分水嶺 (裏バージョン)

 

 ま、要するに、前ページの小説の「致してる」シーンの抜粋です(笑)。

 

 

 

 自分でも思いがけず、高ぶる感情を吐露してしまって。
 恋人は、自分で決めたのだ、と言いながらも、逢瀬の刻を、延ばしてくれた。
 だから、彼は、安心してしまったのかも知れない。
 もう一度潜り込んだベッドの中で、とろりと、睡魔がエドガ−に訪れた。
 このまま、もう一度眠りに落ちよう。
 そう決めて、魔物の誘惑に身を委ね、彼は瞼を下ろす。
 瞳を閉じた途端、彼の意識は簡単に、眠りの淵に吸い込まれた。
 だが。
 エドガ−と共に、ベッドに身を横たえたセッツァーは、それを許しはしなかった。
 うとっと、彼が気持ち良さそうな表情を見せた瞬間。
 するりとセッツァーは体を起こし、その上に被い被さった。
「セッツァ……」
 困った様な、はに噛んだ様な、そんな顔をして、エドガ−は頬を朱に染める。
「そんなつもりで……君を引き止めたんじゃ…」
「言った筈だぞ?お前が引き止めたからじゃない。俺の気が変わったからだ…ってな。俺の気分は、こう言う風に変わったんだ」
「でも…。誰か来るかも知れない…」
「フン。誰かが来るかも知れないってくらいで、俺が引き下がるとでも、思ってるのか?」
「私は抵抗するけど?」
「出来るもんなら、してみやがれ」
 照れ、なのだろう、恋人が求める行為を、エドガ−はやんわりと拒絶したが。
 あっと言う間にセッツァーは、そんな彼の唇を奪った。
 小さく、柔らかなそこを啄み、舌を絡ませ。
 恋人の理性を奪って行く。
 何時もより、少しだけ、濃密な、愛の始まりの接吻(くちづけ)。
 唇と唇は、やがて離れた。
 心地よい接吻の快楽に、うっとりと眼(まなこ)を霞ませたエドガ−から洩れる声は掠れ、けれど唇は、しっとりと濡れていた。
 見せつける様に、ゆっくりと、セッツァーの腕が動いた。
 時間を掛けながら、服の前をはだけさせて…白い肌を露させて。
 妖しく光る唇と舌は、頬を…首筋を這い、胸へと降りる。
 何時の間にか、全て剥ぎ取られたエドガ−の衣服が、それを持ち上げたセッツァーの爪先から、はらりと床に落ちた。
 ──恋人のきめ細かい、白い肌は。
 簡単に、愛の名残りを留める肌だから。
 想い人の全てが自分の物である事を、思いの限り、セッツァーは刻んで行く。
 そしてエドガ−は。
 抗う、と言った筈なのに、セッツァーが己が身に残す跡を、喜びと共に受け入れた。
 逆らう事に使う筈だったその手を伸ばして、愛しい人の、銀の髪へと差し入れる。
 愛される幸せを称えた面持ちで見上げたら、恋人は又、優しい接吻をくれた。
 だからエドガ−は、力を込めて、両腕を引き、セッツァーの頭(こうべ)を、胸の中で抱き締めた。
 抱き寄せられたセッツァーは、恋人の胸の上で、至福そうに、瞳を閉じた。
 紫紺の眼差しを伏せて……大きな、息を彼は吐く。
「愛してる…」
 そっと。
 愛を散らした肌に向けて、セッツァーは呟いた。
 そのまま、徐に顔上げ、エドガ−の半身を起こし。
 胸に顔を埋めたまま、背(せな)に指先を這わせる。
 爪の先を一気に滑らせれば、体は、その勢いに合わせて反り返った。
 ──白い肌はもう、熱かった。
 言葉にしなくとも、その体が全てを物語っていた。
 背を這った指先は…そのまま。
 そう、そのまま。
「んっ……」
 エドガ−の、男にしては、幾許かなだらかな印象を与える体のラインに沿って、蠢く指先は、秘密を目指した。
 セッツァーの耳元で、憂いと歓喜を押し殺した声が上がる。
「聞こえないから。誰にも、聞こえたりしねえから。その声を知るのは、俺だけだから…」
 余りにも、その声が切なく響いて。
 セッツァーは、恋人の耳朶を甘く噛みながら、囁いてみた。
 が、もう、エドガ−には、答える余裕がないのだろう、唯、幼子みたいに首を振るだけで。
 もう一度、優しく抱き締めてみたら、泣き声の様にも聞こえる、淡い声だけが洩れた。
 愛が与えてくれる快楽の頂点は、直ぐそこまで来ていた。
 投げ出される海は、もう見えていた。
 だから。
 ふっとセッツァーは、恋人を納めていた腕を離す。
 支えを失くした体は、白い布地の海へと落ちた。
 投げ出された長い足を、押し広げたら。
 キシ……っと、ベッドが、ささやかな抵抗を見せた。
 これから、その身になされる事を、胸に想い描いたのか。
 エドガ−が身じろいだ。
 乱れた金髪が布地の上を流れて、縁から零れる。
 彼の手は、無意識にその流れを追った。
 快楽の海に投げ出されるのを、彼は布地を掴む事で、耐えたかったのだろう。
 爪先が白く色を失くす程、彼の手はきつく、布を掴んだのだけれども。
 そんな彼の指先に、セッツァーのそれが重なった。
 指先は指先を絡み取り、そして、固く結ばれる。
 身も心も結ばれて。
 恥じらう思いすら、彼方に消えて。
 堪え切れない、甘い声が、エドガ−から放たれても。
 絡み合うその手が、解かれる事は無かった。
 光点の消失する、頂きが見えても。
 行き着いた海に投げ出されても。
 二人のその、手は。
 何時までも、結ばれたままだった。

 

 

 何も彼もが止まった刹那。
 静寂が戻る、一拍前の瞬間。
 二人が投げ出された白い海の世界で響いた物は。
 やはり。
 そう、何時も通り。
「愛してる…」
 その、言葉だった。

 

 

  

  …以上が。
 『分水嶺』の、まあ、一部抜粋、と云う事です、はい(笑)
 本編(?)の方の前書きにも後書きにも、このページの事は書かなかったけれど…皆様、お気付きになられたかしら、このページの事…(汗)

 

 

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