final fantasy VI 『in』
前書きに代えて
このお話は、セツエド同盟の、『お題』に投稿した物です。
あちらの方で募集している、『お題』に沿ったお話を書いて……って奴なので、全くのおニュー作品ではないのですが(汗)。
……すみません…………。
好きになってしまった人がいる。
その形を知っていた筈なのに、本当は、朧げとも言えぬ程、自分には知り得なかった世界に飛び出して。
飛び出してしまった世界で、出逢って。
そうして、好きになってしまった人がいる。
男の身でありながら。
王という身の上でありながら。
好きになってしまった人がいる。
男の身で、想いを寄せた、あの男(ひと)。
王の身の上で、想いを寄せた、あの空賊(ひと)。
受け入れて貰えるなんて、これっぽっちも期待していなかった。
唯、永遠……とまでは言わないから、生涯……とまでも言わないから、ほんの一時(ひととき)だけで良いから。
そっと、想いを寄せていられればそれで良かった。
知っていた筈だったのに、少しも知らなかった、飛び出して行った世界の形が、朧げなそれから、確かに何かを象ったそれになるまでで良いから。
唯、心の奥底で、密かに。
想いを寄せていたかった。
────だから。
受け入れられるなんて、思ってもいなかった。
受け入れられる、なんて、望んだことも、期待したこともなかった。
でも、あの男(ひと)は確かに。
男の身でありながら、男の身を。
空賊でありながら、王の身の上を。
受け入れて、愛していると囁いてくれて。
そうして。
手を、取ってくれた。
────朧げだった世界が、何かを象るまで。
……そう思っていた。
けれど、あの男(ひと)が手を取ってくれた瞬間。
朧げだった世界の形が、あの男(ひと)の姿を象った。
そこまでにしよう、と、そう決めていた秘めたる想いは、その瞬間、『終わった』。
あの男(ひと)の姿、となって。
あの男(ひと)は、世界をくれた。
朧げだった世界に、確かな象りをくれた。
あの男(ひと)そのもの、と言う形、の。
あの(ひと)は、世界の形と想いをくれた。
………………だから。
世界をくれた、あの男(ひと)に。
世界の形と想いをくれた、あの男(ひと)に。
全てを、還そう。
あの男(ひと)がくれた、世界の象りと、想いの代わりに。
持てる全てを、あの男(ひと)に還そう。
……あの男(ひと)の、中へ、と。
………………一年と、数ヶ月に及んだ、冒険の旅の中で。
好きになってしまったあの男(ひと)──世界で唯一の飛空艇の持ち主であり、希代のギャンブラーであり、元・空賊という肩書きを持つ男、セッツァー・ギャビアーニと、その冒険の終わり、秘め続けていた想いを交わして、そしてそれが受け入れられる、という経験を、砂漠の国フィガロの国王、エドガー・ロニ・フィガロが終えてより、半月程が経った頃だった。
世界を救う、冒険の旅を終えて、漸く、生まれ育った故郷へ帰り。
好きだ、という想いをセッツァーと交わし。
それより、半月。
……その日は初めて、エドガーが、想いを確かめ合った相手として、己が城に、セッツァーを向かえる日だった。
──それ故に。
エドガーはその日、朝から何処か、そわそわと落ち着きが足りなかった。
男の身でありながら、それでも愛してしまった男──即ち、言葉にするならば、それ程に深い想いを寄せてしまった相手を、好きだと言い合って初めて『迎える』のだから、それを思えば彼の落ち着きが若干失われるのは、判らない話ではないが。
傍目にも──例えば、フィガロ城を守る衛兵だったり、王族や重鎮達の身の回りの世話をする女官だったりが、おや? と訝し気になる程、エドガーが落ち着きを欠いていたのには、もう少し、深い理由がある。
…………少なくとも、名の上だけでは恋人同士となって。
某月某日、お前の城に訪ねて行くから、とセッツァーに言われた際。
「俺は、子供の付き合いをしに行くつもりはねえぞ? ……それでも、良いんだな?」
……と、確かめるように、それでいて、何処か挑戦してくるように、エドガーは告白されてしまっており。
確かに、もう子供ではないエドガーには、セッツァーの言わんとしていることが充分理解出来たから。
エドガーは、愛しい人がやって来ることになっているその日、落ち着きを欠いていた。
────決めていたのだ、彼は。
セッツァーが、『恋人』として初めて己の許を訪ねて来る時。
何も彼も、全て。
己に持ち得る物、己自身に捧げられるもの、それを全て。
この先の自分達がどうなろうとも、恐らくは、生涯唯一の『恋人』となるだろう彼に、捧げてしまおう、と。
だから、その日の彼の様子は、そんな風で。
午後早く、約束通りセッツァーが訪ねて来た時の彼も、そんな風で。
彼を出迎え、茶を嗜み、夕餉も、その後に迎えた酒精を交わす一時も、何処か彼は、らしくなく、はにかむように恋人に接し。
そして、やって来たその夜。