国王崩御の報せは、ローレシア全土を悲しみの中に落とした。

結局、直接には何が彼を死に至らしめたのかは判らず終いのまま、あの朝から数日後、国葬が執り行われ、アレンは、代々のローレシア王家の者達が眠る墓所に埋葬された。

────アレンの亡骸は、事切れた際のままの姿で──ロトの剣を手に、ロトの武具を纏ったままの姿で、棺に納められた。

やはり、伝説の武具を彼の身から離すことは敵わなかったから。

必然的に、彼が懐深くに仕舞い込んでいたロトの印も、あの手鏡も、彼と共に眠りに付くことになった。

逝く際にアレンが身に着けていた品の中で唯一外せた、アーサーやローザとお揃いの、ラーの鏡の小さな破片から拵えた首飾りも、アーサーとローザの希望で、元通り彼の首に掛けられ、彼と共に。

アレンが逝ってしまった後も、ローザは、見た目だけは年齢不詳の美しさを保ったまま、アレンの正妃として、ムーンブルク女王として、二年程、ローレシア・ムーンブルク両国の為に身を粉にし、長男アベルが第五代ローレシア国王として即位した半年後。

アレンの死から、約二年半後。

次男アデルのムーンブルク国王即位と、長女ロレーヌの婚約を見届けた直後に、全ての役目を果たし終えたかの如く、アレンの許に逝った。

逝ってしまった夫妻に同じく、何処か年齢不詳だったアーサーは、ローザの死後も、長らくサマルトリア国王として在り、未だ歳若いローレシア新国王や、ムーンブルク新国王の相談役を果たしたり、ロレーヌが嫁ぐまで彼女の後見役を務めたりとして、その手に自身の初孫を抱いた数年後、「僕はやっぱり、暢気者かも知れませんねえ……」と、微かに苦笑しつつ呟きながら、アレンとローザの後を追った。

後の歴史は語る。

真の勇者のみに与えられしロトの称号を授かった、勇者アレクより始まりし、の一族による勇者伝説は、初代ローレシア国王、アレフ・ロト・ローレシアを経て、第四代ローレシア国王、アレン・ロト・ローレシアの崩御を以て幕を閉じたと。

アレン・ロト・ローレシアの死と共に、世界を脅かした大魔王達の影も、勇者と呼ばれる存在も、『伝説』すら、この世界から消え去ったと。

…………後年。

アレンとアーサーとローザの三人が紡いだ三度目の伝説すら、遠い昔の物語となり始めた頃。

伝説の武具を目当てに、ローレシア王家の墓所を暴いた者がいた。

だが、暴かれた墓に納められていた、第四代ローレシア国王の棺の中には、伝説の武具処か、骸すら無かった、と。

只の、空の棺だった、と。

やはり、後の歴史は語る。

伝説の勇者の末裔だった、自身も、当時の勇者達の筆頭だった、第四代ローレシア国王アレン・ロト・ローレシアは、何一つも遺さずに、世界に溶けてしまったのだと。