final fantasy VI 『今年の桜の木の下は』
このお話は。
『Duende』の、キリ番カウンター『120000』を踏んで下さった、『若林 優』さんに捧げます。
リクエスト、どうも有り難うございました。
その一団を成す彼等の関係を語る為には、かなりの時間を要する。
──彼等が、気が付いたら何時しか、『一団』と相成ったそもそもの切っ掛けは、その街一番の繁華街の片隅にある画廊を、二十代という若さで切り盛りしているロック・コールに、警察関係の仕事に従事しているマッシュ・レネ・フィガロが、美術品窃盗団の捜査の為の協力を要請したことにあった。
その出来事の際、歳も近かった所為か、馬が合ったのか、画廊オーナーと警察官、と、全く畑違いの彼等だったのに、プライベートの部分でも意気投合し、知り合ってから、それ程時間も経たぬ間に、ロックとマッシュの二人は、定例会と称する飲み会を開く程の呑み仲間となって。
己の行きつけのBarに、ロックがマッシュを連れて行ったら、そのBarのオーナーで、あくまでも噂の域を出ないが、どうやらおおっぴらには言えない賭博場とも関わり合いのあるらしいセッツァー・ギャビアーニとも、彼の裏の顔を知らないままマッシュは親交を深めて、やがて、ロックとマッシュの『定例会』は、セッツァーのBarで、セッツァーをも交えて行われるのが慣例となり。
とある日、ふとマッシュが気紛れを起こして、青年実業家との肩書きを持つ双子の兄の、エドガー・ロニ・フィガロを伴って赴いたら、『定例会』の面子は三人から四人に増えた。
それから暫くが経って、今度はロックが気紛れを起こし、最近付き合い出した彼女を紹介するからと、恋人のセリス・シェールをセッツァーの店まで呼び出したら、たまたまその時、幼馴染みのティナ・ブランフォードとの食事を終えたばかりだったセリスは、ティナと共に『定例会』の席へとやって来て。
急遽、その日は六名になってしまった『定例会』の席上、教員をしているティナが、去年卒業した教え子の、ガウ・ガラモンドの話をしたら、ガウの養父であるカイエン・ガラモンドは、マッシュの仕事仲間であると判明した。
なので翌日、マッシュがその話を職場にてカイエンに振ったら、律儀な性格をしているカイエンは、異国に嫁いで異国で亡くなった妹の忘れ形見を教えてくれたティナに挨拶をしたいと言い出して、マッシュと共に、次の『定例会』に顔を出し。
七名に膨れ上がった『定例会』で、職場では余りしない話を様々、マッシュとカイエンが話し込んだ結果、マッシュとカイエンの知り合いである、警察犬訓練士の、シャドウという渾名の男の娘、リルム・アローニィが、ガウと殊の外仲が良いことが判り。
そのことをカイエンがガウに話したら、どうやら、大人達の繋がりが面白く感じられたらしいガウが、今度はその話をリルムに持ち込んで。
そんな風に話が進んだその時の季節が、丁度春だったこともあり、Barに行けない自分達が、『大人達』より仲間外れにされているような感を、ガウとリルムの二人が覚えた所為もあり。
その街の郊外の、その又外れにある所為か、信心深く通って来る者の少ない、リルムの祖父に当たるストラゴス・マゴスが司祭をしている教会の庭の、見事な桜の木の下で、大人達に頼み込んでお花見をしよう! お花見なら、自分達も一緒に行ける! と子供達は勝手に盛り上がり、熱心に頼み込んで来る子供達を無下にすること出来なくなった『大人達』は、二人の子供の希望を叶えるべく、花見をすることになった。
なので、気が付いたら七名に膨れ上がってしまっていた『定例会』の面子に、二人の子供と、子供達に引きずり出された、本来は人付き合いが余り好きではないらしい、リルムの父のシャドウなる渾名の男と、庭先を提供したストラゴスを足した、計十一名は、その年の春の一日を、そんな風に過ごすことになって、その花見の席を更なる切っ掛けに、彼等はより一層の親交を深めることになり、それより一年が過ぎた、今年、春。
『立派な一団』と化した彼等は、去年そうしたように、又、揃って花見をすることになった。
地下の酒蔵から、見繕ったワインを数本取り出して、どうせ呑むんだろうから車はパスだなと、電車と徒歩で、『桜の教会』へと向ったセッツァーは、丁度、教会正門前で、眼前に停まったタクシーより降り立ったエドガーと鉢合わせた。
「何? 電車で来たのかい? 君」
「ああ。飲酒運転する訳にはいかねぇからな。マッシュもカイエンも、警察官だし。叩かれても埃が出ない、奇麗な身の上じゃねえし」
「…………いい加減、火遊び好きな一般人から、悪銭撒き上げるのは止めたらどうだい?」
「ほっとけ。身内の些細な集まり──しかも花見に、タクシー飛ばして来る実業家殿に言われたかねえ」
「……だって、迷うんだから、仕方ないじゃないか」
「……稀に見る程見事な方向音痴だもんな、お前……」
エドガーがタクシーより降りた場所で、暫し立ち話をして彼等は、連れ立って教会の門を潜り、既に、満開の花を咲かせている桜の大木の下に、レジャーシートを敷き詰め待っていた、リルム、ガウ、カイエンにシャドウにストラゴス、の五名に、片手を上げつつ近付いた。
「遅いーー!」
「未だ、面子揃ってねえんだから、良いだろうが」
姿見せた二人に、開口一番リルムが苦情を言えば、セッツァーは苦笑を浮かべ。
「タクシーで来たでござるか? ……エドガー殿、帰りは……?」
「……まあ、マッシュも後から来るし。セッツァーもいるし。多分、何とか……」
カイエンの素朴な疑問に、エドガーは少々不安そうに答えた。
「悪い、悪い、遅くなって」
と、そこへ、タイミング良く、大量の荷物を抱えた、ロック、マッシュ、セリス、ティナ、の四人が姿見せ。
「御免なさいね、お料理作って、飲み物買い出ししてたら、思ってたよりも手間取っちゃって」
「ガウもリルムも、ジュースじゃなきゃ駄目だろうからさ」
「でも、お握りもサンドイッチも、たーくさん作って来たから」
彼等は口々にそう言って、手にしていた荷物を、広げられたレジャーシートの上に乗せ。
さあ、これで準備万端、と。
『一団』は、その年の花見を始めた。
マッシュとロックが知り合い始めた飲み会が、何時しか定例会となって、その定例会の人数が、少しずつ増え始めて、もうそろそろ、二年近くになる。
友達の友達は皆友達、とでも言うようなノリで始まった彼等の関係だから、職場も、生きる世界も、趣味も生活リズムも、足並みは揃わないけれど。
約二年の間、定期的に顔を突き合わせ、グラス傾けつつ、時に他愛のない話を、時に人生に於ける楽しみや悲しみを語りながら、幾度となく、共に夜を明かした所為か、一見、一体何処に繋がりが、とも思える『一団』を形成している彼等は、すこぶる仲が良い。
二人の子供を抜かして語れば、皆、良い歳をした大人なのに、何も学生のように、そこまで『濃密』な付き合いをしなくとも、という意見の一つも、他人からは出て来るだろうが。
人は皆それぞれ、大なり小なり、家庭の中や、生い立ちや、辿って来た生涯や、胸の内に、誰にも言えない、けれど吐き出したい、そんな何かを抱えているもので、運命の成り行きという奴に、それらを全て受け入れてくれる『仲間』を与えられてしまったが最後、戦友同士のそれに似た、『濃密』な付き合いをすることだってあるから。
例え、自分達の関係が、見ず知らずの他人の目にどう映ろうと構いはしないと、傍目には、異色とも映るだろう彼等は、宴会料理を広げ、酒瓶を開け、今年も。
『余所者』は多分、一歩たりとも踏み込めぬような風情を醸し出しつつ、花見を始めた。
満開の、薄紅色の花を咲かせた、大きな桜の木の下、とのシチュエーションが、彼等をそうさせてしまったのかも知れない。
去年の花見の頃とは、比べ物にならない程親交を深めた彼等の一部は、気心知れた仲間との宴、という『舞台』に油断したのか、午後半ばに始まった花見が、夜桜見物へと傾れ込む頃には、すっかり、出来上がってしまっていた。
「だからさ。頼むからさ。いーかげんさ、裏の世界とやらで流れてる古美術、素知らぬ顔して扱うのは止めてくれよ。俺にもカイエンにも、立場ってものがあるんだからさ」
リルムやガウが、「お酒臭い……」と、レジャーシートの片隅で、鼻を摘み出す中。
薄い、プラスチックで出来たコップを握り締めんばかりにして、少しばかり目付きが怪しくなって来たマッシュは、やはり、アルコールの所為で目尻が垂れて来たロックへ、切々と訴え。
「いや、別に俺、悪いことしてないしー。俺にそんなこと言う前に、セッツァーに説教垂れればいーじゃんか、あいつが裏でやってることなんか、地下カジノ経営じゃん、俺のサイドビジネスよりも、よーーーっぽど、違法」
マッシュの小言を受け流してロックは、ヘラッと笑いつつ、セリスの後ろに隠れ。
「あ、あの……。あのね、マッシュ? サンドイッチ、美味しかった?」
「…………? うん、旨かったよ、凄く。ティナが作ったんだって? 家庭的だよな、ティナって」
「……そう? ホントに、美味しかった? 良かったー……」
未だ、愚痴を言い足りていない風なマッシュの服の袖を引いて、思い切った顔付きになったティナは、一人秘かに喜び始めた。
「……なあ、セリス」
「ん? 何よ」
「ティナって、マッシュのこと、………………って、マジ?」
「みたいよ? 包容力ありそうで、素敵、なんですって、ティナ曰く」
「包容力? ……そりゃーまー、あのガタイなら、うん」
「…………そーゆー意味じゃないわよ、酔っ払い」
アルコールで頬を染めたのか、それとも、別の意味で頬を染めたのか、その何れとも付かないティナがマッシュへ、にこっと話し掛けて、笑い掛けられたマッシュがやはり、にこっと笑い返して、誠に酒臭い空気漂う中、というのを抜かせば、微笑ましいとは言える雰囲気を拵え始めた男女二人を横目で盗み見、ごにょごにょ、ロックがセリスへ内緒話を持ち掛ければ、受け答えはしたもののセリスは、パカリと恋人の後頭部を叩く。
「………………ねえ、セッツァー。もうそろそろ、日が暮れるけれど。皆、無事に帰れると思うかい?」
「……んなこと、俺が知るか。好きにさせとけ、言うだけ野暮だ。──それよりも、エドガー、そこのジャケット取ってくれ。枕にするから」
「寝る気?」
「寝る気はねえな、横になる気はあるが。ごろ寝して、連中見学してると、面白いぞ?」
「……それを世間では、『寝る』って言うんだよ。それに、そんなことに使ったら、ジャケット皺だらけになるよ?」
「うるさい。いーから取れ、俺の上着。それとも何か、服の代わりに、お前が膝でも貸してくれるってのか?」
「貸したら、寝るだろう?」
「…………まあな」
そんな四名の横では、だらしなく姿勢を崩したセッツァーと、皆一体、この後どうするつもりなんだろうと、心配そうな色を頬に浮かべたエドガーが、聞く者が聞いたら耳を疑う会話を始め、結果。
エドガーのささやかな抵抗を無視してセッツァーは、『友人』の膝を枕に、ごろ寝の桜見物と洒落込んでしまい。
「ねえ、ガウ」
「何? リルム」
「普通さあ、膝枕って…………──」
「──……見ない。見ない方が良いでござるよ、二人共」
男同士でその姿勢を取るのはどうなのか、と言いたくなる格好になったセッツァーとエドガーの二人を見遣って、素朴な疑問を語り合い始めたリルムとガウの視線を、カイエンは身を以て塞いだ。
「えー、どうして?」
「……どうしても、だ。…………多分、だが……。多分お前達も、大人になれば判る。…………多分」
けれどリルムは、純粋な疑問を乗せた視線をカイエンへと注ぎ続け、言葉に詰まったカイエンへ助け舟を出すように、シャドウが己が娘を嗜め。
「……多分、って言われても……」
「あああ、そうじゃリルム。お前とガウに渡そうと思って、儂の部屋にプレゼントの人形が置いてあるから、取って来るといいゾイ」
「人形? 人形って……。……あああ、前におじいちゃんが買ってくれるって約束した、あれ? モーグリ人形? あの、お腹押すと『クポー!』って鳴く奴? ──わあ、有り難う、おじいちゃん! ガウ、取りに行こうよ!」
「うんっ! ──僕、前住んでた街の動物園で、本物のモーグリ見たことあるんだよ。その話、リルムにしてあげるね」
『大好きなパパ』に嗜められても引っ込めようとしなかった彼女の疑問を、上手く揉み消すようにストラゴスが言い出したモーグリ人形の話に、祖父の思惑通りリムルは釣られ、故郷の街の話をしてあげる、と言ったガウと共に、教会の中へと駆けて行った。
「…………殴って来てもいいか? あの馬鹿共を。子供の教育に良くない」
嬉しそうに、ガウと手を繋ぎながら駆けて行く愛娘の背中を見送って、シャドウはカイエンとストラゴスに同意を求めつつ、片隅でのんびり桜を見上げている男二人を睨む。
「……まあまあ。……その…………、『あっちの噂』は、単に噂でしかないでござるし。本当に、以前ロック殿が冗談でからかっていたように、セッツァー殿とエドガー殿が、『そうだ』、と決まった訳ではないでござるし」
「そうじゃ。単に、いよー…………なまでに、仲が良いだけなのかも知れんしの。放っておくといいゾイ」
「………………では、訊くが。『いよー…………』に仲が良いだけで、同性の友人に膝を貸す男が、この世にどれ程いると?」
見ない振りをしていたら、本当に件の二人に鉄拳制裁を加えそうなシャドウを、カイエンとストラゴスは宥めたけれど、シャドウは、セッツァーとエドガーに向けていた睨むような視線をそのまま傍らの二人へと向けて、問い詰めるように言った。
『クポー! クポー! クルッポッポーーーーー!』…………と。
面白がって、二人の子供達が延々鳴かし続けているモーグリ人形の声が、辺りに響き続ける中。
すっかり日も落ちて、寒くもなって来たからと、億劫そうに体を動かし、彼等は花見の後始末を始めた。
宴会料理と酒は粗方、彼等の胃袋に収まってしまったし、ゴミの処分はストラゴスが引き受けてくれたから、誰もが皆、手ぶらに近い状態で、桜の大木の根元を離れ始め。
「二次会行く奴、いるのか?」
「……あー、俺、明日勤務」
「以下同文、でござるよ」
「子供達を、連れて帰るから」
「日曜礼拝が……」
「俺は自営業だから、どうしてもいいけど」
「私はお休み」
「私も。でも、どうしようかな……」
「じゃあ、又来週か再来週に、ということで?」
河岸を替えるのか? とのセッツァーの科白に、皆口々に都合を答え、取り敢えず、今夜は解散、と。
仲間達はそれぞれ、思い思いの方角へ、足を向け始めた。
「じゃあ、又な。セッツァーんトコで。──セリス、どうする?」
「どうしてもいいけど。……自営業なんだから働きなさいよ、日曜、定休じゃないでしょう?」
──そして先ずは、皆へ軽く片手を上げつつ、ロックとセリスが『漫才』を始め。
「ティナ。送ってこうか?」
「でも、マッシュは明日お仕事でしょう? それに、エドガー、その……方向音痴…………」
「ああ、私なら平気だよ。セッツァーと、呑み直そうか、って言い合ってた処だし。送って貰ったら? ティナ」
「……はいはい。俺がお前の面倒見りゃいいんだろ。──お前今度から、首から地図ぶら下げて歩け」
女性の一人歩きは危ないから、と言い出したマッシュと、その申し出に、申し訳なさそうにしてみせたティナと、彼女の気持ちを知っているらしい金銀コンビとが、ああでもないの、こうでもないの、言い合って。
「それでは又、近々」
「じゃあ、又ねーーー」
「バイバイー」
「ほら、もう人形で遊ぶのは止めろ。近所迷惑だ」
カイエンとシャドウは、それぞれの子供と手を繋ぎ、親に手を繋がれた子供達はそれでも、人形との戯れを続け。
「では又、その内にの」
教会の中へ戻るだけのストラゴスは、眠気を振り払うように、伸びを一つした。
そうして、それぞれ、思い思いに散ろうとしていた彼等は、一旦、その足取りを留めて。
又、来年もこうして、花見でもしよう、と、口々に言い合ってから、向うべき場所へと、向った。
一年後も再び。
同じ頃、同じ場所で、自分達は同じように、時を過ごすのだろうとの確信を、胸の中で噛み締めながら。
End
キリ番をゲットして下さった、優さんのリクエストにお答えして。
『現代パラレルで皆でお花見』というテーマを、海野は書かせて頂きました。
私の書く話なので、セツエド風味で(笑)。常の如く、ロクセリにマシュティナ風味漂うのも、ご愛嬌ということで一つ。
『皆でお花見』ということだったので、ほのぼの路線に行ってみたんですが、ほのぼのと言うよりは、どっちかって言うと『お馬鹿路線』のよーな……(笑)。
一寸つるっと手が滑った結果、エドガーさん、強烈方向音痴にされてますし。
でも、この話の仲間達も、こんな風に、仲良く過ごしてるんだよ、って処、お伝え出来たら本望です。
気に入って頂けましたでしょうか、優さん。