final fantasy VI@江戸時代パラレル

春の坂道

 


 

※ 始めにお断りです ※
この物語は、FF6セツエドの時代劇パロです。
又、この話に登場する風俗は、ほぼ、文化・文政時代(1804〜1830年)
のそれに該当するかと思いますが、物語の舞台と位置付けた時代は、
寛永〜慶安年間(1624〜1654年)であり、時代考証が一致しておりません。
予めご了承下さい(でないと書き辛かったんです(汗))。
ですので、注釈のある事以外は、頭から信じないように。作者よりのお願いです。
尚、歴史&時代劇ファンの方、突っ込まないで下さい。
あっ、後、剣術やる方も、笑って流して(懇願)。
 

 


 

 

 只でさえ、鋭い目付きを、更に細め。
 その侍は、馴染みの一膳飯屋にて対面している女を、じろりと睨み付けた。
「そーーんな恐い顔してみせたって、駄目なものは駄目ですからねっ。旦那、判ってますかい? 家の店のツケだって、あーーんなに溜めちゃって。それ、誰が肩代わりして差し上げてると思ってんです? 頼みの一つや二つ、聞いてくれたって、罰は当たらないと思いますけどね」
 が、鋭い眼光で以て射抜かれた女は、侍よりも凄まじい鋭さを目許に浮かばせ、ギロッと侍を睨み返した。
「……ふざけた事、抜かしやがるな。どーーっして俺が、目黒くんだりまで行かされなきゃならねえってんだよっっ。餓鬼の遣いじゃねえんだっ。のっぴきならねえ用件だってんなら、世話になってるあんたの頼みだ、聞いてやらねえ事もねえがっ。団子だぞ、団子っ!」
「仕方ないじゃないですか。目黒のお不動さんの参道の、茶店で売ってるお団子が美味しいって、今、そりゃあ評判で。あたしもお手奈ちゃんも、食べたいって思ってんですから。それっくらい事してくれたって、いいでしょうが」
「だからっ! たかがそれだけの事で、本所から目黒まで、わざわざ行けってかっ!」
「そうですよ。さっきから、そう云って頼んでますでしょ?」
 一一睨み合った彼等は。
 暫くの間そうやって、飯屋の机を挟み、言い合いを繰り広げていたが。
「団子の為だけにそんな事が出来るかっっ」
「あ、いいんですよ。嫌ってんなら、べっっつに、曲げてまで、なんてお頼みしませんよ。但し。家の店のツケと、この飯屋のツケ、今直ぐ、耳を揃えて払って下さいましね」
「てっめえぇぇっ……」
 『遣い』に行くのが嫌ならば、と、さらりと女が云った『交換条件』に、侍は、言い返す言葉を持たなかった。
 あちこちで溜め込んでしまった飲食のツケを、今直ぐ払えと云われれば、彼にはぐうの音も出ない。
 尤も、それを見越して、女は云ったのだけれど。
「……判ったよ。行きゃぁいいんだろ……」
 だから渋々、侍は立ち上がった。
「ええ。一一じゃ、宜しく。多分、二十文もあれば足りる筈ですから」
 本所から目黒まで、と云う、団子一つ買い求めるにしては長過ぎる距離の遣いへと出る為、背中に哀愁を漂わせ始めた侍に、女はにっこりと微笑んで、金を渡した。
「もう二度と、『羽織り』※1は信用しねえ……」
 渡された、二十文の銭を、ちゃらりと懐に仕舞い込んで、侍は溜息を一つ付くと。
「いってらっしゃい。気を付けて下さいね、雪さん」
「……ああ」
 飯屋の娘、お手奈の声に送られて、店の暖簾を潜った。
 

 

 ※1 辰巳芸者の意。巽芸者とも書く。辰巳芸者とは、深川仲町の芸者の事。江戸城から見て辰巳の方角にあったので、辰巳芸者と呼ばれ、羽織りと渾名された由縁は、男物の羽織りを羽織ってお座敷に上がっていたから。但し、これも、文化・文政時代の話。この時代、未だ芸者と云う職業は、存在してません。

 

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