それは、希代のギャンブラー、とか、空賊、とか、飛空艇乗り、とか、そんな肩書きを持つ、何処ぞの『馬鹿』が。
嫁さんが欲しいから、人攫いに行く。
……と云ったノリの。
これから犯罪犯すってのに、予告してからする阿呆が、何処の世界にいるんだよ、探偵小説じゃないんだ、自分のなす事やらかす事に、よっぽどの自信があるのか、やる気がないのか、馬鹿にしてるのか、どれなんだ? って、思わず云いたくなるような予告状を、お貴族様の御国はジドールの南にあるオペラ座に、威勢良く送り付けて来たのが始まりだった。
……なのに。
んまあ、貴方って伊達男なのねぇ。
一一と、まあ、読む人が読めば云ってくれるかも知れない程度の評価はしてやれるのかな、てな代物を送り付けた癖に、攫う相手が『化けて』いることにも気付かず、ド派手に訪れ、ド派手に犯罪を犯して逃げた『お馬鹿さん』は。
攫う予定だった筈のオペラ歌手でもなく、間違えて攫っちゃった、元・某帝国の女将軍でもなく。
お馬鹿さんの犯罪予告を知った当初は、一体、何を考えて……と、誠に正しく素朴な疑問を抱けた、砂漠の国の王様である殿方に、どーゆー訳か、一目惚れをしてしまった。
一一ま、それだけで『コト』が済んでいれば、ああ、馬鹿はやっぱり、馬鹿だった、の一言で、片付けられたんだろうけれども。
お馬鹿さんと出会う以前は、お馬鹿さんの所業に素朴な疑問を抱けて眩暈を感じた、砂の御国の国王陛下が。
女ったらしで鳴らしたにも関わらず、お馬鹿さんと出会った瞬間、己と同じ性別を持ち合わせたお馬鹿さんに、花も恥じらう乙女のよー……否、そんな乙女よりも凄まじい勢いで、恋に落ちてしまったもんだから、何処ぞのお馬鹿さんが送り付けた犯罪予告状を発端とした、この『コト』は、馬鹿は馬鹿だった、と云う結論での収束を見せず。
色に惚けた馬鹿が二人出来上がる一一云うなれば、お馬鹿さんがタブル、と云う相乗効果を持った『コト』に発展してしまった。
さあ、大変、どうしましょ。
一一一一と云う訳で。
これは。これから始まる物語は。
何処ぞと何処ぞの『お馬鹿さん』達が、互い、一目惚れをしてしまったことより始まる、お馬鹿さん達の物語である。
簡単に云うなれば。
お馬鹿さんず、愛の軌跡。
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