final fantasy VI

『世界を救う旅の仲間の』

 

 このお話は。
 2008年12月に行ったリクエスト企画に参加して下さった、『ca』さんに捧げます。
 リクエスト、どうも有り難うございました。

 

 

  

 努力、という言葉も空しく、魔大陸は浮上し、世界が崩壊を辿ってより暫く。
 あの世界崩壊の刹那、それでも生き残った人々より、希望だの、明るい未来だのと言った言葉は消え去ってしまって、けれど。
 ほんの少しばかり前の──なのに随分と遠い昔のことに感じる、ガストラ帝国が存在していたあの頃、運命の悪戯で縁を持ってしまった彼等は、人々が忘れ去った筈の言葉を覚えていて、死に絶えようとしている世界を、もう一度救おうとしていて。
 だから……、だから、恐らくは、彼等のそんな部分に絆されてしまって。
 世界を救おうと足掻き続けている者達の中に、たった一人の幼い娘がいたことも手伝って。
 シャドウは、そんな彼等の仲間になることを決め、仲間となった者達に誘われるまま、飛空艇ファルコンに足踏み入れた。
 ──踏み入れたその小さな空間は、僅かな緊迫感と、僅かな悲壮感があり。
 それを上回る、希望や明るさが漂っていて。
 彼等ならば、この場所にいると決めた者達ならば、もしかしたら本当に、彼等が望む通り、そして己が望む通り、大切なモノの為に──大切な愛娘の為に、平和で穏やかだった頃の世界を取り戻せるかも知れない、と、そんな秘かな望みをシャドウは持った。
 ……だから、恐らくは、それ故にだろう。
 愛した女と、その女が産み落としたばかりの愛娘に背を向けたあの日から、たった一人で生きて来た彼は、仲間となった者達に、少しだけ興味を持ち始め、今の彼等には『家』とも言える狭い飛空艇の中での仲間達の言動に、徐々に注目するようになった。
 ──仲間達の言葉、そして行いに、注意と興味を向け始めて直ぐ、シャドウは、ふとした瞬間、ふとした切っ掛けで、フィガロ国王エドガーと、飛空艇の持ち主セッツァーの二人が、言い争いばかりをすることに気付いた。
 その事実に気付いた時、シャドウは内心、意外だ、と酷く首を捻った。
 彼とて、セッツァーのことも、エドガーのことも、世界崩壊以前より知っていて、確かに今程は彼等に対する興味の持ち合わせはなかったけれど、それでも、セッツァーにもエドガーにも、ひとかどの所があるのは彼にも判ったし、少なくとも彼の目には、二人共に、特定の人物に大っぴらに突っ掛かって、人目も気にせず言い争うようには見えなかったので。
 が、やがてシャドウは、ひょっとするとあの二人は、ケフカを打ち倒す為の仲間同士、という『枠』では到底我慢出来ぬ程に折り合いが悪いか、さもなければ余程相手のことが気に入らない同士なのかも知れない、と思うようになり。
 セッツァーとエドガーが、何処でどれだけ言い争いを繰り広げようとも、他の仲間達は、「ああ、又始まった」程度の表情のみを拵え、何処吹く風だったので、今に始まったことでなく、他の者達も匙を投げるくらいに仲が悪いならと、彼も又、しばしば起こるセッツァーとエドガーの言い争いを、気に留めぬ風にしてきたのだが。
 

 

 世界崩壊前、『あの日』、魔大陸と共に逝ってしまった飛空艇ブラックジャックに乗り合わせていた全ての者がファルコンに戻って、以前は仲間ではなかった者達も数名、彼等の旅に加わって、暫くがした頃。
 神に等しい力を得たケフカを打ち倒す為には、幻獣達の『源』である魔石を全て集め、その力を借りなければ駄目だ、と彼等は悟り、先ずは、世界中に散らばってしまったらしい魔石を掻き集める為の旅に、と各地を飛び回っていて。
 ──ある日。
 もう誰もいなくなってしまった炭坑都市・ナルシェに、それらしき物があるらしいとの噂が出た、との話を、ロックとセリスが拾ってきた為、誠に頼りない噂ではあるけれども、行くだけは行ってみようか、と仲間達の間で話が纏まった。
 その時彼等がいたのは、南海に面した小さな集落の近くで、そこから一路ナルシェを目指したとしても、それなりには時間が掛かる為、ナルシェに着くまではと、仲間達はそれぞれ、好き勝手なことをし始めたのだが。
 そんな中、どうしようもなく反りが悪い筈のセッツァーとエドガーの二人が、何故か連れ立つように、操舵のある甲板へと昇っていくのが視界の端を掠めたシャドウは、不思議に思い、思わず、の態で後を尾けてしまった。
 それは、仲間となった者達の影響で、最近シャドウの中にも根付き始めた一種の『好奇心』と、やはり仲間となった者達の影響で彼の中に芽生え始めた、妻と娘に背を向けたあの日より失われていた筈の、『ある種の感情』が行わせた行為で、ひょっとしてひょっとしたら、又、ひょんなことを切っ掛けに、仲間達の目の届かぬ処で、二人、言い争うつもりなのかも知れない、だったら、止めた方が良くなるかも知れない、などと、誠に『うっかり』思いつつ、二人の後を尾けたシャドウは、気配を殺し、甲板に上がった。
「…………又、君はそういうことばかりを言う……っ」
「それは俺の科白だな。どうしてお前は、そういうことばかりを言う?」
「決まってるじゃないか、君が、どうしようもなく勝手な言い分を振り翳して、その勝手な言い分に、私を添わせようとするからだろうっ?」
「俺の言い分の、何処が勝手だ? 言えるもんなら言ってみな。そう言うお前の方こそ、勝手なこと抜かして、勝手に振る舞いやがるだろうがっ」
 ────忍んで向かった甲板では。
 操舵の更に向こう、舳先の片隅で、毎度の如く、そして思った通り、エドガーとセッツァーの二人が言い争っていた。
 シャドウが忍んだ場所より、そこはそこそこの距離があったが、強い風に流される彼等のやり取りは、直ぐそこで交わされてるかの如くに聞こえ。
 あの二人は…………、と嘆息したシャドウは、二人の口論に割って入る機会を窺い始める。
「……それは……、それは確かに、私のやることだって、君からしてみれば勝手かも知れない。でも、お互い様じゃないのかい? 第一、私がそういう風に振る舞わなければ、私よりも先に、君が身勝手を通してしまうじゃないか、何時だってっ!」
「当たり前だろ。俺がお前の先を行かなきゃ、身勝手をやらかすのはお前だからな」
「………………狡い……っ」
「狡くて結構。お前は黙って、俺の言うことを聞いとけ。それがお前の為だ」
「それが嫌だと、私は言っているのにっ! 君の勝手が私の為なら、私の勝手は君の為なのだからっ」
 ……だが。
 極力さり気なく仲裁に入れるように、と思いつつ、二人の言い合いに耳貸していたシャドウは、届き続ける二人の言い分に、「ん……?」と訝しんだ。
 ──今まで、彼等が言い争う姿を、何度も目撃してきた。
 が、毎度の諍いが始まる度、さっさと席を外してしまう仲間達に倣って、シャドウ自身も、「障らぬ神に何とやら」と、その場を後にしてしまっていたので、二人の言い争いの内容を、はっきり聞いたことは一度もなかった。
 彼等がどんな口論を繰り広げるのか、それを確認したのは、今が初めてだった。
 故に、今までがどうだったのかは、シャドウには判らない。
 判らない、が。
 どう聞いても、どう窺っても、彼等の言動からは、例えて言うなら『毎度のノリ』との雰囲気が、ひしひしと伝わってきて、更に、『毎度のノリ』としか思えぬ彼等のそれは、どうしようもなく反りの合わぬ者同士の口論、とは受け取れぬばかりか……──。
「……エドガー。いい加減にしろ?」
「……それこそ、それは私の科白」
「別に、お前がわざわざ、ナルシェに行かなくてもいいだろう? 他の連中だっているんだし」
「別に、君がわざわざ、ナルシェに行かなくてもいいよね? 皆だっているんだし」
「………………この間、そう言ってしゃしゃり出てって、怪我して帰って来たのは何処の誰だ?」
「………………行く筈だった私を出し抜いて出て行った君が、怪我して帰って来たこともあったよね」
「お前な……」
「……君こそ」
 ────そう。
 それは、どう聞いても、仲違いしている者同士の口論では有り得ず。
「これは、何だ……?」
 思わずシャドウは、唖然、と馬鹿面を晒し掛けた。
 彼の面は黒装束に覆われているから、例えその場に誰かがいたとしても、目撃されることはなかっただろうけれど。
「…………シャドウ」
 と、そんな風に、彼が、隠れた物陰で一人、戸惑いを露にしていたら。
 こっそりと彼を呼ぶ、青年の声がした。
「……マッシュ? ……に、リルム…………」
 衝撃で、近付く者の気配さえ悟ることを忘れた己に掛けられた声に、慌ててシャドウは振り返った。
「もしかしてさー、シャドウ、知らなかった?」
 目許だけしか露でない故に、表情の殆どが窺えぬ彼が、今、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしていると、それでも勘付いたらしいリルムは、しゃがみ込み、溜息付き付き、自身の膝上に頬杖付いて、アサシンを見上げる。
「何、を……?」
「だから。傷男と、色男の、あれ」
「『あれ』……?」
「……俺の口から言うのも何だけど……、兄貴とセッツァー、『ああ』なんだよ。俗に言う、喧嘩する程仲がいい、って奴?」
 何処となく、大人びた態度を見せるリルムの言うことに、シャドウがはっきり首を傾げれば、今度は、やはりその場にしゃがみ込んだマッシュが、言い辛そうに告げた。
「……筋肉男。その言い方は間違ってない?」
「筋肉男って、リルム……。本人捕まえて、その言い方はないだろー?」
「だって、本当のことじゃん。──じゃなくって。もっときちんと、はっきり、シャドウにも教えてあげなきゃ駄目だよ。何処で何をどう間違ったんだか知らないけど、傷男と色男は、恋人同士なんだよー、って」
「リ、ルム………………。俺、兄貴の双子の弟として、それだけは認めたくないんだけど」
「認めたくなくったって、本当のことなんだからしょうがないよ。──だからね、シャドウ。あの二人のあれには、関わっちゃ駄目なんだよ。犬も喰わない喧嘩ばっかりしてる二人に関わると、碌な目に遭わないし、第一、馬鹿馬鹿しくてやってられないって、セリスとティナが言ってた」
 お前は知らなかったかも知れないけど、実の処は、と、セッツァーとエドガーの『真実』を、極力穏便な言葉で打ち明けたマッシュを制し、リルムは、大人二人を沈黙に追い込む、セリスとティナよりの受け売りを披露し。
「馬鹿な二人は放っといて、行こ。ほら、マッシュも!」
「……そうだな……」
「あ、ああ……」
 彼女に腕を引かれるまま、シャドウは、彼女とマッシュと共に、甲板を降りた。
 

 

 その日の出来事の所為で、以前より気にはなっていたセッツァーとエドガーの『口論』の真相をシャドウは知り、故に、もう二度と、二人の『あれ』に、関心も示さなければ嘴も突っ込まない、と定めることが叶い。
 以降彼は、『あれ』に煩わされることも、巻き込まれることも、回避は出来たが。
 代わりに彼は、ケフカを倒し、世界を救わんとしている仲間達の内の二人が、果たしてあれでいいのかと、本当に世界は救えるのだろうかと、悩むようにはなったらしい。

 

End

 

 

 

 caさんのリクエストにお答えして。
 『喧嘩するほど仲がいい感じのセツエド』というテーマを、海野は書かせて頂きました。
 一寸変化球で、シャドウさん視点。
 真っ向勝負で、この人達の犬も喰わない喧嘩を書いたら、収拾付かなくなる気がしたので(笑)。
 因みに、シャドウさんを選んだ理由は、何か、不幸でいい、と思ったからです。
 …………御免、シャドウ。私は君が好きだ。それだけは判って(笑)。

 気に入って頂けましたでしょうか、caさん。

   

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