final fantasy VI@第三部
『intrigue』
前書きに代えて
『an evening primrose』、『a scandal』、に続く、分類不能シリーズ。
又、お届けします。
何やら、現在(2003.03)の時節柄、…………な出来事が題材ですが。
書いたのは、えーと、去年の……あー、何時だったかしら……ああ、梅雨の頃なので。
その辺はまあ、創作のこと、と思ってやって下さいませ。
──この話、何のことはない、第三部のお二人の、その後エピソードの一つ、ですが(笑)、今回ばかりはシリアスです。
コンセプトは、エドガーを徹底的に泣かせてみよう、です(謎)。
では、どうぞ。──intrigue、陰謀。
Ethnic cleansing
21XZ.XX.XX------------Tielow通信
21XW年、フィガロ国とジドール国が、その後一年間に渡る戦いを繰り広げる結果をもたらした、宗教戦争を勃発させた時、世界の大半の人々は、あの忌わしい出来事に対して、随分と時代掛かった理由で、と、そんな感想を抱いたのではないだろうか。
事実、世界各国の代表的なメディアが、各々、あの戦争に関するアンケート調査を行った処、言葉は悪いが、端的に表現するならば、馬鹿馬鹿しい理由だと云う答えを、自国民の大半から得ることが出来た、と云う結果が、World unionに保管されている資料の中にも、当社の資料の中にも、刻まれている。
しかしながら。
結局の処、両国が避けること叶わなかったあの戦争は、宗教や民族の違いが戦いに発展することは愚かしいと受け止められる世界の人々の認識の中に、その認識に反して、Ethnic cleansing(民族浄化)や宗教の壁に関する諍いは、軍事力の行使でしか解決することが出来ない、と云う負の楔を打ち込む、決定的な出来事になった。
そして、その負の楔は、今も尚、根深く、世界の首脳達の中に打ち込まれたままだと云うことを、今現在、ツェン国の軍基地に、World unionの呼び掛けの元、多国籍軍が集いつつあることが証明している。
この各国の動きは先年、ツェン国と国境を接する『──共和国』で起こった、民族紛争を解決する為に取られている処置なのは、周知の事実であり。
World union最高事務次官の、平和的解決へ向けての奔走が、今一つ結果を生まぬ現状を鑑みれば、数週間後に、『──共和国』への多国籍軍による空爆が開始されるのも、想像に難くない。
Ethnic cleansingや民族の壁と云う諸問題を解決する為の手段として、武力行使に及ぶと云う、21XW年の悲劇が又、繰り返される日も近い。
目下の処、現実となりつつある悲劇を避ける為の唯一の光明となり得そうな動きは、フィガロ国王・エドガー・フィガロ二世陛下を筆頭とする、世界平和を望む者達の取り成しのみだが、政治的な立場に於いては、象徴の域を出ぬ各国君主達の仲介が、起死回生の一手になり得ると云う見方に関しては、疑問視する声も強い。
ここの処。
南の国で勃発しそうな悲劇を避ける為に、あちこちに働きかけて歩くことに忙しくて、疲れの色を隠し遂せぬ顔色をした、エドガー・ロニ・フィガロ二世は。
「…………そう……」
重苦しい声で、一言、答えた。
「仕事、だから」
奔走の合間を縫って、何とか顔を出すことの叶った、フィガロの首都中心部にあるセントラル・パーク前のマンションの最上階で、リビングのソファに力なく座り、苦しそうな眼差しを送って寄越したエドガーに、やはりその日、その場所に、激務の隙を見てやって来たセッツァー・ギャビアーニ空軍大尉は、簡潔に告げた。
今、フィガロより遥か南にあるツェンと国境を接する某共和国では、民族紛争が繰り広げられている。
共同通信の報道などにより、世界に配信されるその紛争の現状は、余りにも悲惨で、World unionと云う世界機構に所属する各国──勿論、その中にはフィガロも含まれている──は、建て前的には『人道的にそうせざるを得ない』と理由で以て、その紛争に介入する、と云う採択を可決してしまったから。
その背後に、現在、某共和国内で実権を握っている独裁者を、世界が納得する形で始末してしまいたい、とか、軍需産業界の要請を受けて、とか、そんな実状があるにせよ、一刻も早く紛争の解決を、と云う立場を見せはする各国首脳は、それぞれ自国の軍隊の一部を、多国籍軍に参加させる為、紛争地帯に派遣しつつあった。
そして。
近代戦争の常として、そう云った武力行使の際、真っ先に借り出される空軍の、第15航空団、則ち、エドガーの恋人である、セッツァーが所属する部隊に、その辞令は下り。
かの戦争で、英雄として名を馳せた空軍大尉は、再び、『戦場』へと赴くことが決定していたから。
明日の午後、フィガロを発つのだと、愛しい人に聞かされた国王の心中は、公的にも、私的にも、悲嘆の色で塗り潰された。