final fantasy VI
『経済物語』

 

前書きに代えて

 

 …………一寸、何とも、イヤン、なタイトルですが。
 他愛なーいお話です。
 多分、内容がタイトル、裏切ってます(笑)。
 では、どうぞ。

 

 

 

 賭をしないか。

 

 広い、執務机の上に投げ捨てるように『置かれた物』達を見遣り。
 それはそれは長い間、厳しい顔を作り続けているエドガー・ロニ・フィガロの横顔を眺めながら。
 その日、フィガロ城を訪れていた彼の恋人、セッツァー・ギャビアーニがそんなことを言い出したのは、エドガーに厳しい顔を作らせ続けている、とある問題が発端だった。
 

 ──その問題の発端そのものは、世界が崩壊したあの年以前に遡る。
 世界征服を企んだ、ガストラ皇帝が君臨していた帝国は、長きに渡り、その権力を振るって来た。
 当時、南の大陸にあり、帝国に征服された三つの国は云うに及ばず。
 北大陸に於いても、フィガロを始め、幾多の国々と名ばかりの同盟を結び、その支配下に組み込んで来た。
 ……更に、話は飛ぶが。
 フィガロで流通している貨幣単位は、『ギル』、である。
 ここフィガロだけではなく、世界中何処に赴いても、『ギル』は通用する。
 だがその発行は、それぞれの国家の任意に任されてはいるし、例えば、フィガロで発行されるギル金貨と、ドマで発行されるギル金貨は、金の含有量に相違があり、同じ通貨であっても、発行した国家によって、ギルの価値も多少の上下をする。
 則ち、貨幣のレート、と云うものが、存在してはいるのだが。
 魔大戦終結後に開催された、世界平和評議に於いて、年間の造幣金額も、金貨に於ける金の含有量の上限も下限も、制定されてはいるし、経済上、流通上、その他諸々の理由を以てして、何処の国が発行したギル硬貨も、何処の国に赴こうと、1ギル以上の価値も生まなければ、1ギル以下の価値にもならない、と云うのが、この世界の長きに渡る、貨幣に関する共通認識だった──のだが。
 そう、ガストラ帝国が世界の大半に、その勢力を振るい始めてから、貨幣、と云うものに関する世界共通認識が若干、変わってしまったのだ。
 戦時下には、有りがちな話なのだが。
 今は亡き超大国は、自国及びその植民地、そして、傘下に置いた同盟国の中でのみ流通可能な紙幣を、発行してしまったのである。
 勿論その紙幣は、良い意味でも悪い意味でも、『紙幣』であることには変わりなかったから。
 金貨との、等価交換が認められていた。
 故に。
 帝国が消滅し、世界が崩壊した今。
 その紙の『金』は、何の価値もない、唯の紙切れと化し。
 軍事大国の侵略、と云う驚異は去ったものの、その後始末と云わんばかりに残された諸問題の一つである、この紙幣に関して、国王であるエドガーは、頭を悩ませていたのである。
 ここフィガロでだけは、帝国発行の紙幣とギル金貨の交換を、エドガーが頑として認めなかったから、等価交換を認めていた諸外国と比較すれば、極めて少ない金額の被害で済んだものの、平和な時に鑑みれば、偽金に等しい紙幣であろうと、曲がりなりにも流通していた貨幣ではあるので。
 それらを、財産や日々の糧を得る為の物として所有していた民達を、エドガーは何とかしてやらねばならなかった。
 ──帝国が崩壊してから今まで。
 長い、冒険の旅から帰国してより。
 頭を悩ませ、国家の財政をやり繰りして。
 それでも何とかエドガーは、この問題を片付けつつは、あったのだ。
 けれど、どうしても。
 どうしても、何とかすることの出来ない、かつては20万ギルの価値があった『紙屑』が片付かない。
 幾ら、帝国が発行していたそれとは云え、同盟国として、その流通を許可せざるを得なかったのは、国家の責任だから、それを所有していた民達を、路頭に迷わせる訳にはいかないと云うのが、エドガーの思いだったのだが。
 帝国の支配を脱し、やっと、混乱から抜け出ようとしている今のフィガロの、決して楽ではない台所事情にとっては、予定外に捻出しなければならないその金額は、獏大と表現するに相応しかった。
 貴族院の議場でも、これと云った打開策は出てはこぬし。
 貴族の大半は、ない袖は振れぬ、的なことしか、口にはせぬし。
 売り払った処で、財政の足しになる様な宝物も、建物も、今のフィガロには存在せぬし、で。
 先日、市場から回収してきた山程の『紙屑』や、その紙屑に関する書類を前に、国王は、途方に暮れていた。
 ──そんな中。
 恋人を、ふらりと訪ねて来て、執務室で油を売り始めたセッツァーが、エドガーの悩みの原因を聞き届けた後。
 何を思ったのか、それは愉快そうな顔をして述べた一言が、

「賭をしないか」

 と云う、それだったのだ。

 

 

 

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