『僕達の行く道』


11/11/2002 ぷろろぉぐ
 それは、希代のギャンブラー、とか、空賊、とか、飛空艇乗り、とか、そんな肩書きを持つ、何処ぞの『馬鹿』が。

 嫁さんが欲しいから、人攫いに行く。

 ……と云ったノリの。
 これから犯罪犯すってのに、予告してからする阿呆が、何処の世界にいるんだよ、探偵小説じゃないんだ、自分のなす事やらかす事に、よっぽどの自信があるのか、やる気がないのか、馬鹿にしてるのか、どれなんだ? って、思わず云いたくなるような予告状を、お貴族様の御国はジドールの南にあるオペラ座に、威勢良く送り付けて来たのが始まりだった。
 ……なのに。
 んまあ、貴方って伊達男なのねぇ。
 一一と、まあ、読む人が読めば云ってくれるかも知れない程度の評価はしてやれるのかな、てな代物を送り付けた癖に、攫う相手が『化けて』いることにも気付かず、ド派手に訪れ、ド派手に犯罪を犯して逃げた『お馬鹿さん』は。
 攫う予定だった筈のオペラ歌手でもなく、間違えて攫っちゃった、元・某帝国の女将軍でもなく。
 お馬鹿さんの犯罪予告を知った当初は、一体、何を考えて……と、誠に正しく素朴な疑問を抱けた、砂漠の国の王様である殿方に、どーゆー訳か、一目惚れをしてしまった。
 一一ま、それだけで『コト』が済んでいれば、ああ、馬鹿はやっぱり、馬鹿だった、の一言で、片付けられたんだろうけれども。
 お馬鹿さんと出会う以前は、お馬鹿さんの所業に素朴な疑問を抱けて眩暈を感じた、砂の御国の国王陛下が。
 女ったらしで鳴らしたにも関わらず、お馬鹿さんと出会った瞬間、己と同じ性別を持ち合わせたお馬鹿さんに、花も恥じらう乙女のよー……否、そんな乙女よりも凄まじい勢いで、恋に落ちてしまったもんだから、何処ぞのお馬鹿さんが送り付けた犯罪予告状を発端とした、この『コト』は、馬鹿は馬鹿だった、と云う結論での収束を見せず。
 色に惚けた馬鹿が二人出来上がる一一云うなれば、お馬鹿さんがタブル、と云う相乗効果を持った『コト』に発展してしまった。
 さあ、大変、どうしましょ。

 一一一一と云う訳で。
 これは。これから始まる物語は。
 何処ぞと何処ぞの『お馬鹿さん』達が、互い、一目惚れをしてしまったことより始まる、お馬鹿さん達の物語である。
 簡単に云うなれば。
 お馬鹿さんず、愛の軌跡。
 


11/13/2002 セッツァーさんの想い

 さーて、どうすっかな……。
 まさか、男に惚れる日が来るたぁ、思わなかった。
 俺様、一生の不覚だ。
 だけどなあ……。
 自分で自分に、言い訳をするってぇワケじゃねえが。
 仕方ない、とも思うんだ。
 ……タイプ……だったんだから…………。
 あの容姿も、何処となーく、気が強そうな態度も。
 の癖、じーっと見つめたら、何でかは知らねえが、真っ赤になっちまった初々しい感じも。
 タイプ、だったんだよなー……。
 どうすっかなー……。
 あんなツラでも、正真正銘、男だろうから。
 女を口説く時と一緒、って訳にゃ、いかないだろうしな。
 つーかそもそも。
 男が男を口説く時ってな、どうすりゃいいんだ?
 世間の連中は、多大に誤解してるかも知れないが、さすがに俺とて、男と遊んだ経験はねえぞ……。
 これが女だったらなあ、てきとー、に甘い台詞の一つも囁いて、てきとー、に酒でも飲ませて、押し倒しちまえば、I'm Win.……なんだが。
 何となーーーーく。
 ほんっとーに、何となーーーーく、それだけの関係で、あいつとのことを片付けるってのは、ムッと来やがるしな。
 ……ん? ってことはもしかして?
 俺は、あいつ……男のあいつに、本気ってことか?
 はははは…………最悪だな。
 一一で。
 どうすりゃいいんだ、俺は。
 と、取り敢えず、告白とやらをしてみる処から、始めるべきなのか?
 でも……男が男に告白なんぞして、気味悪がられたら、どうしろと……。
 まあ、当たらずに悶々とするよりゃあ、当たって砕けて悶々とした方が、遥かにマシなんだろうけどよ。
 一一一一キスの一つでもして、『色々』と誤魔化したら、騙されてくれっかな、あいつ。
 

11/14/2002 エドガーさんの想い
 どうしよう、どうしよう、どうしよう。
 この私、私がっ! 男に一目惚れするなんてっっ!
 ……天地がひっくり返っても有り得ない……いいや、そもそも、男なんて、恋愛の対象として見遣ったことなんて、一度だってなかったのに。
 どーーーーーして。
 よりにもよってっ。
 あの彼なんだっっ、私の惚れた相手はっっ!!
 …………そりゃ、まあ……。
 良い男だな、とは想うし? 性格も、一寸ひねくれてるけど、まあ……さっぱりした男気あるそれかな、とも想うし?
 何を考えてるのか、どうしても読み切れない、深い紫紺の瞳も、魅力的かなー、なんて、想うし?
 総じて云えば。
 私が女だったら、間違いなく惚れるタイプかなー……なんて…………一一。
 だけど、だけどっ!
 私が男なら、彼も男なんだっ。
 この現実だけは、如何ともし難い……。
 一一さあ、どうしよう。どうしたらいいんだろう。
 この想いに、気付かなかった振りをするべきなのか、それとも、いっそ、打ち明けて、玉砕してしまった方がいいのか。
 ……後腐れなく、さっぱりする為には、とっとと玉砕して来た方がいいんだろうけど。
 後々の、関係と云うのがあるしねえ……。気まずくなるのも、嫌だしなあ……。
 女性を口説く時のセオリー通りって云うのも……通用しない、だろうしな……。
 それに、第一。
 私が、どうやって彼に迫ればいいと云うんだ??
 

11/15/2002 嬉し恥ずかし告白タイム
 飛空艇ブラックジャック。
 …………の、一室。

「エドガー、一寸、話がある……んだが……」
 一見、平静を装いつつ。
 内心、どきどきモードのセッツァーは、二人っきりになったチャンスを逃さず、誰もいないキャビンに、エドガーを引きずり込んだ。
「ん? 何か用事? セッツァー」
 少々強引に、歩いていた廊下から、キャビンへと押し入れられたのだが。
 エドガーは、にっこり微笑えんで、だがこちらも、心臓を、ばっくんばっくん言わせつつ、セッツァーを見上げた。
「その、あの、だな……。一一良い天気だな」
 エドガーの微笑みにくらくらしてしまって。
 いっそ今直ぐ、押し倒したい誘惑に駆られたにも関わらず。
 どーしよーもない、お天気の話題なぞを、つい、セッツァーは口にしてしまう。
 案外、往生際が悪い。
「ああ……そうだね。今日は随分と、良い天気だ」
 が、エドガーの方も。
 唯、ひたすらに、にっっっっこりっ! ……と。
 己の湛えた表情を崩さぬことのみに専念してしまっているので、この二人、どっこいどっこいなのかも知れない。
「……で。話、なんだが」
 だがしかし。
 さすがに、度胸は一番さっ、で、世の中を渡って来たセッツァーのこと。
 腑甲斐無いままの自分ではいけないっ、と思い直したのか。
 こほん、咳払いを一つすると、キリリと表情を引き締め、エドガーを見据えた。
「ん?」
 と、唐突に引き締まったセッツァーの表情を見遣って、凄まじいまでに、エドガーの微笑みが深まった。
 ……何のことはない、引き締まった、と云うよりは、ねめつけてる、と一般的には云うだろうセッツァーの表情が、エドガービジョンでは、それはそれは『美男子』と映るが故。
 ぽややん……と床から離れてしまった心を誤魔化す為の、必死こいた微笑み攻撃、なだけなのだ。
 唯。
 やっぱり一般的に、その時エドガーの湛えた微笑みが、何となーく、魔物か何かが浮かべそうな笑みだなー、と云われそうなそれだと云うのに、御本人は気付いてはいないが。
 ま、尤も、うわー、人捕って喰いそうー……な、エドガーの笑みも、セッツァービジョンでは、それはそれは美しい天使の微笑みに見えてるんだから、何処までも、お互い様ってーか、馬鹿ってーか、色惚けするのもいい加減にしろよ、なお二人なんだろう、この人達。
「あの、な。エドガー」
「……何?」
 一一だからして。
 もしも、今の二人を端から見学している者がいたら、物の怪のタイマンにしか見えないとしても。
 どきどき、バクバク、ぽやややん……な二人は、何の違和感も覚えず、辿々しい会話を進め。
「その……。お前に、惚れ……ちまった、みたい、でな……。だから、あー…………。男の俺に、こんなことを云われるのは、嫌……だとは思うんだが……ちゃんと、恋人、として…付き合って貰えたら、と…まあ、そう思う、訳でな……」
「ほん……とう、に……? からかっているんじゃ……ないのかい? セッツァー……。 実を云うとね……私も君に、その…一目惚れ、をしていて……あの………」
 おーや、随分とあっさり、且つ『可愛らしい』告白のしあいっこですね、なやり取りを、彼等は交わした。
「…お前こそ。俺をからかってるんじゃねえだろうな……? 本気だぞ、俺は」
「私だって、そうだよ。本当に、君に一目惚れをしてしまったんだ……」
 そうして彼等は、ヒシッッと抱き合い。
 同性同士だろうが何だろうが、お互い大人だ、やるこたぁやる、と、自然と顔を近付け、自然と瞼を閉じて、自然と唇を交わした、……のだが。
 
 おーおー、初々しいことぉ。
 ってなノリのキスの後。
 抱き合ったままお二人さんは、固まってしまった。

 さて。
 この後、一体どうしたらいいんだろう……? と。
 二人共に、考え込んでしまったが為に。
 

11/16/2002 セッツァーさんのお悩み
 
 告白をして、だ。
 すんなりと、あいつが受け止めてくれたのに、文句なんざないんだ。
 そのまま、キスをした、ってのも、上出来、なんだ。
 …………あの出来事を言葉にすれば、多分、夢のような出来事、ってな物に、なるんだろう。
 ああ。
 至福の出来事、だった、正しくな。
 だが。
 問題は、そこからで。
 好きだと云って、好きだと云われて。
 キスをして。
 ……さて、そっから先、どーすりゃいいんだ?
 …………………………女、じゃねえからなあ、あいつは……。
 俺も立派な、且つ『健全健康』な、成人男子だからな。
 エドガーの奴が男だろうと女だろうと、想いが叶った以上は押し倒してみたいー……てな欲求は、きちんと覚えるんだが。
 押し倒して、服剥いで。
 で、そっから?
 ホモセクシャル、ってのの話を、全く知らない訳じゃねえが……『実践』、となると、勝手が違いやがるからなあ。
 噂だけは、聞き齧っちゃいるものの……男が男を抱くって……どーしろと……。
 あ、それよりも。
 それよりも更に厄介な問題が、一つあるじゃねえか。
 『健全健康』な成人男子の俺が、あいつを押し倒したいーと思うみたいに、あいつも、俺を押し倒したいー、とか考えてやがったら…………。
 閨の中で、具体的に何をどうするか、今一つ判らないにしても、だ。
 そう考えるだけで、一寸、寒気を覚えそうな気がする……。
 一一一一一うーむ……。
 まあ、あいつがそう考えてたとしても、最終的には実力行使、で勝てるんだろうが……。
 実力行使……。
 だから、何を、どうしろと?
 

11/17/2002 エドガーさんのお悩み
 
 ……。
 …………。
 ………………。
 一一一一判らない……。
 今一つ、理解出来ない……。
 どうすればいいんだろう。どうしたら、セッツァーと結ばれると云うんだろう?
 ああ、それはまあ、彼を慕っていた想いが叶って、キスまで交わしたのだから?
 我々は、結ばれた、と云えば、そうなんだろうけども……私だって、もう27だし。
 『それなり』には、そのぅ、ねえ……。欲求、と云うか。
 ないと云ったら、それは『大嘘』だしねえ。
 でも、それを叶える為には一つ、大問題、と云うのがあって。
 我々は、男同士だからして…………。うーん……。
 私に、国王と云う立場があれども、純粋培養、と云う訳じゃないのだから、ソドム、と云う世界があるのは、重々承知してるし、そっちの世界にはそっちの世界のやり方、と云うのがあるって云うのも、聞いたことがない訳じゃないのだけれど……。
 普通、知らないだろう。具体的な実勢方法、なんて。
 今まで、興味の欠片すら、なかった分野なのだし。
 どうしたらいいのかなあ……。
 一一常識的に考えた場合……多分、男女が閨で成すことの真似事をするんだろうが……。
 多分、そうなんだろうが………………。
 ……男同士、なんだけどね。我々は。
 その場合、どちらが女の真似事、をするのだろう……。
 女の側……を男がする……? どうやって……?
 ああ、何か考えるだけで、嫌な汗を掻きそう。
 一一それって、どうやって決めるんだろう。躰のことって、互い納得尽くでないと、難しいだろうしなあ……。
 実力行使……と云っても、何となーく、セッツァーが相手では、私が不利のような気もするし。
 うーん……。
 ……いや、それよりも。
 だから、男同士の場合の、実践方法……って……?
 


Next  Back