final fantasy VI
『今日の陛下』

 

前書きに代えて

 

 エドガー・ロニ・フィガロ二世陛下の(第三部設定ですんで)、とある一日の御日程。
 何をなさっているんでしょう、陛下ってば。
 ってな訳で、それを追ってみたお話です。
 太鼓のリズムに乗って、ドンドコドンドコ、管理人は踊ってしまいました(笑)。コメディ、書いちゃいました(笑)。
 では、どうぞ。

 

 

(注釈・テーマBGM、「N●K放送・今日の料理」より)

 

 余り、御存じの方がおいでではいらっしゃらない事実だが。
 フィガロ及びサウスフィガロ連合王国のメディアの中で、最も古い歴史と権威を持つ新聞社、フィガロ・タイムズのとある面には。
 王室情報が掲載されている。
 一寸、この世界とは次元の違う、某、黄金の国のテレビジョンにもある「皇●アル●ム」に、良く似たそれだと思って頂ければ宜しい。
 今日の国王陛下の御予定、とか、王族の皆様がどーしたこーした、と云うあれだ。
 で、件のフィガロ・タイムズの、王室情報記事は、タイトルを、「今日の陛下」と銘打ち、先頃、めでたくこの国の王として即位された、エドガー・ロニ・フィガロ二世陛下の、公式日程とやらを掲載している。
 実は、影の声は本日、その「今日の陛下」に付いて、語りたいと思っているのだが。
 マスメディアがダダ洩らしにする情報などと云うものは、当たり障りの良い様に、「修正」されている事も多々ある訳で。
 フィガロ・タイムズの記事にはない、麗しくお若い国王陛下の、真実の一日に関して、綴ってみたい。
 では、その前に、皆様には先ず、フィガロ・タイムズ掲載の、陛下の御日程をお披露目しよう。

 

〜フィガロ・タイムズより抜粋〜

 

 『今日の陛下』

 

 午前の御予定

 王宮にて、首相との御懇談(来週より行われる本議会の開催宣言に関して)。
 (この度開会される議会初日冒頭の宣言が、エドガー陛下の御代に於ける初の議会になる為の打ち合わせかと推測される。)

 午後の御予定 

 王宮にて、マランダ国大使御夫妻をお招きしての午餐会御出席。

 明日の御予定

 ××デパートにて開催中の、先代国王陛下追悼写真展を御覧になる為、外出の御予定。

 

 

 ──と、まあ。
 フィガロ・タイムズより抜粋してみた、陛下のとある一日の御予定は、この様なものであり、この様に語られる場合が多い。
 どこそこで、誰と会う、だとか。
 そこここで、何をしている、だとか。
 それを、日常生活の中では滅多に使われる事のない表現を用いて、うんじゃらくんじゃら、新聞は語る。
 抜粋しているだけで、こちらの肩が懲りそうな勢いだ。
 やんごとなき御身分の方と云うのは、誠に、やれやれ、である。
 だが。
 一日と云う奴はニ十四時間ある訳で、打ち合わせだの午餐会だのに出席している以外の時間と云うものや生活も、陛下にはお有りだ。
 なので、一寸ばかり、宮中に仕える侍従や女官達から聞き込んだ証言を元に、詳細な、エドガー陛下の御日程と云う奴を、今度は語ってみよう。

 

 

某月 某日

 

 午前七時、起床。
 王宮にいる限り、この習慣には長らく変化がない様だが、あれでいて存外、陛下の寝起きは宜しくないらしい。
 じいやによって、涼やかに──ではなく、叩き起こされて、一応は眠りから覚醒し、だが、ベッドの中で暫くの間はグズグズとしているのも又、長らく変化のない習慣の模様。
 前夜の夜更かしが祟っているのかも知れない、とは、とある女官の弁。
 ……夜更かしして、何をなさっていたのやら。

  

 午前八時半、朝食。
 ごたごたと、こうるさい支度の必要だった、中世の時代ではない筈なのだが、叩き起こされ──ではなく、起床されてから一時間半もの時間を掛けて、漸く、朝食の為のテーブルへ。
 文句の付けようのない程完璧な栄養バランスの、影の声だったら、顔を背けて唸りたくなるくらいボリュームのある食事が食卓に並ぶも、
「朝っぱらから、こんなに食べられないって云ってるのに……」
 と、ぶつぶつ、愚痴らしきものを零し、それでも一応はフォークを握る。が、結局、コーヒーとサラダと……と云った程度の軽めのものだけを、胃の臓へ。
 その様に、健康がどうたらぴーたら、くどくど言い出したじいやと暫し、だって、だの、でも、だのの、親子のよーな言い合いがあったとかなかったとか。
 最初っから、食べられる物だけ支度してやれ、と思うのは、間違いだろうか。

  

 午前九時十五分、時の首相御到着。平たく云えば、打ち合わせ開始。
 寝起きの悪さも、タラタラした手付きの支度の様も、朝食の席に於ける不毛な言い合いも、全て何処拭く風、と云わんばかりに。
 「はつらつ」として、「非の打ち処のない程に聡明」な、「常に微笑みを絶やさない」と評判の国王らしい、鉄壁の仮面を被って、御公務。
 居合わせた全ての者が、さすがエドガー様、と感嘆の息を洩らす程に、完璧な国王振りを披露。
 責任感──否、世間体──って素晴らしい。
 

 

 午前十時半、打ち合わせ終了。そのまま、「逃走」。
 午餐会が、遅めの午後二時開始、と云う事もあってか、首相との打ち合わせが終了して暫し後、城内から陛下、姿を消す。
 女官の証言によれば、朝の支度の最中、少しばかり真剣な目をして携帯メールを読まれていたとの事だから、仕事場にしているセントラルパーク前のマンションに赴いたか。陛下の隠された趣味の一つ、株に、思わぬ変動でもあったのか。と推測出来なくもない事態だが。
 その推測には疑問が残ってしまうのだ。
 株取引の連絡なぞ、城の電話やパソコンを使ってのそれで事足りる。
 それに。陛下は運転免許をお持ちで、御自分の私用車もあるのだが、この日、それを陛下が運転された形跡は皆無。
 ぺっとり張り付いていた身辺警護の者達は、黙して語らず。
 唯、地下鉄や自転車──チープな交通手段だ──を利用しての「外出」ではなかった、との確認だけは得られたので、赴いた場所が何処であれ、外出の為の「運転手」がいた事は間違いない模様。
 まあ、会社を経営なさっておられる陛下だからして、お仕事に赴かれたのであろう、多分。
 …………便利な言葉だ、仕事って。

 

 午後一時、「逃走」から御帰城。
 ぴーぎゃー喚くじいやを軽くいなし、何があったか、周囲が知る由もないが、何処か御機嫌な御様子で、礼装にお召し替え。
 国王に即位されてから少し、陛下は性格に変貌を来したのではなかろうか。
 余り、プライベートの出来事によって、表面に表れる感情が左右される方ではなかった筈なのだが。
 尤も、弟君の言葉を借りれば、
「あの人は元々から変。最近、頓に変。……理由? さあねっ。俺が知るもんかっ!」
 と云う事になるのだそうだが。
 

 

 午後二時、マランダ大使御夫妻を招いての、午餐会、御出席。平たく云えば、食事会。
 何でも、もう間もなくすると、マランダの在フィガロ大使は任期終了と共に帰国されるのだそうで、ならその前に、一度昼食でも、と云う運びになったが為の食事会らしい。
 ……何処か、一国の主人が主催する午餐会の割には、気軽な成りゆきが窺えてしまうが、まあ、良いのだろう。フィガロだし。
 午餐会の間中、陛下は、マランダ大使婦人が、ポッ……と頬を上気させる程、見事な笑みを称え続けられたと伝え聞く。
 何時もの鉄壁の仮面に、磨きが掛かったか。
 それとも、「多少」御年配の既婚女性と云えども、守備範囲の中なのか。
 そうするのが礼儀だと信じているのか。
 単に、御機嫌の良さを隠し切れなかったのか。
 理由は、定かではない。

 

 午後五時、午餐会終了。
 それに伴い、その日の一応の御公務、終了。
 ちゃかちゃかと普段着に召し替えられて、弟君に携帯にて連絡。
 御兄弟仲良く、「お忍び」の外出。
 お仕事の事らしいから、と、この外出には、じいやの小言も聞かれず。
 ……しかし、良いのだろうか。
 こんなにひょいひょい、君主が居城を留守にして。
 フィガロが平和な証拠だと思えば、問題はない、と言えない事もないが……、ま、目を瞑ろう。
 

 

 午後七時、御帰城。
 意外にお早いお戻り。
 お仕事、と云う外出の理由は真実であったらしい。
 でかい書類鞄を携えて、自室へ。
 弟君と御一緒だったのは、何か、私事での打ち合わせでもあったのだろう。
 昼食が遅かったから、夕食ではなく夜食程度の物を後で、と言い残し、缶詰め状態突入。
 マネーゲームの為の作戦立てと、電子機械との対話に没頭か。
 電子機械との対話は、陛下の趣味の一つだとしても、マネーゲームは……。
 国家の財政とは全く関係のない、個人資産だって、貴方、唸る程持ってるでしょ? と思う者も、陛下の周囲にはいない訳ではないが、儲ける事が楽しいのではなく、結果として儲けるべく、知恵を絞ってみるのが、陛下には楽しいらしい。
 学者の様なお方である。
 この間に、軽めの夕食と云うか、夜食と云うか、も召し上がる。
「運ばれて来たサンドイッチの中身に、ちらりと目を走らせておられた様だから、何か、サンドイッチの具になる物の中に、嫌いな物があるのやも知れない」
 とは、着任したての給仕の弁。
 君主である手前、建て前上、好き嫌いはない事になっているのやも。
 陛下は何が嫌いなのだろう。謎だ。
 

 

 午後十一時、缶詰め状態終了。その後、入浴。
 ぶつぶつ、口の中で、訳の判らない数字の羅列を呟きながら、御入浴タイム。
 完璧なプライベート空間である──だろう、幾ら何でも風呂場は──バスルームには、流石に誰も立ち入る事が出来ないので、たっぷしとゆったりなさっておられたのか、一時間程、隠る。
 ちょっぴし、のぼせる。
 眠りこけていたのではなかろうかと、少々不安に駆られる事実だが、本人は気に止めていない様子なので、判明しなかった事実にしておこう。
 じいや、もとい、侍従長の証言によれば、御幼少のみぎりから、陛下の入浴時間は長めなのだそうだし。
 綺麗好きなのは、良い事だ。
 

 

 午前零時、就寝のお支度を整え、寝室へ。
 だが、日付けが変わっても、御就寝はなさらない。
 如何にエドガー陛下と云えども、若干、と云うべきか、大幅に、と云うべきか、まあ、「多少」特殊な環境の元とは云え、現代社会の中で育った、現代っ子である事には変わりがない訳で。
 一寸だけ、お風呂上がりにお酒でも、てなノリで、泡々の麦酒なんぞこっそり嗜み、コードレス電話片手にベッドの「上」へ。
 短縮ダイヤルに登録された、極々近しい人物の元へ、ミッドナイトコールをされた模様。
 王宮の経理を担当している部署の談話によると、この、陛下の私用回線は、
「お支払いになっているのは、御自身ですから宜しいんですけど。でも……」
 と、幾ら金の出所は当人でも、おいおい、と口を挟みたくなるくらい、結構な料金が課金されているらしい。
 一般人から見たら、少しばかり眉を顰める電話料金を請求されても、陛下にとっては些細な金額であるのだろうから、問題はないのだが。
 陛下の某友人より、
「えー? 毎晩のよーに、くっちゃべってんじゃないの? 暇さえあれば」
 てな証言も得られている事を鑑みると、陛下、夜な夜な、何処の誰と、何時間喋ってるんですか? と、尋ねてみたくはある。
 又、この深夜の長電話が、昨今の陛下の寝起きの悪さの原因ではないか、との推測も可能だ。
 ……素朴な疑問だが、電話の相手は、寝不足にならないのだろうか。
 

 

 午前……時。正確な時間は不明だが、漸く、真の御就寝。
 底抜けに幸せそうに、電話の相手に就寝の挨拶を告げ、電話を切り、陛下は漸く、ベッドの中へ。
 当年とって27才、未だお若いし、体力もお有りだろうから、中々にして無茶な生活を送る事が、今は未だお出来になるのだろうが。
 人間、何時までも若くはないし、何時までも無茶は利かない、と言う事を、御注進申し上げたい。
 それでも。
 陛下に仕える者達の、一体誰がそれを垣間見たのかは預かり知らぬ事ではあるが、電話を終えた陛下、今日一日称えられていた微笑みなどとは、比べ物にならぬ程の表情をなさって、毛布の中に潜られたとの事であるから、周囲の者が、多くを語って聞かせるのは、野暮と言うか…まあ、その。
 ──何はともあれ、お休みなさいませ。

 

 

 ──ペンは、剣よりも強し、と言う。
 報道と言うものは常に、正確な出来事、正しい情報、万民を惑わす事なく、公平且つ中立な立場で、起きた事柄を、人々に伝聞しなければならない。
 ……のだと、思うのだが。
 如何だったろう。
 フィガロ及びサウスフィガロ連合王国の国家元首、エドガー・ロニ・フィガロ二世陛下の、新聞報道で語れる事のない、「誠に正しい」一日を、二十四時間中全て、とは言えないが、お伝えする事は叶ったろうか。
 フィガロで最も権威ある新聞社の報道が、如何に簡略化され、隠蔽されているか、と言う事に、お気付き頂けたら幸いだ、と影の声は思うのだが。
 ……まあ、それはさておき、エドガー陛下は、我等が愛すべき、当代の君主である。
 陛下の一日が如何様なるものであるにせよ、これからも、お幸せに、恙無い日々をお送り頂きたいものだ。
 但し、城内からの無断の脱走は、控えめに。
 ま、無理だとは思うが。
 又、これを語り終えるにあたって一言、結びの言葉をここで述べるならば。

 ……陛下、鉄壁のガードで守られてますね。何方かと御昵懇なのは宜しゅうございますが、あんまり周りの皆さんに迷惑掛けちゃ駄目ですよ。

 と言う事になるだろうか。

 

END

 

 

後書きに代えて

 

 一寸ね、この間、盛り上がったんです。「今日の陛下」って……って、己の中で、強烈に(笑)。
 コメディですんで。この陛下、一人ガンガンに「お出掛け」なんぞをなさっていますが。
 まあ、それもこれも、愛故に、と言う事で。
 でも、正直申し上げて管理人は、寝不足のジェット戦闘機パイロット、と言う奴は物凄く嫌です(笑)。陛下は多少寝不足でも、いいけど(いいのか、本当に)。
 宜しければ、感想など、お待ちしております。

(因みに、「今日の陛下」の、お・ま・け♪ は、こちら)

 

 

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