「…………言えてる。ま、そうだよなあ……。どんなに励んだって、そんなモンだよな。正直、三回戦、とか云われた日にゃ、御免なさいって云いたくなることのが圧倒的」
「つーかさ、ロック。三回もって云われたら、腰引けないか? 翌朝には立てないって。足腰痛くなっちゃって」
「使う体力が、根本的に違うからな、一般的な意味の『格闘』とは。……冷静に考えてみな。あんなん、一晩中腕立て伏せやらされんのと変わりねえぞ」
「……夢も希望もない発言ね、セッツァーさん……」
「それが、現実、だろうが。違うか? ロック」
「及んでる最中は、気にすることもないんだけどなー、そんなコト。こう……さ。合間合間、ってのがあるじゃないか。あの、合間、挟むとさあ……もーいーや、って気になることもあるし……。でも、女って、そうじゃないし……」
「おーーー。同感、同感。マッシュ、それ、同感っ。大体男なんて、イっちまえばお終いだしなー」
「まあな……。…………ああ、そう云えば、俺の友人で一人、名言残した奴がいたな。男にとってsexなんざ、拷問に等しいって。イッちまえば天国だけど、そこに辿り着くまでが拷問ってな。耐えて耐えて、精一杯耐えて……なのに、イく時は一瞬。……拷問、か。云い得て妙だ」
「ふはははははは。セッツァー、それ、言えてるわ。お前の友人に、賛辞送りたいくらいの名言だぜ」
「その気になれば、男のアレなんてさ、五分で終わるもんな、五分。頑張ってー、頑張ってー、でも、気持ちイーのなんてねー……。女って、いいよなー」
────ナッツや干し肉を、噛み締めてみたり。
酒を注いでは、嚥下してみたり、を繰り返しながら。
滔々と、酔っ払い共の下世話な話は、何処までも続いた。
「丸々二十四時間掛けて、七回、とか云う記録は、聞かされたことあるがな。カジノの顔見知りに」
「あ、俺、一晩で九回って記録、聞いたことある。ま、尤も、トレジャー・ハント仲間の自慢だから、何処までホントかなんて、判らないけど?」
「……皆、お盛んって奴なのかなー。……ダンカン師匠のトコ住み込んでた頃に、弟弟子達が、『自家発電』で何回出来るか、競ってたのなら小耳に挟んだことあるけど」
「…………男って人種は……」
「馬鹿だなー……」
「確かに……」
──語り続けた挙げ句。
自分達もそうである、男と云う人種が、如何に愚かなのか、と云う思いに、彼等はそれぞれ辿り着き。
一瞬の間だけ、三人が三人とも、げんなりと落ち込み掛けたが。
「大体さー……。一晩に、七回も九回もヤったら、血が出るっての……」
「……ロックさーん。もう少し、穏便な発言、出来ませんかー」
「今更だ、マッシュ……」
若干の落ち込みを覚えた程度で、酔っ払いの口が閉じる筈もなく。
「──あ、でもさあ、セッツァー」
「何だ?」
「すごーーーーーく、具体的な話で、一寸、アレなんだけど……。ほら、女ってさ、男と違って、冷めちゃうのにも時間が掛かるってのもあるしさ。男の見栄があるったら何だけど……例えばさ、こっちが一回イく間に、向こうには何回かー……っての、あるじゃないか」
「……まあな」
「でも、セッツァーの恋人は兄貴な訳でさ。兄貴は、男じゃないか。……うん、それは俺も良く判ってる。……で……兄貴は男な訳だから……その……どうしてるんだ?」
「どうしてる……とは?」
どう頑張ってみても……と云うよりは、もう、閉じる気がなくなったらしい口を、元気に動かして。
ふっ……と真顔になったマッシュに問い掛けられたことが、瞬時には飲み込めず。
ん? とセッツァーは首を傾げたが。
「あー、だからさー、セッツァー。お前等はもう、それが当たり前になり過ぎちゃってるんだろうから、マッシュの云うこと、ピンと来ないんだろうけど……。──ほら、エドガーの奴だって、男な訳だから……男である以上さ、一晩に何回もイかされたら、辛いじゃん? 想像でしかないけど、女みたいにさ、その……『合体』してる間中至福、って感覚も、あんまり無いだろうしぃ。それ、どうしてるんだろうなー……って。──そう云うコトだろ? マッシュ」
正確に、マッシュの云わんとしていることを汲んだ冒険家が、さっくりと、フォローを入れ。
「そうそう。その通り」
ロックが入れてくれた助けに、マッシュはコクコクと頷いた。
「…………………………悪い」
……と、幾拍かの間を置いて、セッツァーの口からは、悪い、と云う一言が放たれ。
「は?」
「悪いって、何が?」
この男は一体、何を以てして、悪い、と云う台詞を吐いたのだろう、と、二人が訝しめば。
「……そこを……その…………今の今まで、考えことがなかった…………」
若干青冷めた顔色になったセッツァーは、ぽつり、告白をした。
「へ? 考えたことがなかった……って……?」
「どーゆー意味……?」
故に、銀髪のギャンブラーの悪友達は、益々、訝しみを深め。
「その……な。なりゆき、と云うか、何と云うか……。あー………。────てめえら、俺がこんな話をしたっての、絶対にエドガーの奴には云うなよっ?!」
「判ってるって」
「……だから、その……。なりゆきで、まあ……俺はあいつを抱く側で、あいつは抱かれる側で……。別段俺は、男に興味があるって訳でもねえから……そのー………。ま、はっきり云っちまえば、女を抱く時と、あいつを抱く時には、大した差異がないって奴で……。──う……今、気付いた。……あいつ……一晩に俺がイく回数の、倍は軽くイってるかも…………」
──あいつ、大丈夫なんだろうか、と。
仲間達の訝しみを他所に、揃えた指先で口許を押さえ、心底困ったような顔色に、セッツァーはなった。
「確信犯?」
たっぷり、三十秒程、目の前の、己の為のグラスを覗き込み。
チロっとロックが、セッツァーを見た。
「No.」
「…………無意識って奴なんだ……。兄貴、不憫だな……」
決して、確信犯ではない、とのセッツァーの答えに、はふ……とマッシュは溜息を付いて、今この場にはいない兄に、『黙祷』を捧げた。
「マッシュ、エドガーは死んでない、死んでない」
「いやー、死ぬに等しいだろう、この場合。──少しだけでいいよ、想像してみろよ、ロック。セッツァーが一晩に、三回イッたとしてー。そうなると兄貴はさ、『自家発電』じゃなくって、恋人とは云え、他人にさあ……五回も六回も……ってことじゃん。俺、ちらっと考えるだけで眩暈するもん、そんなん」
「う………。言えてる…………。──あ、そっか。だから、エドガーの奴、今までの浮気癖が何処か行っちゃったんだ。納得」
「………だなー。……ああ、でも。自分の倍は軽く相手を……って、セッツァーやっぱり、性欲の塊? それとも、人でなし? 」
「性欲の塊であり、人でなしってのに、10ギル。回数的には濃厚じゃなくっても、内容的には濃厚ってことだもんなー。鬼畜だよなー、セッツァーの抱き方ってー」
「…………てめえら、いい加減にしろ…………」
かなりの勢いで、遠い目をして。
情事の度に、死に絶えそうになっているのだろう友に対する、深い深い同情を送りながら、云いたい放題言い合う悪友達に、セッツァーは呻いた。
………………が。
「──悪い。野暮用、思い出した」
仲間達を睨み付けるのもそこそこに。
がたり、と世話しなく椅子を鳴らして、彼は立ち上がった。
そわそわ、もぞもぞ、困った問題でも抱えているかのように。
「おや? 急に、どうしちゃったのかな? 希代のギャンブラーともあろうお人が。自分の人でなしさ加減自覚して、恋人の機嫌でも取ろうって、思ったとかー?」
「へー。セッツァーも、人の子だったんだー。唐突に、危機感、覚えたんだー。良かったなー、兄貴、これでやっと報われそうだなー」
「そうか。そんな風に云い腐りやがるか、てめえら。──分かった、この片田舎から、歩いて帰れ」
勢い良く立ち上がり。
ばさり、と椅子の背に引っ掛けていたコートを取り上げて。
帰る、と言い出したセッツァーを、ロックとマッシュが囃し立てれば。
ギロ……っと、紫紺の瞳を光らせて、不機嫌そうにセッツァーは、さっさと踵を返した。
「わ、嘘っ! 冗談だって、セッツァーっ!」
「ここから歩いて帰ったりしたら、何時間掛かるか判らないだろうっ!」
滅多にはない、世界一の勝負師をからかいまくれる機会を、逃して堪るものか、と、滑らかに舌を動かしていた、今さっきの勢いは何処へやら。
置いて行く、と宣言され、歩き出され、二人の男も、慌てて席より立ち上がった。
「…………勝手にしろ」
急ぎ、帰り支度を整えて、後を追い掛けて来た悪友達に、冷たくセッツァーは言い放つ。
「まあまあ、そんなに怒らないでさ」
「そうそう。どーせ、酒の上の会話なんだし」
が、ロックもマッシュも、誤魔化しでしかない、愛想笑いを浮かべて。
「……っとに…………」
てへ……と云った感じの、二人の愛想笑いを受けたセッツァーは、何とか、機嫌を直してみせて。
「又、飲もうぜー」
「そうだな」
「……ああ」
軽い約束だけを交わし、彼等は、酒場の外を満たしている、深夜の闇の中へと溶けた。
End
後書きに代えて
結構、下ネタなお話でした、この話(笑)。
猛烈な馬鹿話が書いてみたかっただけなので、話自体に、余り意味はないのですが。
以前書いた、『酒場にて』の、続きのような、そうでないような。そんな話なのですね、これは。
──未だ、管理人が学生だった頃。
当時の悪友達(その日集っていた面子は、私を除いたら、皆、男だった)が、ある夜、ふらっと出掛けたドライブの途中に話し出した会話を、一寸思い出して書いてみました(どんな会話をしてたんでしょうねえ。と云うよりも、どうして私はそこに、平然と交ざれたんでしょうねえ(笑)。気にしてくれなかったんだわ、皆。私が女だってこと(笑)。五、六人はいたんだけどなあ。男ばっか。気にして欲しいわ、頼むから(笑))。
それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。