幻想水滸伝2

『家に還ろう』

「何処に行くの?」

──貴方は言った。

「……マクドールさん…………」

そう言った貴方に、僕は、随分と長い間呼び続けた名を、呟くしか出来なかった。

「…………何処に行くの?」

名を呼ぶしか出来なかった僕に、貴方はもう一度、そう言った。

「……行くんです。約束があるから。約束の場所へ行くんです」

貴方の声は、とても強くて、有無を言わさぬ程強くて、だから僕は正直に、笑みを浮かべて言った。

「そう。…………君はそれで、後悔しない?」

「……後悔、ですか……?」

──僕が、笑みを浮かべてみせれば。

貴方は調子の変わらぬ声で、後悔は? と尋ねて来た。

「後悔なんて、しませんよ。だって僕は、約束を果たしに行くだけなんですから」

「………………じゃあ、もう一度、訊くよ。……君は、何処へ行くの?」

……後悔なんてしない。

只、約束を果たしに行くだけ。

──問う貴方に、そう答えれば、貴方は、もう一度同じ問いを繰り返した。

「だから、僕は約束──

──違う。……それは、違う。そうじゃない。君が、本当に逝こうとしている場所は、約束を果たす場所ではないだろう?」

「そんなことありません。僕が行こうとしてるのは、約束の場所です。『彼』と、もう一度ここで、って、そう約束した場所です。天山の、峠の」

貴方の問いは、只の繰り返しでしかないと思ったから、僕も答えを繰り返せば、貴方はもっと鋭い声で、それは違うと言い切って、だから僕はもう一度、馬鹿みたいに同じ答えを繰り返した。

「だから。そうでは、なくて」

そうしたら、貴方も又、馬鹿みたいに同じ言葉を重ねて、じっと僕を見詰めた。

「…… 嘘吐きな君が、嘘を吐けないように言ってあげようか? ……君はここから何処へ行く? 何をしに行く? 約束の地だというあの峠で、何をして、何処へ行くの? ……その紋章と、『彼』の紋章と、『彼』の命と、君の命と、秤に掛けて、君は何を選ぶ? 何を選んで、選んだモノと共に、君は何処へ行くつもり? 君の行く先は、その中からしか選ばれないの? 君が秤に掛けるのは、それだけ? 『現在いま』も、今その手の中にあるモノも、君は選ばない? 否、選べない?」

「…………マクドールさん……」

──もう一度、訊くよ。嘘吐きな君に。……君は、何処へ行くの? 答えられないとは言わせない。そういう目をする者を、僕は沢山見て来た。今、君がしている目は、『最期の刻』を知る者の目だ。……だから、君の答えが『その通り』なら。僕は君を行かせない」

………………じっと、僕を、僕だけを見詰め続けて、貴方は。

強い言葉の最後を、そう締めくくった。

「……それでも、僕が行くって言ったら。マクドールさんは僕を止めますか」

だから、僕はそう訊いた。

「それでも行くと言うのなら、止めない。止めない代わりに、僕も行く。何を引き合いにして君を止めても、その目の前の道を選ぶと君が言うなら、僕も共に行く。……それだけだよ。君が己を止めないように、僕も己を止めない。君の辿る道を、僕も辿ろう。君の目が見る『最期の刻』を、僕もこの目で見よう。…………そう、それだけ、だ」

そうしたら、貴方は。

強かった言葉の調子を急に変えて、酷く穏やかに言い始めて、その、最後に。

「…………君が、止まらないと言うなら。ここでない、何処かへ行くと言うなら。一緒に『旅立って』。そして、一緒に『家』に帰ろう」

貴方は。

そんなことを、言った。

End

後書きに代えて

…………坊主、なの、か、な……?

幻想水滸伝1発売十周年記念を、細やかにお祝いすることへの一環になればいいなー、なんて思って、小説を書いたのですが、これを小説と言っていいのかどうか。

──ルルノイエの戦いが終わって、天山の峠へ行くまでの坊ちゃんと2主君の一幕を、物凄いピンポイントで拾ってみた、と言いますか、ものすごーくピンポイントなシーン抜粋をしてみたつもり、なんですが。

ピンポイント過ぎたような。

──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。