11/18/2002 聞くは一時の恥、知らぬは一生の恥 セッツァーさんの場合
 
 某年 某月某日
 某国の、ちょーっとばかり大衆的過ぎる、酒場にて。

 よっ。久し振りだな。
 お前さん、相変わらず達者そうだなあ。
 俺に、輪を掛けて遊び人の癖しやがって。
 一一あ? 俺にだけは云われたくない?
 ……俺だって、お前にだきゃあ、云われたくねーよ。
 処でな。実はちょいとお前さんに…………一一。
 一一ああ、違う。今日はそっちの遊びの誘いじゃねえよ。俺とギャンブルやったって、お前さんはつまらないだろう? 勝てた試しがねえもんな。
 ……そーだろーともさ。だから、そっちの誘いじゃねえっての。あからさまに、嫌そうな顔、すんじゃねえよ。
 じゃあ、何だ? ……って?
 だから。遊びの誘いじゃねえっての。
 あん? 女? …………女、の話って訳じゃねえんだが……まあ、似たようなモンと云えば、似たような……と云うか、何と云うか。
 一一一一いいか? 笑うなよ。ぜっっっっっっっっ……てぇ、笑うなよ? 笑ったらどうなるか、判ってんだろうな、お前。
 いいからとっとと云え? ……ああ、判ったよ。
 …………その。実は、な。
 あー……その……。俺様、とも有ろう者が、なんつーか。男、に惚れちまって…………。
 一一てめえっ。笑うなっつった側から、爆笑してんじゃねえっ!
 ……そーか、そーか。俺が男に惚れちまったって話は、酒吹き出して、テーブルぶっ叩くくらい、大受け出来ることか。
 一遍、死んでみるか? てめえ。

 一一一一一一っとに、余計な手間掛けさんじゃねえ。
 痛い目見る前に、大人しく黙っときゃ良かったんだよ。
 …………あ? 真剣に聞くから先を話せ? 本当かよ……。
 まあ、いいか。
 ……でな、兎に角、だ。
 ちょいとまあ、色々と、あって。男に、惚れちまったんだ。
 …で、それはその……仕方ねえなあ、で済むこと、だったんだが……。
 お前さんも知っての通り、お前と違って俺は、男と遊んだことはなかったからな。
 ……………『勝手』が判らねえんだよ。
 一一は? 何の勝手か?
 お前なー……。わざと云ってやがるだろう……。
 …………そーだよ。その、勝手だよっ!
 どーやって男を抱きゃあいいのか、その勝手が判らねえっつってんだ、俺はっ!
 からかってんじゃねえっ。俺はこれでも真剣なんだよっっ!!
 はん? 変な所、スレてない、だ? 今年、最大最高のジョーク?
 ……何で。男の抱き方が今一つ判らないってのの、何処がジョークだと……一一一一。
 一一だから、云ってんだろうが。マジなんだよっ。
 マジで、知らねえってのっ!
 ま、うすらぼんやり、でいいってんなら、判らないこともねえが。
 所詮はSEX、女とヤる時と、似たよーなもんだろ。
 唯、な。その。
 一応、相手のあることだから? 良く判らねえ、で済ます訳にも……。
 ……あー、そうだよっ。悪かったなっ。相手のこと気遣うくらい、本気なんだよ、俺はっっ。悪いかっっ。
 …………この野郎……。又、笑い出しやがって……。
 一一一一ん? あ、そうか?
 そこまで俺が真剣なら、具体的に説明してやる?
 …………一応……感謝する、とは云ってやるよ。今一つ、信用出来ねえがな……。
 …んで? どうすりゃいいんだ?
 とっくり、聞かせて貰おうじゃねえか。
 

11/19/2002 聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥 エドガーさんの場合
 
 某年 某月某日。
 フィガロ城の一角にある、国王陛下の侍医殿の部屋にて。

 忙しい処、すまないね。
 少し、聞きたいことがあって。
 一一あ、ああ……いや、大した話じゃないんだ。
 一寸ばかり、知りたいことが、そのぅ……ない訳でもない……と云うか、何と云うか……。
 え? ……そう……だねえ。
 体のこと、と云うか……うん、その推測は、間違いではないんだが。
 ……あああ、違う、違う。
 別に、何処か具合が悪いとか、自分で自分の健康を疑ってるとか、そう云うのではないんだ。
 私は至って、健康体だよ、うん。
 は? それじゃあ、何の話か、って?
 …………あーー、その。えー……まあ、こう……ねえ。
 あ、そうそう。云うなれば、知的好奇心、と云うか。
 そう云った類いのこと、で。深い意味のあることじゃ、ないんだ。
 ……ん? やっぱり、何処か加減が悪いんじゃないか?
 どうして?
 あ? らしくなく、言い淀む? 何処か、顔色も悪い? 思い詰めてるみたいだ?
 一一一一いや、別に、思い詰めてるって訳じゃ……。唯、一寸聞き辛い話題、と云うか、そのぅ……。うん…………。
 ……あ……、すまない。そうだね、心配させるつもりで、口籠ってたのではないんだ。
 侍医だって、忙しいだろうに……本当、申し訳ないね。
 一一あの。教えて欲しいこと、があって。
 で、その教えて欲しいこと、と云うのは……あー……えー……うーん……。
 有り体に云えば、その……お……おっ……おと……男同士、でね……男同士で…………閨、を…そのぉ……共にする時、の作法……って、あるのかなー……と、ふと…………。
 一一一一えっ!? 侍医? どうしたんだ、眩暈なんか起こしてっっ!!

 一一大丈夫かい? 眩暈はもう、治まった?
 ……すまない。私の所為、なのか?
 私は何か、突拍子もないことを聞いたのかな……。
 そうじゃない? それよりも、何でそんなことを聞きたがるのか云え、って?
 …………云わなきゃ、駄目、なのかな……?
 そう云う訳でもない? ああ、そう。それなら、良いのだけれども。
 うん……まあ、ね、さっきも云ったけど、知的好奇心を満たしたい、と云うか……そう云ったノリ、な訳で……。決して、それ以上の興味があるとかそう云うんじゃ……一一。
 一一もういい? どうして? ……良く判らないけど、もう良いと云うなら、黙るよ。
 ああ、そうそう。だからね。一寸……知っているなら、その辺りの事情と云うか……を、教えて貰えたらな、と。
 ……何で、自分に聞くのかって? 何故……って、君は、侍医だろう? 私の。
 体のことは、医術の心得のある者に尋ねるのが妥当かと思って。
 あ、ひょっとして、そう云うことは、侍医にも判らない…のかな。
 ん? 判らない訳じゃない? そう? 良かった。
 でも、どうしてそんな、泣きそうな、困ったような、何とも言えない顔をしているんだい? ……って、気の所為だ? ……なら、いいけど……。
 一一で? 判ると云うならば、教えてくれないかな。
 ……は……い?
 教えてもいいけれど? その為には、どうしても聞かなきゃならないことがある?
 …………何を?
 

11/20/2002 一生の恥を掻かぬ為に、お耳の穴をかっぽじったのに  セッツァーさんの場合
 
 ……悪い。
 すまねえが、もう一回、云ってくれないか。
 …………………………。
 で?
 いや、だから。
 ……それ、で?
 一一ああ、悪い、聞き方が悪かったな。
 俺の知りたかったことに答えてくれたお前の話が、聞こえなかった訳じゃあねえんだ。
 その、だな。
 今一つ、理解が及ばなかった、と云うか、だな……。
 つーか、な。
 男とヤろうが女とヤろうが、することは一緒っ! ……と力説されてもな……。
 その、すること、の具体例が判らないから、俺は尋ねてるんだが?
 一一あーん? なんだと?
 …………もう一度殴られてぇか? てめえ。
 女とヤる時にどうすりゃいいのかくらい、今更てめえに教えられなくったって、充分判ってんだよ、俺はっ! 充分過ぎる程だっ!
 だから、そうじゃなくって。
 男だ、男っ! 男と…………一一。
 ……だからなー、お前なー。さっきから、何度も云ってるだろう?
 男も女も一緒っ! って云われても、だな……。
 ……ん? 要するに、女が抱けるなら男も抱ける?
 実践的には問題がない?
 ……そう言うもんか?
 一一何を不思議がることがある? と云われても、だな……。
 不思議がるに決まってるだろう。
 いいか? 女とヤる時ってな…………だろ?
 ……そうだろ? 途中行程省けば、ソコだろ? とどのつまりは。
 だが、男にゃそれは、ないだろ? 少なくとも、俺にゃねえぞ?
 ……は?
 代用箇所がある?
 …………何処に?
 一一いや、自分の体をよーく思い出して考えてみろ、と云われても。
 俺には、マジマジてめえの体を眺める趣味はないんだが。
 ……あ? どうしたんだよ、手なんか叩いて。
 思い出した? 何を? は? 重要なことを一つ忘れてた?
 抱くのか抱かれるのか、どっちなんだ? って?
 大切な、運命の選択?
 それで、人生が決まる?
 …………大袈裟だな、オイ……。
 ………いや、その……。両方の道を極めても問題はないんだ、と云われても、だな…………。
 

11/21/2002 一生の恥を掻かぬ為に、お耳の穴をかっぽじったのに  エドガーさんの場合
 
 …………御免、侍医。
 一寸、今眩暈を覚えた……。
 ああ、もう大丈夫だよ。心配ない。
 いや、だって、ね……。
 抱く方と、抱かれる方と、どちらに興味があるのですか、と問われても……。
 挙げ句、どちらも可能です、と云われても……。
 そんなこと、真顔で淡々と語られれば、眩暈の一つも覚える。
 大体ねえ……どちらに興味があるか、と云われてもねえ……。
 その、どちらも私には未知の領域なのだからして……。
 一一ああ、ねえ、侍医?
 もしかして、それって、抱く方も、抱かれる方も、することは何一つ、変わらない、と云うことかい?
 だとすると、益々、私には良く判らなくなるんだが……。
 ……え? そうじゃない?
 一応、差はある?
 …………あの、ね。
 私から、こんな話を切り出しておいて何なんだが。
 同性同士、と云うことは、体の構造に差異が無い、と云うことだろう?
 なのに、差があるって……どうして?
 女性と……あー……その。する……時のようには行かないのだろうなって、それくらいの想像は、私にだって付くのだから。
 どうして、体の構造に差異がない者同士のそれで、差が生まれるのか……理解出来ないんだが。
 ……うん? だから、そこの処をどうしても聞かなきゃならないんだ?
 そこが、一番重要?
 運命の分かれ道……って、そんな大袈裟な……。
 でも、どちらも可能なのだろう?
 どうしてそこで、運命の分かれ道などが生まれると……?
 一一一一はあ? 痛い思いはしたくないですか?
 ……そりゃ、痛い思いなんて、誰だってしたくないだろうねえ。
 私も、そうだ。
 痛い思い……って、どうしてそんな単語が出て来るんだい?
 何も知らない女性に話をしている訳じゃないだろうに……。
 え……。似たような、もの……? 何、が……?
 抱かれる方になると、痛い思いをする?
 一一侍医。一寸待ってくれないか。
 それ、って………それって? え?
 女性が、破瓜の時に感ずるような痛み、と云うこと?
 ……ん? ほぼ、正解?
 …………………でも、侍医?
 私は、男なのだから?
 そのー……女性のそう云う器官に該当する身体部位の持ち合わせは、ないんだが……。
 ……破瓜??
 させる場所もないのに、破瓜……????
 

11/23/2002 事実は小説よりも奇なり、に遭遇しちゃったの  セッツァーさんの場合
 
 某国にある、ちょーっと大衆的過ぎる酒場の片隅にて。
 男色って物の経験を持ち合わせた遊び仲間を捕まえ、男とのナニを成す為には、一体全体どうしたらいいんでしょう? と云う質問をしていたセッツァーは。
 酒の所為もあるのだろう、それはそれは楽しそうに、が真剣な顔をした遊び仲間がその時云ったことに、かるーい眩暈を覚えて、ずきずきと痛み出した前頭部を片手で押さえた。
 下らないと云えば余りにも下らない、が当人にしてみれば、今現在の最優先事項、これを知っておかなきゃ明日は始まらない、な質問に、それまで遊び仲間が答えてくれたことだって、クラクラと頭の芯が揺れそうな物だったのに。

「だからー。さっきから俺が云ってることを、よーーーく考えてみればいいだろ? 男にもある『代用品』、運命の選択、抱くも抱かれるも、どっちもOK! って言葉から考えりゃ……。……って、判らない? あ、そ。一一だからなー。男同士のナニってのは、あそこ使うんだよ、あ・そ・こ。一一一一鈍いやっちゃなー。未だ判らねえのか? あそこってのは、医学的に云うんなら、消化器官の末端に付いてる、開口部。一般的に、こ………一一。あ、全部は云わなくていい? あ、そう」

 にんまりと笑いながら、眼差しは殊の外真摯に、遊び仲間がそんなことを云うから。
 衝撃の告白、今明かされた、隠された真実、ってな物に、セッツァーが眩暈と頭痛を覚えた気持ちも、判らなくもないし。
「……お前……俺のこと、担いでないか……?」
 嘘だろう? 頼むから、嘘と云ってくれ、ジョークだろ? と云う顔をして、遊び仲間に迫った彼のいたたまれなさも、理解出来なくもない。
 一一しかし。
「……嘘こいてどーするよ。マジだぞ? …あのな、セッツァー。振り返って、よーく考えてみな? 俺達男にゃ、女の持ってるナニはねえよな? でも、男って生き物は、挿れなきゃ始まらないだろ? あそこ以外、何処代用に使うってんだよ。……んで。男同士の場合、だ。両方共、挿れるモン持ってりゃ、挿れられるモンも持ってるからなあ。自分も相手も、上にもなれるし下にもなれる、と。……納得したか? まあなー、手や口で、ってのも、アリなんだろうが。お前さんがそれで、満足出来るタマだとは、思えねえしなー」
 見方によっては、うるうるしているつぶらな瞳で、お願いっ、嘘って云ってっ! ……と訴えている風にも見えるセッツァーに、追い打ちを掛けるように。
 遊び仲間はさらりと云った。
「あー、でも。案外、お前みたいなタイプでも、一回押し倒されてみれば、違う世界に目覚めるかもなー。その、惚れた相手とやらと、色々試してみたらどうだ?」
 更に、彼は。
 語られた事実にフリーズし掛かっているセッツァーに、そんな追い打ちの言葉まで掛けた。
 一一だもんだから。
 友人のからかいの言葉に、フリーズの呪縛から解かれ、殆ど条件反射のノリで、相手をぶん殴り、叩きのめし。
 事実って奴は、小説よりも奇なり、と云う言葉と。
 愛って受難、って言葉を、未だに眩暈の治まらない脳裏に過らせ、ふらふら、飛空艇へと戻って。
 その夜、彼はそのまま、寝込んでみた。
 

11/24/2002 事実は小説よりも奇なり、に遭遇しちゃったの  エドガーさんの場合
 
 御自身がお住まいの、フィガロ城の一角にある、国王陛下の侍医殿の部屋にて。
 知的好奇心、などと云う、そりゃあ一発で嘘ってばれるでしょう、貴方、な言い訳を引っ下げ、男同士で閨を共にする時はどうしたらいいんですか、な質問を、侍医にぶつけていたエドガーは。
 己が主人から放たれた質問の奇異さに、眩暈さえ起こし、が何とか立ち直った侍医に、質問に対する、全然噛み砕かれていない説明をされ、頭を抱えていた。
 晴れてめでたく両思いになった相手と結ばれる方法はどうしてたって知りたいんだけど、破瓜って何? 破瓜って何っっ? ねえ、何っ? ……と、先程侍医に告げられた言葉を、ぐるぐると脳内で回転させつつつ。
 
「えー……。ですから、陛下。今更、男女の身体に関して、語る必要はないと思いますので、そこの処は省かせて頂きますが。ま、要するに。至極分かり易い例えで申しますならば。一一生殖器的に、男女の組み合わせを『凹凸(でこぼこ)』と致しますと、男同士の組み合わせは、『凸凸(ぼこぼこ)』な訳です。ですから、女性の……あー……へこみ、の替わりにですね、男女の区別なく、身体に備わっている器官を使う訳でして」

 一一と、そんな風に、ぐるぐるぐるぐるしている、エドガーに。
 医者らしいんだか医者らしくないんだか、貴方は本当に医師ですか? と疑いたくなるよーなアバウトな説明を、侍医が始めた。
「………あ、の。……その器官、て……?」
 さらっと、極力無表情であることを心掛けつつ語った侍医に、エドガーは恐る恐る、事の核心部を尋ねる。
 だって、一番の問題はそこだから。
 すれば、侍医は。
「『anus』、と呼ばれる器官ですね。実際に使用されるのは、『anal』ですけども。あ、説明した方が宜しいですか? 両者の違い。後者は消化器官末端部にある開口部分のみを指し示し、前者は開口部分とその周辺の、まあ、簡単に云えば、皺とか、そう云った部分までを含む、と云う差異ですが。一一その部位でしたら、性別に関係なく、人間には持ち合わせがありますので。男同士と云う組み合わせの場合、抱く方も、抱かれる方も可能です、と申し上げている次第です。でもですね、陛下」
 まるで、立て板に水、の如くな説明を展開し。
「……はあ……」
「どちら共に、どちらの立場を取れるとしても、与える方と与えられる方では、歴然とした差が生まれる訳です。で、受け止める方になられた場合。本来あそこは、そう云った用途に使う器官ではありませんから、先程申し上げたような、女性で云うならば、破瓜のような思いをするらしい、と。納得頂けましたか?」
 進められて行く話の、衝撃的な内容に、ちょっち呆然となった主人を置き去りにして、侍医は、『講議』を締め括った。
「………………うん。まあ……ね……。納得、は出来た……と云うか……。知識は、付いた。少なくとも……」
 これで宜しいですか? と。
 己の机に着いたまま、上目遣いで見上げて来た侍医に、曖昧な言葉をエドガーは返す。
 そうして、彼は。
 聞いてしまった真実に、よろりら、としながらも、何とか部屋に戻るべく、自力で歩き出したのだが。
「あ、お待ち下さい、陛下」
 何を思ったんだか、突然、あ、と云う顔をした侍医に、彼は呼び止められ。
「…………何?」
 生気をごっそり抜かれたよーな顔のエドガーは、一応振り返った。
「えーっとですね。…………確かこの辺の蔵書の何処かに……。一一ああ、あった、あった。どうぞ、お持ち下さい。」
 立ち止まった彼を、そのままの体勢で待たせ、あっちをごそごそ、こっちをごそごそ、と侍医は、机の周りを引っ掻き回して、一冊の本を差し出した。
「何の本……?」
 ずいいっ! と押し付けられた本を、条件反射で受け取りながらも、エドガーは嫌な予感を覚える。
「『Gay Bowel Syndrome』。『男性同性愛者腸症候群』と云うものに関する、レポートが記されている本です。……まあ、『色々』と、参考にはなるか、と」
「…………………………。あ、そう……。すまないね……」
 一一刹那覚えた、エドガーの嫌な予感は、しっかりばっちり、当たっていた。
 物騒なタイトルの本を手渡すや否や、御武運を、とでも言いたげな顔を侍医にされ、目の前が遠く霞んで行くのを感じつつ、エドガーは再び歩き出す。
 そうして、彼は。
 よろりらりら、と、本を抱えつつ自室へ戻り。
 その直後、知恵熱を出して、寝込んだ。
 


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