final fantasy VI

『最後の秘密』

 

 

前書きに代えて

 

 このお話も、『in』同様、セツエド同盟の、『お題』に投稿した物です。
 あちらの方で募集している、『お題』に沿ったお話を書いて……って奴なので、全くのおニュー作品ではないのですが(汗)。
 ……すみません…………。
 

  

 

『内緒だよ?』
 ……と。
 秘めやかな声音で。
 でも、楽しそうな声音で。
 そうっと、囁くように。
 彼が、そう言っていたのを。
 確かに己が耳朶は、拾った。
 

 

 それは、徹夜で飲み続けた夜が明けたばかりの。
 時計の数字で言うなら、長針が、午前五時を廻るか廻らないか、の頃だった。
 世界と言うか、自分達と言うか、を救う為の旅の仲間である、ロックやマッシュ達と、草原の片隅に停泊した飛空艇のキャビンで、散々っぱら飲み続け、結局徹夜をしてしまい。
「もー駄目だぁぁぁぁ……」
 とか何とか、情けない叫び放ったのを最後に、前夜の飲み仲間達が、板張りの床の上でごろ寝を始めてしまったのを受け。
 仕方ねえな……と。
 トドより質の悪い、酔っ払いという名の屍が転がる、酒臭い部屋を一人抜け出した、彼、セッツァー・ギャビアーニが。
 酔いを冷ますべく、ふらふらと向かった、朝靄に包まれる飛空艇の甲板の舳先の手摺辺りで、夕べの宴には参加しなかった仲間の一人、エドガー・フィガロが、やはり、自分達の仲間であるリルムという少女に、「内緒だよ?」……と、何やら囁いているのを聞き付けたのは。
 そろそろ、東の空に、朝日が昇って来るのではなかろうか、という。
 そんな頃合いだった。
「……あ? なーにやってんだ、お前等。こんな朝っぱらから」
 どうして、こんな早朝、何時もなら未だ夢の中にいる筈のリルムと、付き合い悪く、男同士の馬鹿騒ぎに参加しなかったエドガーが、甲板で二人そうしているのかと、思わないではなかったが。
 飲み明けで、しかも徹夜、である今のセッツァーに、繊細な心遣いをして歩く、余裕などなく。
 エドガーとリルムの密やかな会話を、甲板へと出た彼は邪魔した。
「ああ。おはよう、セッツァー。…………もしかして、君、今の今まで、呑んでた?」
「あ、傷男。しかも、酔っ払い。あー、やだやだ、不健康な大人って、大嫌いー」
 ひょいっと姿を見せて、自分達のやり取りを邪魔したセッツァーへ、エドガーとリルムは、それぞれの反応を見せ。
 エドガーとのそれを邪魔されたことが、余程気に食わなかったのかリルムは、んべー、と、セッツァーへ向けて盛大に舌を出しつつ、彼の脇をすり抜け、ロビーへと降りて行った。
「…………何だ? ありゃ」
「もうそろそろ、思春期になろうかっていう小さなレディの、反旗だよ。微妙な年頃にいる少女達の機微が理解出来なければ、一生謎のままで終わる、それ。…………うん。君には、一生理解出来ないまま、終わるかも知れない、反旗」
 逃げるように去って行ったリルムの、余り可愛いとは言えない置き土産に、セッツァーが不機嫌そうに、首を傾げれば。
 声を立てて、エドガーは笑った。
「どーゆー意味だ、そりゃ」
 近付いて、舳先の手摺に凭れていたエドガーの隣に、同じ姿勢を取って並び。
 少しばかり、唇を尖らせるようにして、苦情めいた科白を吐きながらも。
 金髪の彼の笑い声に釣られたように、セッツァーも又、頬を緩める。
「今、言った通りの意味。…………それにしても、君、酒臭いねえ……」
「誰かさんの付き合いが悪ぃんでな。一人当たりのノルマが増えたんだ」
「それは、申し訳ないことを。後で、二日酔いの薬、探して来ようか?」
「この程度で、二日酔いなんざする訳ねえだろうが。そういうのは俺じゃなくって、盗掘屋か、弟君に贈ってやんな」
「……リルムの言う通りだ。不健康な大人は、質が悪い」
「お前もな」
「…………まあ、こうしている理由が、早起きをしたからではない、というのだけは事実だね」
 そうして彼等は、辺りを覆った朝靄が晴れ。
「不健康な男共ーーーーーっ!」
 ……と、朝食の支度を整えてくれた女性陣達が、大声で自分達を呼びに来るまで。
 揃って背中を丸め、手摺に肘付き凭れたまま。
 他愛無い馬鹿話に、興じていた。
 

 

 ────そう。
 夜を通して興じ続けた宴を終えて、酔いを冷ましに出た甲板で、偶然、エドガーとリルムとの内緒話を耳にしたこの頃。
 セッツァーとエドガーの関係は、冒険の旅を共にする仲間同士であり、馬の合う友人、と言った程度のものでしかなかった。
 他愛無い馬鹿話や、通りすがりの街の酒場で見掛けた、一寸いい女、の話や。
 これから自分達がどうして行けばいいのか、と言った話、平和な世界を取り戻せたらどうするのか、と言った話、それから。
 今までは余り、他人に語ったことのなかった、己が身の上、……という奴の話、などを。
 何故か、屈託なく交わすことが出来る、仲間のような、親友のような、悪友のような。
 そんな関係だった。
 だが、何時の日か、平和を取り戻せる時が来たら、と、夢物語のように淡く、セッツァーとエドガーの二人が話していたそれのように。
 夢でも淡くでもなく、真実平和を取り戻すこと叶えた直後。
 セッツァーとエドガーの二人は、全く同時に、ほんの少々、『道』を踏み外して。
 仲間であり親友であり悪友であった、自分達の関係を。
 恋人同士、と言うそれに、塗り替えてしまった。

 

 

 

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