19.三すくみ act.1

良きにつけ、悪しきにつけ。

ノースウィンドゥの古城に集った男達は大抵、こう、と決めたらその決断を、素早く行動に起こす性質を持ち合わせているらしく。

朝、恙なく軍議が行われたその日の夕刻、クラウスはリッチモンドを、ビクトールはクウラスを、リッチモンドはビクトールを、それぞれ、探していた。

「……リッチモンドさんですか? ……さてねえ……ああ、そう云えば少し前、兵舎を出て行かれましたよ。何処に行ったか? さて、この年寄りにそこまでは。──そうそう。そう云えばあの探偵さん、ビクトールさんをお探しだった様ですけれども」

兵舎の一階で、リッチモンドを探していたクラウスは、彼が隣の棟に向かった事を知らされ踵を返し。

「え? クラウスさん? ……あたし、知らな……あ、そう云えばさっき、兵舎の方に行ったかも。見掛けた気がする。ねえねえ、ビクトールさん、又何かあるの?」

階段で、クウラスを探していたビクトールは、丁度通り掛かったナナミに、彼が先程兵舎の方へ向かったと教わり、上がってきた階段を又、降りて。

「ビクトール? 部屋にいるんじゃないのか? 俺に聞くなよ。あ、そうだ、そう云えばさっきあいつ、クラウスの事探してたっけ。クラウスの部屋に行けば捕まるんじゃないのか?」

誓いの石版の前で、フリックを捕まえたリッチモンドは、ビクトールがクラウスを探していると知らされ、二階へと続く階段を昇った。

──だから。

「あ、いた。探したんですよ、リッチモンドさん」

「おーー。見付けたぜ、クラウス。一寸話が……」

「ビクトール、少し、顔貸して……」

兵舎から一階ロビー、大広間へと続く城内のメイン階段、石版の前から二階、と、それぞれ足を運んだ三人は。

丁度、アダリーの立つエレベーターの前で、鉢合わせた。

「え?」

「ん?」

「お……?」

まるで三すくみの様に、それぞれを探していた事実を知って、彼等は困惑共に、その場に立ち止まる。

「えーと。リッチモンドさん……?」

「あのよ、クラウス──

「だから、ビクトール、顔貸せって…」

顔を見合せ、一瞬躊躇い、彼等は又、それぞれがそれぞれの都合を、同時に口にして。

重なった声音に苦笑する。

「何か私達は、傍目から見たら、お芝居のそれみたいに、それぞれがそれぞれに所用があるみたいですね」

困った様に笑いながら、クラウスが云った。

「みたいだな。お前さんはリッチモンドを探してて、リッチモンドは俺を探してて、俺はクラウス、お前を探してた。さて、どうすっかね」

面白い事もあるもんだ、と、ビクトールは肩を竦ませる。

「どうするも何も。こう云う訳なんだ、このまま何処かに移動して、一遍に話を済ませればいい事だと、俺は思うがね」

唇の端で、別に大した懸案じゃないだろうと、リッチモンドが笑えば。

それもそうだな、と、三人は、それぞれがそれぞれに相応しい笑みの様な物をお義理で浮かべて、兵舎の方へと歩き出した。

クラウスはリッチモンドに。

ビクトールはクウラスに。

リッチモンドはビクトールに。

それぞれがそれぞれにしようとしていた話に、思いもかけない人物が同席するのは、計算外の事態だったが、自分が相手に話そうとしている事、自分が相手から聞き出そうとしている事、その真意が『部外者』に悟られない様にさえすれば、大した問題にはならないだろうと、誰もが、そう考えたから。