DRAGON QUEST Ⅰ
『冒険の書 ─アレフ─』
前書きに代えて
この作品は、当サイトのDQ@ロトシリーズの二次創作小説の本編に当たります、『ROTO』と言う作品をお読み下さっている方を対象に書かれています。
故に、大変申し訳ありませんが、その旨、ご了承下さい。
叶いますなら、上記作品をお読み下さってから、以下をお読み頂けますよう、お願い申し上げます。
それでは、どうぞ。
我が一族の始祖、偉大なる勇者ロトに倣って、私は今より、これを綴ろうとしている。
──勇者ロト、と言う呼称は、始祖たる彼──本当の名をアレク・ハラヌと言う彼には、実に憤懣遣る方無いものだろうが、私にとって、彼は先祖でありアレクであると共に、『勇者ロト』であるのにも違いなく、誰に何と思われようと、これの冒頭には、そうやって書き記しておこう、と以前から決めていたので、思う通りにさせて貰う。
────私は、私自身の旅の終わり、勇者アレクが私達子孫に宛てた手紙のような、回顧録のような手記を手に入れた。
そこには、ロトの称号を授かった彼の、言ってみれば『想いの丈』が綴られていた。
あの手記を読み終えた直後の私の想いを、一言で語ることは到底敵わぬけれど、故に、勇者アレクに倣って、私も同じことをしようとしている、とだけは言える。
──では、改めて。
私がそうだったように、勇者アレクと私が繋ぐロトの血と共に、『勇者の運命』をも受け継いでしまうかも知れない、彼と私の大切な子孫へ。
私の名は、アレフ・ハラヌ。
又の名を、アレフ・ロト・ローレシア。
後の世のお前達が混乱せぬように、私の現在の肩書きも、一応、書き連ねておこうか。
ロトの血を引く勇者であり、ローレシア王国初代国王。
……それが、私だ。
何処までも先祖をなぞってしまうが、勇者アレクが、ロトでなく、アレクと呼ばれたい、と手記に綴っていたように、私も、大切な子孫のお前には、ロトの血を引く勇者とか、御先祖とかではなく、アレフと呼ばれたい。
宜しく頼むよ。
かつて、私が手に入れた勇者アレクの手記には、彼の想いの丈としか例えようの無い、彼自身の半生が綴られていた。
何故、彼がそのようなことをしたのか、本当は何を書き記そうとしたのかの詳細は、私の口からは語れない。
今現在私の手許には無い勇者アレクの手記に、何時の日か、お前の手が届くように祈ることしか私には出来ない。
あれは、お前自身が、お前の人生の中で手に入れるべきものだ。
但、自身の手記の中で、彼が、ロト伝説や正史に自ら手を加えた、と打ち明けたのは事実で、そんな事情もあり、私達、ロトの血と共に『勇者の運命』をも背負った子孫だけには真実を伝える目的も兼ね、彼は己の半生をも綴ったのだけれども、アレクが、ロト伝説や正史に手を加えることによって、歴史の向こう側に隠してしまったことよりも尚、私自身が歴史の向こう側に隠してしまったことの方が、遥かに多いように思えてならぬから、長話に付き合わせてすまないが、私も、私の半生を綴ることから始めようと思う。
今更、言わずもがなだが、私は、アレフガルド大陸の、ラダトーム王国の一都市、商業の都だったドムドーラで生まれた。
但し、私自身には、ドムドーラの記憶は無いし、思い出も無い。
物心付いた時には既に、ラダトーム王都の教会で暮らしていた。
私が生まれて間もない頃、ドムドーラは、あの頃の世界を脅かしていた竜王配下の魔物達に攻め落とされ、滅亡してしまった。
が、不幸中の幸いで、ドムドーラの民の何割かは逃げ延びることが叶い、大半は、難民となって王都に身を寄せた。
私も、その内の一人だったそうだ。
今尚、詳細な事情は判らない。
私は、ドムドーラの難民の一人で、あの街の滅亡を境に孤児となった、としか。
……あの頃のラダトームには、私のような孤児が大勢いた。
そんな孤児達の殆どは、親兄弟全てを失ったか、親と逸れてしまったかのどちらかで、身寄りも無く、自分が何処の誰かも判らぬ者とて、少なくなかった。
私もその例に漏れず、身寄りも無ければ氏素性も不明だった。
アレフ、と言う名しか持ち得ていなかった。
ラダトーム教会に私を預けて息絶えた者が、今際の際に、「この子の名はアレフだ」と伝えてくれたそうで、お陰で、恐らくは生みの親達から授かったのだろう名だけはあり、以降、私の『家』は、あの教会となった。
あの頃のラダトーム教会は、王家の庇護の下、孤児を受け入れ育てていたのもあって。
この辺りのことも今更な話で、今となっては歴史の一つだが、私が生まれた頃より数えて十数年程前に、世界を天変地異が襲った。
最初は、一体何が起きたのか、誰にも理解及ばなかった。
が、地殻変動まで引き起こした天災が起きたばかりの頃は、未だ、若干ながら大陸間の船の行き来があり、多少は他国の情勢も知れたそうで、アレフガルドでも、その他の大陸でも、勇者アレクが大魔王ゾーマを滅ぼして以降、その数を急激に減らし、影に隠れるように生きていた魔物達が、突然世に溢れ、人々を襲い始めた、と言うことだけは直ぐさま周知になった。
アレフガルド大陸から見れば東、ムーンブルク大陸から見れば北に、真新しい大陸が浮上したらしい、との噂も伝わったそうだが、世の人々が噂の真偽を確かめるより早く、各大陸は、かつてゾーマが君臨していた頃に同じく、『外』に出ることも入ることも叶わなくなり、誰もが、自国、若しくはその刹那に滞在していた国に閉じ込められてしまった。
……そうやって、人々が分断され、又は遮断されてより数年。
ラダトーム王都対岸の魔の島の、勇者アレクの時代はゾーマの城と呼ばれていた廃城を、新たなる魔が自らの物とした。
…………そう、その『魔』は、竜王。
この世界に現れた、新たなる、二度目の『魔』の名は竜王と言うのだと人々が知ったのも、竜王が、魔の城に腰下ろして数年後のことだったけれども。
────上記の、既知となって久しい歴史から判る通り。
私が生まれたのは、魔物が人々を襲い出し、竜王がこの世界に出現してより十数年も経った頃だった。
……ゾーマが滅してより幾星霜。
伝承では、三百年とも四百年とも言われているその間、ラダトームは栄華を極めていた。
元々から、ラダトーム王国は、この世界では一、二を争う長い歴史を誇っており、それに加え、勇者アレクの時代、当時の国王ラルス一世が、遥か昔からアレフガルドに言い伝わっていた、今では粗筋すら判らない伝説に基づき、アレクへ真の勇者のみに与えられるロトの称号を授けた、と言う歴史的事実をも後ろ盾としていたので、我々の世界の正史でもあるロト伝説を生んだ、歴史ある大国として、半ば世界の覇権を握っていた。
故に、竜王が出現するまでのラダトームは、栄華を極めた、楽園のような所だったらしいが、私が子供だった頃は、誇った栄華も褪せ始めていたし、楽園でも無かった。
何処の国でも似たようなものだったとは思うけれども、人々は一様に、己達を襲い喰らう魔物に怯え、魔物達の支配者たる竜王に怯え、その力を恐れ、ロト伝説や正史の中に記されている、大魔王ゾーマの『不吉な予言』が本当のことになってしまった、と嘆くばかりの日々を送っていた。
誰もが疲れ始めていたし、誰もが希望を手放し始めていた。
何時、誰が、そうと言ったのかも判らぬ、『世界に新たなる魔が現れし時は、勇者ロトの血を引く者も現れる』との、古き言い伝えのみを心の支えにしていた。