DRAGON QUEST Ⅲ
『冒険の書 ─アレク─』
前書きに代えて
この作品は、当サイトのDQ＠ロトシリーズの二次創作小説の本編に当たります、『ROTO』と言う作品をお読み下さっている方を対象に書かれています。
故に、大変申し訳ありませんが、その旨、ご了承下さい。
叶いますなら、上記作品をお読み下さってから、以下をお読み頂けますよう、お願い申し上げます。
それでは、どうぞ。
遥か遠い遠い先の何時か、俺が繋ぐロトの血と共に、『勇者の運命』をも受け継いでしまうかも知れない、俺の大切な子孫へ。
俺の子孫と言うだけで、『勇者の運命』を負ってしまった君に、どうしても伝えたいことがあるから、俺は、これを書いている。
信じてくれるかどうかは……正直、判らないけれど。これを書いているのが『俺』だと言うことすら、信じて貰えないかも知れないけれど。
一応、名乗りからしておくよ。
俺の名は、アレク。
アレク・ハラヌ。
恐らく、君がこれを読む頃には、アレクと名乗るよりも、『勇者ロト』と名乗った方が通りが良くなっているんだろう。
…………そう。俺は勇者ロト。
大魔王ゾーマを討ち滅ぼして、『この世界』に光を齎した者であり、君の先祖。
でも、『ロト』は、俺が親から授かった名前じゃなくて、真の勇者とやらのみに与えられる称号だから、大切な子孫の君には、アレク、と呼ばれたい。
……ええと。
俺、筆無精で、家族への手紙も殆ど書いたことが無いくらいだから、誰かに何かを伝える為に文字や言葉を綴るのに慣れてなくて、こうしている今でも、何をどう書いていいのか判らないし、上手く書ける自信も無ければ、伝えたいことを判り易く綴る自信も無いから、俺のこと、順を追って書いていこうと思う。
そんなことをしたら、必要以上に長くなってしまうだろうし、君や『世界』には疾っくに既知だろう伝説を、この場で繰り返すことにもなってしまうだろうけど、そこは、勘弁してくれな。
……あ、先に言っておく。
『この世界の正史』とされた──筈だと思う。多分──、君が知るロト伝説は、少し美化されてるから、この先を読んでも、がっかりしないでくれたら嬉しいかな。
俺がしてきたことを、出来る限り英雄譚っぽくして、これぞ正史！ みたいに敢えて仕立てたのは、俺や、俺の仲間達なんだ。
俺達が、そんな小細工に精を出したのは、俺のことを後世に格好良く伝えたかったからじゃなくて──それはまあ、大切な子孫くらいには、格好良く見られたいのが本音だけど──、どうしても、歴史の向こう側に隠してしまいたいことがあったから。
なのに、小細工を頑張った俺自身が、大切な子孫の君に宛てて、俺の──本当のことを綴ろうとしているのは、さっきも書いたけど、どうしても君にだけはそれを伝えたいから。
…………ああ、御免。やっぱり上手く書けない。
前置きからグダグダしてる。……本当、御免な。
────俺は、『この世界』じゃない、君達が、空の彼方の異世界、と呼んでいる所で生まれた。
その、空の彼方の異世界の、アリアハンって言う、余り大きくは無い国が俺の祖国で、アリアハン王都が俺の故郷。
……うん、君が知っている伝説と『本当』は、そんなには違ってないんだ。
あ、又、話が逸れた。
──この辺のことは君も能く知っているんだろうけど、俺の父親、オルテガ・ハラヌは、アリアハンの英雄で、勇者だった。
アリアハンは、俺が生まれるずっと前──あんまり興味無かったから能く憶えてないけど──は、世界中を統治していた大国で、でも、世界戦争が起こってしまったのを切っ掛けに、小さな大陸一つのみを領土にした、要するに『田舎に引っ込んだ』国だったけど、昔は全世界の覇者だったって威信や自負があったから、小国になってからも有名な剣士だの戦士だのが多く出てて、俺の爺ちゃんも、父さんも、その一人だった。
先祖代々、って奴。
その中でも、父さんは戦士としてずば抜けていたそうで、何時しか英雄と呼ばれるようになって、勇者にまでなったんだって、爺ちゃんや母さんは言ってた。
正義感の強い人で、お人好しな処もあって、一寸猪突猛進な困った処もあって、一言で言えば、勇者に相応しい人でもあったって、やっぱり、母さん達は言ってた。
だから。
放っておけなかったから。母さんや俺や、世界の為に平和を取り戻したかったから。アリアハンの英雄で勇者だったから。
俺が生まれて直ぐの頃、父さんは、世界を脅かし始めていた魔王バラモスを倒す為に、一人旅立って行った。
アリアハンの王様から拝命した使命、って形は取ってたけど、バラモス討伐は、父さん自身が強く望んだことだった。
でも、それから五年。俺が五歳になった頃、アリアハン王城に父さんの訃報が届いた。
勇者オルテガは、バラモスの居城を目指していた途中、配下の魔物に襲われて、ネクロゴンド地方の火山の火口に落ちた、と。
火山に落ちて死んだのか、魔物に倒されてしまったのかは不明のままだった。
アリアハン王が派遣した捜索隊も火口まで辿り着けず、遺品も得られなかったし、詳細も判らず終いだった。
…………やっぱり、爺ちゃんや母さんの話では、アリアハン以外でも勇者として名の通ってた父さんの訃報は、主立った国々にも伝わって、あちらこちらで、もうこれで人間は終わりだ、世界はバラモスに支配されてしまうんだと、皆が嘆いたそうだ。
けど、母さんだけは、
「未だこの子がいます。オルテガの血を引くアレクが。夫の遺志は、きっとこの子が継いでみせますわ」
と、アリアハン王にきっぱり言い切った──らしい。
その……、その辺りのことも、俺は能く憶えていないんだ。皆、後から聞いた話。
けど。
国王陛下相手にそう言い切ってからも、母さんは、例えば立派な勇者になる為の特別な教育や修行を俺に、みたいなことはしなかったし、俺も、特別な何かをされた覚えは無い。
母さんがしたのは、未だ五歳かそこらの、所謂『男の子』だった俺に、父さんの武勇伝とかを繰り返し語って聞かせた、それだけ。
そのお陰か、俺は、自然と父さんに憧れて、自分から父さんの後を継ぎたいと思うようになった。
……母さんが、そこまでの計算をして、敢えて父さんの昔話を聞かせる以外を俺にはしなかったなら、正直、大したタマだと思うけど、真相は判らない。
そうだったとしても、そうじゃなかったとしても、俺は自分で、父さんの後を継いで勇者になって、バラモスを倒しに行くんだ、と何時しか決めたから、まあ、どうでもいいんだけどね。
但、本当に俺は、オルテガの息子として、そこら辺に幾らでもいる冒険話が好きな『男の子』として、バラモスを倒しに行こうと誓っていただけで、特別な剣の修行や、特別な魔法の修行なんかを受けたことは無くってさ。
毎日毎日、棒切れ振り回して剣の稽古の真似事したりとか、教会に行って、居眠りしながら司祭様の話を聞いたりとか、爺ちゃんや王城の兵士さん達に一寸した魔法の使い方を教えて貰ったりとか、至極子供らしく過ごしてたから、オルテガの後を継ぐアリアハンの勇者として、王様に旅立ちの許しを貰った十六歳の誕生日になっても。
……そう、今日旅立つ、ってあの日になっても、俺は、到底勇者なんて言えない、只の少年でしかなかった。