授かり物


08/07/2002 発端(記載・『天の声』)
 むかぁしむかし、から。
 とある、高い高いお山を越えた一一そのお山が、コルツ山でないことだけは確かだが、具体的な場所は、秘密一一、やっぱり、とある深い、森の中に。
 ちょっと……いや、多少……うーん……かなり?
 ま、度合いはどうでもいい。
 兎に角、ぶっちゃけて云えば、……胡散くさーーーーい、と。
 でっかい声で云いたくなる、『伝説』を抱えた、小さな泉がある。
 一一では、その泉が抱える胡散臭い伝説、それは何か、と云えば。
 良く有りがちっちゃあ、有りがち、だが。
「貴方の願いを、何でも一つだけ、叶えてあげます by 泉の神様」
 …ってな奴で。
 今日日、そんな伝説、信じる者など、ほんっっとーーーーーー……に小さな、お子様、くらいなもんなのだが。
 この、物語は。
 そんな風に胡散くさーーーーーーい伝説を抱えた、小さな泉の畔で唱えられた、一つの願いごと、から始まったりする。
 ……誠に、馬鹿馬鹿しい、が。


 それは、ある日のことだった。
  かつては、それでも霊験あらたか一一本当なんだろうか……一一な泉として有名だった、その場所も。
 今では、余り人が分け入らないもんだから。
 こう……ね、一部の人間達の、おでぇとスポット一一スポット、云われるくらいだったら、人の出入りがあるんじゃん、と云うツッコミは、しないように一一、と化していて。
 どっかの誰かさんと、どっかの誰かさんは、静かな泉の畔で、おでぇえと、をしていた。
 ……どっかの誰かさんと、どっかの誰かさんが、一体何処の誰なのか、書かなくてもいっかなー…なんて気も若干するが、まあ、一応当方は物語を語っている訳だからして、渋々ながらも、記載してみよう。
 いい加減、ワンパターンだとは思うが。
 一一おでぇえと中の、どっかの誰かさんと、どっかの誰かさん。
 そう、言わずもがな、ギャンブラーのセッツァー・ギャビアーニ殿と、フィガロ国王、エドガー・ロニ・フィガロ陛下、である。
 いちゃいちゃ、らぶらぶ、と、おでぇえと中の彼等は、泉の畔で、ま…色々と、『語らって』いたりなんかしたのだが。
 その時、ふっと。
 よしゃあいいのに、セッツァーが、泉の話をし出した。
「そう云えば。すっかり忘れてたが、この泉。何でも、一つだけ、願いごとを叶えてくれるそうだな」
「……ああ、そんな伝説があるねえ。どうせ、夢は夢、だろうけど」
 己が恋人であるセッツァーが言い出したことを聞き、現実主義者のエドガーは、コロコロと、笑った。
 うむ。笑いたくなる気持ちは、良く判る。
「俺も、そう思う。でも、中には、藁にも縋る思いって奴で、ここに願掛けに来る奴も、今だにいるらしいぞ?」
 恋人の笑いを受けて。
 エドガー以上の現実主義者であるセッツァーも、肩を竦めた。
「へーえ……。ま、そんな気持ちも、判らなくはないけどもね。でも、世の中には、どうしたって叶わない願いって云うのがあるだろう? そういう物が存在している以上、この泉に何かを願って、それが叶ったって云うなら、たまたま、か、最初からそうなることだったのか、確率か……の問題だと思うけど」
「だな。……仕方ないんだろう。人間ってのは、何かに縋って生きていたい生き物だからな」
 笑い合い、肩を竦め合い、彼等は、そんな風に、他愛無い話を進めて行く。
 そして、その辺で止めときゃ良かったのに。
「それで何とかなるんだったら、苦労はしないけどねえ、誰も。だって、そうだろう? 例えば、我々みたいな関係の者が、ここを訪れて、子供を授かりたい、なんて願ってみたって、叶う訳がないじゃないか。私のお腹の中に、子供が出来る筈もない」
「………………そりゃそうだ…。一一一一しかし、不気味だなー……。万が一、お前の腹が膨らんだ日にゃ、俺は寝込むぞ、絶対」
「君が寝込む前に、私が寝込むよ。冗談じゃない。男の私に、子供が出来て堪るもんか。そんなこと、こうやって、泉の神様とやらに、『我々の子供を授けて下さい』……って祈ってみたって、有り得ないことだよ」
 ……………ええ。
 止めときゃ良かったのに。
 エドガーは。
 セッツァーと語りながら、泉に向かって、願いごとをする真似まで、してしまった。
 これが、後日、禄でも無い事態を招くとも知らず。

08/07/2002 ……何となく(記載・エドガー)
XXXX年 XX月 XX日

……先日、セッツァーと二人で、訳の判らない、胡散臭い、眉唾物の伝説だか何だかがある、泉の畔で逢瀬をしてから。
何となく、体調が良く無い。
取り立てて、何処が悪い、と云う訳でもないのだけれど……こう……ダルい、と云うか、体が重たい、と云うか……。
…まあ、単に疲れているのだろう、とは思うし。
侍医達に診せても、何処にも問題はない、と云うから、その内治るだろう。
夏バテでも、したのかな。

セッツァーに、体調不良のことを洩らしたら、けらけら笑いながら、意地悪そうに、泉の神様とやらが、『願い』を叶えてくれようとしてるんじゃねえのか? ……なんて、云われた。
馬鹿馬鹿しい……。

08/08/2002 ……物凄く、嫌な予感(記載・エドガー)
XXXX年 XX月 XX日

あれからずっと。
吐き気が収まらなくって、貧血も酷くって。
どうしたら体調が元に戻るのか、が、最近の悩みになっている。
でも、侍医達は依然として、体の何処にも、異常は無いと云う。
……何がいけないんだろう……。
何か、物凄く嫌な予感がする。
先日、ばあやに、まるで女性が懐妊した時のような症状ですわね、と云われてしまった所為もあって、この間の泉にての出来事が、頭から離れない。

……まさか、ね……。


08/08/2002 …………痛い(記載・エドガー)
XXXX年 XX月 XX日

痛い……。
ここ数日、ずーーーーーーーーーーーーーーーー…………っと。
お腹が、痛い……。
どうしたと云うんだろう、私の体は……。
何処も何も、悪くない筈なのに……。

08/09/2002 勘弁してくれ(記載・セッツァー)
XXXX年 XX月 XX日

最近、体の調子が良く無いと、エドガーの奴がブツブツ、零しやがるから。
さすがの俺でも、フィガロを訪れる気になってみたんだが……。
さて、どうしたもんか……。
体調が良くないと、一等最初に聴いた時は、症状が症状だったから、泉の神様が、なんて、馬鹿げた冗談、口にしてみたが……。
何やら、フィガロを訪れてから数日の、あいつの様子を見てると、冗談が冗談にならない雰囲気が漂ってやがる……。
まあ、だからって? 馬鹿げた奇跡なんざ、この世にある訳がねえし。
あいつの腹が膨らんで来た一一自分で書いてて、おぞましくなって来たな……一一、なんてことは、ないんだが。
どうせ、単なる夏バテだろう、そんなノリで済ませることも出来そうなんだが………………。

……ちょいと、『勘弁して欲しい』、そんな感情が、不意に訪れるのは、何故なんだ………??


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