むかぁしむかし、から。
とある、高い高いお山を越えた一一そのお山が、コルツ山でないことだけは確かだが、具体的な場所は、秘密一一、やっぱり、とある深い、森の中に。
ちょっと……いや、多少……うーん……かなり?
ま、度合いはどうでもいい。
兎に角、ぶっちゃけて云えば、……胡散くさーーーーい、と。
でっかい声で云いたくなる、『伝説』を抱えた、小さな泉がある。
一一では、その泉が抱える胡散臭い伝説、それは何か、と云えば。
良く有りがちっちゃあ、有りがち、だが。
「貴方の願いを、何でも一つだけ、叶えてあげます by 泉の神様」
…ってな奴で。
今日日、そんな伝説、信じる者など、ほんっっとーーーーーー……に小さな、お子様、くらいなもんなのだが。
この、物語は。
そんな風に胡散くさーーーーーーい伝説を抱えた、小さな泉の畔で唱えられた、一つの願いごと、から始まったりする。
……誠に、馬鹿馬鹿しい、が。
それは、ある日のことだった。
かつては、それでも霊験あらたか一一本当なんだろうか……一一な泉として有名だった、その場所も。
今では、余り人が分け入らないもんだから。
こう……ね、一部の人間達の、おでぇとスポット一一スポット、云われるくらいだったら、人の出入りがあるんじゃん、と云うツッコミは、しないように一一、と化していて。
どっかの誰かさんと、どっかの誰かさんは、静かな泉の畔で、おでぇえと、をしていた。
……どっかの誰かさんと、どっかの誰かさんが、一体何処の誰なのか、書かなくてもいっかなー…なんて気も若干するが、まあ、一応当方は物語を語っている訳だからして、渋々ながらも、記載してみよう。
いい加減、ワンパターンだとは思うが。
一一おでぇえと中の、どっかの誰かさんと、どっかの誰かさん。
そう、言わずもがな、ギャンブラーのセッツァー・ギャビアーニ殿と、フィガロ国王、エドガー・ロニ・フィガロ陛下、である。
いちゃいちゃ、らぶらぶ、と、おでぇえと中の彼等は、泉の畔で、ま…色々と、『語らって』いたりなんかしたのだが。
その時、ふっと。
よしゃあいいのに、セッツァーが、泉の話をし出した。
「そう云えば。すっかり忘れてたが、この泉。何でも、一つだけ、願いごとを叶えてくれるそうだな」
「……ああ、そんな伝説があるねえ。どうせ、夢は夢、だろうけど」
己が恋人であるセッツァーが言い出したことを聞き、現実主義者のエドガーは、コロコロと、笑った。
うむ。笑いたくなる気持ちは、良く判る。
「俺も、そう思う。でも、中には、藁にも縋る思いって奴で、ここに願掛けに来る奴も、今だにいるらしいぞ?」
恋人の笑いを受けて。
エドガー以上の現実主義者であるセッツァーも、肩を竦めた。
「へーえ……。ま、そんな気持ちも、判らなくはないけどもね。でも、世の中には、どうしたって叶わない願いって云うのがあるだろう? そういう物が存在している以上、この泉に何かを願って、それが叶ったって云うなら、たまたま、か、最初からそうなることだったのか、確率か……の問題だと思うけど」
「だな。……仕方ないんだろう。人間ってのは、何かに縋って生きていたい生き物だからな」
笑い合い、肩を竦め合い、彼等は、そんな風に、他愛無い話を進めて行く。
そして、その辺で止めときゃ良かったのに。
「それで何とかなるんだったら、苦労はしないけどねえ、誰も。だって、そうだろう? 例えば、我々みたいな関係の者が、ここを訪れて、子供を授かりたい、なんて願ってみたって、叶う訳がないじゃないか。私のお腹の中に、子供が出来る筈もない」
「………………そりゃそうだ…。一一一一しかし、不気味だなー……。万が一、お前の腹が膨らんだ日にゃ、俺は寝込むぞ、絶対」
「君が寝込む前に、私が寝込むよ。冗談じゃない。男の私に、子供が出来て堪るもんか。そんなこと、こうやって、泉の神様とやらに、『我々の子供を授けて下さい』……って祈ってみたって、有り得ないことだよ」
……………ええ。
止めときゃ良かったのに。
エドガーは。
セッツァーと語りながら、泉に向かって、願いごとをする真似まで、してしまった。
これが、後日、禄でも無い事態を招くとも知らず。
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