何時しか、油が切れて、自然と消えてしまった炎の明かりが落ち。
 が、その頃にはもう、カーテン越しに、朝の明かりで明るくなったその部屋の、ベッドの中で。
 セッツァーは、揺り起こされた。
「…………んー…?」
 誰なんだ、と、体を揺する腕の持ち主を探れば、それは夕べ、抱き込んだまま眠ったエドガーだと気付き。
「ああ、起きたのか?」
 まあ、『子供』は大概、朝が早い、とぶつぶつ、起き上がった。
 欠伸を噛み殺しつつ起き上がった彼に、エドガーは夕べのように、にこっと微笑み。
 伸びをするべく伸ばされたセッツァーの手を取り、引き。
『おはよう』
 ……と、そこに綴った。
「……お前……?」
 え……? と。
 セッツァーは、流暢で、しっかりしていたその『言葉』に、唖然とする。
『思い出した。未だ、声は出ないみたいだけど。きっとその内、治るんじゃないかな』
 何が起きたのか、把握出来ていない様子のセッツァーの手に、エドガーはそのまま、『話し掛け』。
「思い出したってのか?」
『うん。殆ど。記憶の方も、未だ曖昧な部分あるけど、自分が誰で、君が誰か、くらいは判るよ。夕べのことも、ちゃんと覚えてる。……多分、君のお陰、でね』
「そうか……」
『ああ。だから。きっとその内、君も「色々」、思い出せるんじゃないかな。大丈夫、私が傍にいるから』
 次々と、彼は、セッツァーの掌に、言葉を綴って行った。
「随分、大きく出たな、自分が傍にいるから、とは」
 がセッツァーは、そんなエドガーに伝えられたことに、苦笑いを浮かべる。
『だって、私が思い出せたのだから。君だって、きっと、ね』
「……だといいがな」
『疑ってるのかい? 私の云うこと。嘘にはならないと思うよ。だってね──』
 しかし、エドガーは、再び、にこっと微笑んで。
『君が、「愛してる」って教えてくれたから。私は戻って来れたんだよ? だから、君も、戻って来れる筈。何故ならね』
「何故なら?」
『愛してる、から。私は君を、君は私を。愛してるから』
 ──自信ありげに、そう語った。
「…………たったそれだけのことで、納得しろってのか? 俺は未だ、お前のことも、自分のことも、恋人同士だったことも、思い出せねえんだぞ?」
 それでも、セッツァーは、そんな簡単に全てが上手く行ったら、誰も苦労はしねえよと、柳眉を顰めたけれど。
 エドガーは。
『愛してる』
 掴んだままの、セッツァーの掌に。
 夕べ、セッツァー自身に教えられた『言葉』を綴って、湛えた微笑みを深めた。

 

 

 

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By Kaina Umino
since July.31.2002.

 

 

 

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