「どうせ、アレク様とアレフ様には色々諸々バレているのだろうから、と思って、毎度の『ちょっかい』を掛けられた際に、お二人にも訊いてみたんだ」
「へぇ……! ロト様と曾お祖父様は、何て?」
「アレク様は、絶対に、誰にも何も教えない、と笑って誤摩化された。アレフ様には、曾お祖母様とのあれこれを、赤裸々に、もう勘弁してくれと言うまで、盛大に教えられた。…………僕は一体、自ら何の試練を受けてしまったんだろうか……」
「曾お祖父様……。ざっくばらんにも程があります……」
相変わらず、それも年がら年中、『元・ラーの鏡なアレ』越しに、又は夢の中で、或いは何時ぞやと同じ力技で、アレンを構いまくっている『精霊もどき』な先祖達のことが会話の中に混ざって直ぐ、アーサーは再び、長椅子に轟沈し掛けた。
「言わないでくれ。僕だって、思い出すだけで胃の腑が痛くなる……」
アレンもアレンで、持病──と言うか癖と言うか──な胃炎が疼いたのか、そっと腹を押さえて項垂れる。
「……で、でも。参考にはなりました?」
「いいや。まっっっ……たく。これっぽっちも参考にならなかった。父上の話もアレフ様の話も、端から端まで惚気だけ」
「…………はっきり言って、物凄く駄目ですね、ローレシアの血筋。何でか、アレンは『こう』なのに」
「だから、『こう』って何だ、『こう』って。……そう言うアーサーこそ、どうなんだ? 僕は未だに、君の長年の想い人とやらが誰なのかすら、打ち明けられていないんだが?」
「え。話、そっちに持ってきます?」
「持ってく。僕ばかり、兎や角言われたって面白くない。…………で?」
「…………えーーー……。……誰にも言いません?」
「言わない」
「ローザにもですよ?」
「ああ。……もしかして、そんなにも様々に難しい方なのか?」
「難しいと言うかですねぇ……。…………ええと。実は……────」
「──えっ? ……えええええ!?」
そこから、話は更に、ゴロリと別方向へ転がって、掛け値無しに小声だったアーサーの白状に、アレンは声を引っ繰り返した。
────そういう訳で、以降。
男同士な親友達の話は、あちこちに取っ散らかったまま長々と続いて、アーサーの、アレンに言わせれば『衝撃の告白』もあった所為で、夜が更けても彼等の盛り上がりは一向に収まらず、何だ彼
お陰で、王太子殿下から国王陛下になろうとも『爺や』でしかない怖い宰相殿と、同じく幾つになっても『婆や』でしかない怖い怖い女官長殿に、アレンは固よりアーサーまでも、朝っぱらから盛大に雷を落とされ、二人共、一ヶ月間ローレシア城内では禁酒、と言う子供のようなお仕置きまで喰らう羽目になり、後日、何処からともなく噂を聞き付けたらしいローザには呆れられ、毎度の『ちょっかい』を掛けてきた『先祖な精霊もどき達』には、腹を抱えて笑われながらも慰めて貰う、との侘しさと無情を、アレンは一人噛み締めることとなったが。
──それより又、ほんの僅かの歳月が過ぎて、ローレシア王都に夏がやって来た。
常春に近いムーンブルクでも、間もなく長い春が終わる。
そんな季節生まれのローザの生誕日を迎えたその日、それを建前に、アレンは、呼び出した女官長の手を借りながら、自身としても納得いくまで姿見との睨めっこをしていた。
「これで良いと思うか?」
「申し分無く存じます」
「そうか。……なら、行って来る」
「はい。お気を付けて行ってらっしゃいませ。……アレン陛下。くれぐれも、礼を失せぬ頃合いでお帰りを──」
「──判ってるから……」
悩んで悩んで、漸く、うん、と思えたアレンは、ムーンブルクまで出向く彼を見送るべく腰を折りつつも、きっちり釘を刺してくる婆やに顔を顰めながら、用意しておいたローザの生誕日の贈り物を手に取って、その影に隠しておいた、もう一つの小さな箱を素早く懐に仕舞い込み、薄桃色の薔薇で作った花束も抱えて。
あの折は、爺やにも、婆やにも盛大に叱られた挙げ句、アーサーには迷惑を掛けてしまったけれど、あの夜を過ごしたお陰で色々と踏ん切りが付いた。……と独
────流石に、アレンがどんな言葉と共に、ローザへの改めての求婚を果たしたのかまでは、当人達しか知らぬことだが。
彼の奮闘──正確には足掻き──虚しく、本気で余りにも今更ながらの彼等の求婚模様は、実の処、目一杯衆目に晒されていた。
どのような様子だったのかも、贈られた品は何だったのかも、不憫なまでに筒抜けだった。
挙げ句、日付も変わらぬ内に、その全て、ローレシアに伝わりもした。
……因みに。
アレンが『そんな思惑』を抱えて悩み煮詰まっていたのも、やっとの思いで踏ん切りを付けたのも、ローザの生誕日に合わせて決行しようとしていたことすら、疾っくに周囲は承知しており。
あくまでも『唯の男と女』として肝心な部分を攻略出来たならと、以降、逢瀬中のアレンとローザに対する監視の目は、とてもとても若干だけだが緩んだらしい。
End
後書きに代えて
本編中のアレンは、あくまでも一人の男として、あくまでも一人の女性としてのローザにちゃんとしたプロポーズが出来てなかったので、改めて頑張ってみることにした。……のだけれども。
……色んな意味で駄目だな、うちの話のローレシア王家。
大体アレフの所為で駄目だな。万年新婚夫婦は伊達じゃないんだね、アレフ&ローラ姫。
因みに、ものすーーー……ごく蛇足ながら、アレンの性格は、彼のじーちゃん(アレフの長男)譲り。父親が様々にカッ飛んでる人だった為、苦労人だった二代目ローレシア国王陛下@アレンのじーちゃん。
──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。