scene 1

 

前書きに代えて

 

 んー…。ちょぉっと、こう云う話が書いてみたかったんですね。
 深い意味は有りません(意味が無いのは何時もの事…)。
 余りギャグを書かない海野が、たまには書いてみようかしらね…と血迷った気分で書いた物ですので。余り、突っ込まないで下さい……。
 にしても、芸の無い題だなー……。何も思い付かない…。

 

 


 これから始まる語りは。
 ファルコン号で冒険中のご一行様の、昼下がりの一コマである。
 宜しければ、ご静聴を。
 本当に、僅かな一コマであるし、彼等の行動と会話に、かなり意味不明な部分があるが(語り部にも、彼等の正確な人間模様が把握し切れていないので)。
 そこは、目を瞑って戴くとして。
 意味不明な部分は、貴殿の想像力で補って戴きたい(黒笑)。
 では。後ほど。



 どうも、王様はお疲れの様だった。
 何時終わるのか判りもしない戦闘に明け暮れて(それを人はレベル上げと云う)、一寸、お肌のコンディションも悪かった。
 …そう云う訳で今陛下は、ファルコン号のソファに足を組んで座りながら、うとうと、舟を漕いでいる。
「あら嫌だ、エドガーってば、うたた寝してるわ」
「…本当。可愛いじゃない」
 ……などと云う女性陣の囀りに、男に向かって可愛いたぁ、どう云う了見だ…と頭の隅っこで考えながらも、お疲れには勝てない陛下、すうっと、本当に、眠りこけてしまった。
 女とは、そう云う生き物である。
 女ったらしでならした君だ、それくらいは大目に見るのが紳士と云う物だ…と、影の声は突っ込みを入れたい。


 さて、そんな陛下の横で。
 やはり、一緒に戦闘に出掛けたギャンブラーな彼も、ひじ掛けに頬杖を突いたまま、同じように昼寝を決め込んでいた。
 この彼の方は、野次馬の声など、もう耳に入らない程意識が飛んでしまっている様で、リルムが面白がって顔を覗き込んでも、似顔絵書くぞ、と、脅しても(オイオイ、リルム…)、ぴくりとも動かない。
 賭け事&色事(……)だったら、どれだけ徹夜が続こうがビクともしない彼だけれど、やはり、戦闘となると、使う体力が違うのか。
「三つ編みにしちゃおうかぁ」
「ポニーテールにしゃいましょうよぉ」
 今だったら、絶対に何をしても起きないと悟った女人達に、玩具にされそうな雰囲気にも気付かず、ギャンブラーは、ひたすらに、惰眠を貪り続けていた。
 …にしても。
 セッツァーの髪を三つ編みやポニーテールにしたら、目覚めた時が恐ろしいと思うのは、影の声だけだろうか。うーむ。


 ──エドガーとセッツァーが昼寝を決め込んで数分後。
「う……ん……」
 てな感じの色っぽい声が、雑談をしていた仲間達の耳に届いた。
 ギョっとした周囲の視線が、声の主へと一斉に集まる。
 見れば、足を組んで座ったまま寝こけていた筈のエドガーが、どんな夢を見ているのかは知らないが、ズルズルとなし崩しに姿勢を崩して、隣のセッツァーに半ば抱きついている。
 一瞬にして、その場の空気は、二分された。
 ぴきり、と固まった男性陣と、ニタッと意味不明の笑いを浮かべた女性陣と。
「んーー?」
 急に、半身に掛かった重みに、セッツァーの方も寝ぼけた様な声を出して…出して…だが、一体何を思ったかは判らないが、抱きついてきた相手を、寝ながら彼は、抱き留めた。
 凍りついた空気は、益々硬度を増し、意味不明の笑いは、深みを増した。
「…んだよ…ダリルぅ…」
 おお良かった(何が)。
 どうやらセッツァーは、エドガーの事を、今は亡き友と勘違いしたらしい。
 ダリル、と云う女性の名前がセッツァーから洩れて、一同はホッとする。
 抱きついた相手の髪に手を伸ばしたエドガーの方も、
「ん?……ベス…?あれ…ジェニファ…いや…ファラ…?……それとも……」
 と、ズラズラと女の名前を羅列し始めた。
「何だ、詰まらない」
「…本当に」
 ボソっと、ティナとセリスが、不満を口にした。
 ……じゃあ、誰の名前を呼んだら、詰まらなくなかったと云うのだ。
「ベスって?ジェニファって?ファラって?…美味い?」
「…まあ、セッツァーの『ダリル』…は判るにしても」
「良くもあれだけ、女人の名前が出てくるものでござるな」
「しょうがないだろ、兄貴なんだから」
 男共は、エドガーが並べ立てた女の数に、妙な感心を示した。
 んー、だが、この相手が、セッツァーでなくて本当に女性だったら。今頃陛下は、血を見ているであろうて。
「だからダリル、重たいって……」
「エリザベス…君、少し逞しくならないかい…」
 その間にも、夢の中の相手へと、二人は身を寄せ合う。
 現実には、でかい図体の男同士、いちゃついているとしか見えなくとも。
 互い、相手を誤解したまま、と云う事が、救いなのだろうか、この場合。
「ダリル…お前、太ったろう…」
「いや…違う。この髪の長さは…ミーメ…」
「だから、ダリル……」
「ミーメ…もっと…こっちに…」
 ぶつくさ寝言をほざきながら、二人は同時に動いた。
 セッツァーは、『ダリル』の体が重たいから、逆の態勢を取ろうとして。
 エドガーは、『ミーメ』を自分の方へと引き寄せようとして。
 押し退け、覆いかぶさる行為と、引き倒し、抱き寄せる行為が、丁度見事なタイミングで合致して。
 …………………。
「ダリル……え…」
「ミーメ…ん?…」
 そこで彼等は、睡魔に愛想を尽かされた。
 ぱちりと開いた二人の眼(まなこ)が、お月様よりもまん丸くなる。
 夢の中で、甘い一時を過ごしていた相手が本当は誰だったかを、彼等は認識した。
 そりゃあ認識もするだろう。
 鼻先と鼻先がぶつかる程、二人の顔は近づいていたんだから。
 これで未だ、『ダリル』だの『ミーメ』だのと嘯けたら、称賛に値する。
「えっと…だな…」
「…そのう……」
 二人は、自らが醜態を晒した事を悟った。
 そしてそのまま、石化した。
 石化解消アイテム、『金の針』が必要かと思われる程、それは見事な固まりっぷりだ。


 

 

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