Duende』の、キリ番カウンター『90000』を踏んで下さった、『アツ』さんに捧げます。
 リクエスト、どうも有り難うございました。
 尚、この物語は、リクエストにより、『空を取り戻した日』シリーズの、『第三部設定』に基づいて書かれています。

 

 

 

 

 もしも、神様とやらがこの世界の何処かに居て。
 僕の願いを叶えてくれると言うなら。
 もう二度と、あのムカつく顔を見なくても済むようにして欲しいと願いたくなるくらい、嫌いで嫌いで大嫌いで仕方がないアレと。
 この世界の誰よりも大切な、僕だけのご主人様が、僕と云うモノがありながら、イチャイチャイチャイチャしている所を、何とかでも邪魔してやろうと、夕べもベッドに潜り込んで、ご主人様には愛らしい響きで届くだろう鳴き声で鳴いて。
 物凄い勢いで僕のことを睨んだ害虫の鼻先で、フンっっ! と、これ見よがしにソッポを向いてやったのに。
 今朝になって起きてみたら又、僕の知らない内に、ご主人様と害虫は、どうやったんだか知らないけれど、二人の間に割り込んで寝てやった僕を、目覚めないように退かして、ぴっっっっっ……とりと、寄り添うように寝ていた。
 …………本当に、ムカつく。
 きっと、あの害虫がご主人様に、そうやって寝たいんだとねだったから、優しいあの人はそれを断れなくって、そんなことになったんだろうから、ご主人様に対して、何かをぶちぶち告げてみたい気分にはならないけれど。
 ほんっっっとーーーーーーーー…………にムカつくあの害虫には、ニャンニャンと抗議をするだけじゃなくって、太々しい横っ面を、バリっ! と何度か引っ掻いてやるくらいのことをしなければ、多分、僕の機嫌は治らない。
 …………ああ、本気でムカつく。
 どうしようもなくムカつく。
 どうして、大切なご主人様が存在するこの世界に、あんな害虫も一緒に存在してるんだろう。
 

 

 ────僕は昔、野良猫だった。
 ビルとビルの細い隙間に挟まれて、にゃあにゃあ鳴いている所を、エドガー・ロニ・フィガロ二世って名前の、今の僕のご主人様に拾って貰ったから、僕はもう、野良猫じゃない。
 僕を拾ってくれたご主人様は、このフィガロって国の国王陛下で、とっても偉い人で、お城に僕を連れてってくれて、「野良猫なぞを……」って渋い顔したご主人様の周りの人皆、一生懸命説得して、僕を飼ってくれた。
 とっても狭い隙間から僕を拾い上げて、連れ帰って奇麗にしてくれて、一回ご飯を貰えただけで僕は満足だったのに、ご主人様は僕に、『アニー』って名前をくれて、『愛猫』って言うのにしてくれたから、この世界の誰よりも、僕は御主人様のことが好きで、大好きで、『僕のハニーっ!』とか思ってるのに。
 …………ご主人様には、とっても巨大な『害虫』が引っ付いている。
 その害虫は、何処ぞのパイロットとやらで、本来なら、何処まで行っても例え死んでも、国王陛下であるご主人様の『下僕』以外にはなり得ない筈なのに。
 下僕のくせにあの害虫は、ご主人様よりもでかいツラを、年がら年中晒してる。
 流石にあの害虫も、早々頻繁にはお城の方へやって来はしないけれど、その代わりにと言わんばかりに、しょっちゅう、ご主人様のもう一つの家である『マンション』の方へ顔を出して、僕のご主人様に、べっっっったり、引っ付いている。
 ……それが、僕には腹立たしくてならない。
 害虫風情が、あんなに巨大なツラ晒して、ご主人様の傍にいるのがムカつく。
 自分が、ご主人様の傍にいるのが当然みたいなあの態度も、魂の底から気に入らないし。
 認めたくはないけれど、害虫風情のそんな態度を、ご主人様が許している臭いのも、本当に気に入らない。
 ………………だから。
 僕は、僕と僕の大切なご主人様の、明るく輝く平穏な未来の為に、あの巨大で太々しい害虫を、何とかでも駆除しようと、日夜奔走していて。
 害虫が来ると判っているから、本当なら行きたくはないけれど、二度と顔も見たくない害虫とご主人様が落ち合う『マンション』の方にも、ご主人様と一緒に出向いて、懸命に、一生懸命に、害虫退治に勤しんでいるのに。
 今朝も目が覚めたら、ご主人様と害虫は、べっとりべとべと、引っ付いて眠りこけていて…………──。
 

 

 ふっと、目を覚まして。
 フルフルっと体を振るって、シーツの上で一つ伸びをし、ニャン、と愛しいご主人様の方を見たら、害虫を体に縋り付かせて眠っているご主人様の姿が目に飛び込んで来て、僕は、朝から一つ、溜息を付いた。
 …………どうして、僕のこれ程までの努力が、この害虫には通用しないんだろう……。
 ……いやっ!
 こんなことでめげていてはいけない。
 害虫駆除の道程は、遠く険しいのが常套。
 ベットの中での妨害工作が成功しなかったと言うなら、次にトライするだけだ。
 ──あああ、熱く決意を固めていたら、ご主人様が目を覚ましてしまった。
 いけない、いけない。
 愛くるしい、何時もの僕を披露しないと…………って、あ。
 折角、
「おはよう」
 って、ご主人様が僕の頭を撫でてくれたのに。
 ご主人様の声で害虫が目を覚ました……。
 奴が目を覚ましたから、ご主人様は僕を撫でる手を止めて、害虫の方を振り返ってしまった……。
 僕とご主人様の愛のひと時を、邪魔するんじゃない、この害虫っ!
 後で覚えてろよ。
 食事の前後に仕掛けると、躾や礼儀に厳しいご主人様の機嫌も損ねてしまうから、朝食が終わるまでは、僕と御主人様の時間を奪ったことに対する制裁をしないでおいてやる。
 でも、食事が終わったら、決闘だ。
 受けて立てよ、逃げるなよ、害虫。
 

 

 くっ…………。
 ああ、腹立たしい。
 この上もなく腹立たしい。
 折角、ご主人様の食事が済み次第、あの害虫を成敗して……と意気込んでいたのに。
 ご主人様は、朝食の片付けを、害虫と一緒に簡単に済ませて、いそいそと何処かへ出掛けて行ってしまった……。
 …………僕のこの憤りは一体、何処に行くんだろう……。
 ──それにしても、今日ご主人様が、害虫と一緒に出掛ける予定を組んでいたとは知らなかった……。
 ご主人様の下僕の一人である、あの老人──じいや、とか呼ばれてる老人に、仕事で、とか何とか言っていたのは、やっばり何時もの言い訳だったのか……。
 ……いや、もしかしたら、あれをご主人様が老人に告げていた時は、言い訳なんかじゃなかったのかも知れないな、うん。
 その後、あの害虫が、例によって例の如く、ご主人様を誑かしたのかも知れない。
 だとしたら、益々許し難い、あの虫。
 虫のくせに。
 …………ま、出掛けてしまったものは、もう仕方がない。
 その気になれば、害虫への制裁など何時でも出来るのだし。
 ご主人様が帰って来るまで、昼寝でもしていよう。
 こちらは猫の身の上、人間様よりも睡眠時間が多くないと辛いから。
 

 

 …………ああ、溜息が出る……。
 一体、今日何度目の溜息だろう。
 午前の早い内に出掛けて行ったご主人様が、帰って来たのはいいけれど。
 玄関まで、『ご主人様を』迎えに出た次いでに、ちらりと時計を見上げてみれば、針はもう、午後六時近くを指していて。
 ………………こんな時間まで、何処で何をしていたのやら。
 ……と言うか。
 こんな時間になるまでっ。
 約十時間もっ!
 あの虫は、ご主人様を引きずり回して何をしていたとっ!
 ……常々思うことだけれど、こういうことがある度に、あの虫は、遠慮、と云う言葉を何処に置き去りにして来たのだろうと、悩まずにはいられない。
 母親のお腹の中か、はたまた宇宙の彼方か。
 まあどっちにしても、二度と取り返すことの出来ない場所に、あの害虫の『良心』の全ては打ち捨てられているんだろう。
 そんな輩にコロリと騙されるなんて、ご主人様は何て不憫な方なんだ。
 ────っととと。
 感傷に浸っている場合じゃなかった。
 害虫が、懲りることなく一緒に帰って来たのだから、とっとと退治を始めないと。
 ほら、一寸目を離した隙に、まーーた、ご主人様に引っ付いてる。
 

 

 僕が、狭い額に汗掻き掻き、奮闘したと云うのに。
 虫が、ご主人様に引っ付いて離れなかった所為で、余り揮った害虫退治が実施出来ないまま、夕飯の時間が終わってしまった。
 ご主人様の前では、害虫退治と言えど行うことのない、大人しくてとても聞き分けの良い子と、僕は振る舞っているから、露骨な制裁を加えることは出来なくて。
 又悔しいことに、その事実をあの害虫は良く弁えているから、保身の為なのか何なのか、ご主人様の肩やら腰やら抱きながら、フフン、と鼻で笑われて。
 ……本当に悔しい。
 どうして、あの虫はあんなに、根性がねじ曲がっているんだろう。
 どうして、あんな虫に懐かれて、ご主人様は平気なんだろう。
 ………………まあ?
 どういう訳か?
 どれだけ害虫に振り回されても、どれだけ迷惑を被っても、どれだけ我が儘を振り翳されても、何のかんのと言いつつ、眉間に皺寄せつつ、それでもご主人様は決して、心底から嫌がっている素振りを見せることがないから?
 人間の言葉で言う処の、蓼食う虫も好……否、割れ鍋に閉じ……………────。
 ──いいやっ! そんなことがあって堪るか。
 それもこれも、あの害虫に、ご主人様が誑かされているからっ!
 だから、ご主人様はっ!!
 そうだ、そうに決まってる。
 ご主人様と害虫との夕食が終わった今、もう暫くすれば再び、ベッドの上で繰り広げなければならない、僕と害虫との戦いの時間がやって来るのだからっっ。
 例え一瞬でも、微塵でも、ご主人様の『趣味』を疑ってる場合じゃない。
 このマンションで、誰にも邪魔されず、ご主人様と二人っきりで寝たことはないんだ。
 だから今夜こそ、あの害虫を完璧に追い出してみせなければっ!
 僕の、『雄』が廃るっ!
 

 

 …………僕の、『雄』を廃れさせない為の戦いに挑んだ一夜が明けて。
 又、目覚めてみれば。
 昨日の朝同様、ご主人様と害虫の間に割り込んだ筈の僕の体は、何時の間にか、ベッドの隅に追いやられ。
 ぴっっっっっとりと、虫は、ご主人様に張り付いて寝ていた。
 ……見様によっては、虫は、じゃなくって、ご主人様は、虫に張り付いて寝ていた、と感じられないこともないけれど。
 きっと、気の所為だろう。
 …………と言うか、どっちがどっちに張り付いている風に見えようが、そんなことはどうでもいい。
 大した問題じゃない。
 ……そう、問題は。
 ご主人様も、虫も、裸だ、と云うこの現実だ。
 ……………………。
 ご主人様……。
 又夕べも、害虫に誑かされたんだな……。
 ──可哀想なご主人様。
 害虫風情に騙されて……。
 それもこれも、僕の奮闘が足りないからなんだろうか……。
 だとするんなら。
 愛しいご主人様の為に、僕は今日も、害虫駆除に、一層励まなければならない。
 ……うん。
 何時の日か必ず、僕のこの努力が実ると信じて。
 今日も又、害虫退治に勤しもう。

 

End

 

 

 

 

 キリ番をゲットして下さった、アツさんのリクエストにお答えして。
 『第三部の設定で、飼い猫から見たセツエドの一日(アニー vs セッツァー:第○ラウンド)』と云うテーマを、海野は書かせて頂きました。
 第三部のエドガーさんの飼い猫アニーの目線から見たセツエドの……と言うよりは、害虫退治に勤しむアニーの話になってしまったよーな気が、しなくもありませんが(汗)。
 アニーはアニーで、頑張っているのですよ、健気に。
 大分、彼の中の事実と、現実は違いますが(笑)。
 ほら、この猫にとってセッツァーさんは、本当に、害虫以外の何者でもないんで。
 頑張れ、アニー(笑)。

 気に入って戴けましたでしょうか、アツさん。

   

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