final fantasy VI@第三部
『jealousy』

 

前書きに代えて

 

 随分以前に、友人と会話してた時に出たネタを小説に起こした作品です。
 ……書いたまま、upするのを(いや、この話を書いたことを)、すーーーーっ……かり忘れていた、と云うのは、内緒です(汗)。
 コメディのような、シリアスのような、そんなお話ですが。
 では、どうぞ。

 

 

 あの女(ひと)が、大空の彼方に逝ってしまった、苦い思い出の日。
 あの女(ひと)を見送ってから、丁度一年が経った時、そうしたように、今年も又、ファルコンを飛ばさないか、そんな話が、あの女(ひと)の仲間だった者達の間で、暫く前より語られていたが。
 その年、砂漠の直中にあるフィガロ空軍基地を統括する司令官は、部下達より申請されたその『お祭り騒ぎ』に、許可を下してはくれなかった。
 なので、仕方なく。
 少しばかり昔、遠い所に逝ってしまったあの人を悼む為に、今年はちゃんと、墓参りでもしようかと。
 そんな話になって。
 フィガロ空軍、第15航空隊に所属している士官達や、士官学校時代より、故人やあの戦争で逝ってしまった者達の友人だった人々が、所謂、『命日』の日の午後。
 首都・フィガロの中心部にある、戦没者の眠る墓所の一角に集まった時。
 

 

 セッツァー・ギャビアーニ空軍大尉や、マッシュ・レネ・フィガロ二世陸軍大尉や、士官学校時代から、彼等二人や故人であるダリルの悪友だった者達や……総勢、二十人は下らない、と思われる軍人達の一団が、各々、正規の軍服を着込んで、死者に手向ける花束を片手に、ダリル達の墓の前へとやって来た時。
 彼等は、先にその場所に赴いていた『先客』の後ろ姿を見つけた。
 喪に相応しい、黒一色の民族衣装を纏って、墓所を囲む芝に跪いていた先客の背には、蒼絹で纏められた、長い金の髪が降ろされていたから。
「……エドガー?」
「え、兄貴?」
 一団の先頭を歩いていたセッツァーとマッシュは、先客の正体に思い当たって、同時に声を放った。
「…………あれ?」
 戸惑いを隠せない声で呼ばれ、先客は振り返り。
 彼等よりも、意外そうな色の濃い表情を拵える。
「何やってんだ? お前」
「君達こそ、墓所で何を? 今日は、Miss.ダリルの命日なのだろう? あの年のように、ファルコンを飛ばすことは叶わなくなったって聴いてたから、今日は何処かで『宴』でもしているかと思ったのに」
 こんな場所で一体、何をしているんだ、と云うセッツァーの問い掛けに。
 先客──エドガー・ロニ・フィガロ二世は云った。
「ファルコンの話に許可が降りなかったから、俺達は普通に、墓参りに来ただけだ。まあ…この後、飲みには行くんだが……。──って、だから、お前は何でここにいるんだ?」
「私も、墓参りをしに来ただけだが?」
 墓参りに来たんだと答えた、対外的には親友、実の所は恋人、と云う関係のセッツァーに、エドガーは、君と同じだよ、と微笑んむ。
「どうして?」
「……どうして、って……。そうしてみたくなったから、さ。あの戦争で亡くなった、君の友人達をね。国王として……君の親友として……参りたくなった。それだけ、だ」
「…成程」
 ここにいる理由を告げたエドガーに、セッツァーは、花束を担いだままの肩を竦め。
「でも……兄貴、一人で?」
「まあ、ね。今日は一日、フリーになったから。厳めしい顔しかしない彼等には、『遠慮』して貰った」
「遠慮って……どうせ、振り切って来たんだろ。あー、まーた、あそこの隊長に泣き言垂れられる……」
 双児の兄であり、この国の君主である彼の周囲に、警護の者達の姿が見当たらないことに気付いたマッシュは、頂けない、と顔を顰めた。
「────おい、どうしたってんだよ。とっとと……って…え?」
 ……と、大して広くはない墓所の通路にて、先頭の二人が立ち止まり、『先客』と話し出してしまったのを受けて。
 彼等の真後ろにいた空軍々人が、ひょいっと、肩越しに顔を覗かせ。
「あの……もしかして……エドガー陛下?」
 墓参りの先客の正体に、気付いた。
「え? 誰だって?」
「……陛下」
「陛下? エドガー陛下? 又、何で?」
 故に、ダリルの墓を参っていたのが、己達の崇めるべき国王だと知って、集った者達の間には、ざわめきが広がり。
「私の方は、もう済んだから。失礼するよ」
「帰るか? ……なら、後で『そっち』に顔を──」
 一団が騒がしくなったのに気付いて、帰るから、と言い出したエドガーと、だったら後で落ち合おうかと言い出したセッツァーのやり取りを遮るように。
「あ、あのっ。陛下、宜しければ、その……ご同席して頂けませ……ん…か…?」
 振り返ったセッツァーが、チロリ、睨んだのにもめげず。
 こんな機会は滅多にないから、と、軍人達は申し出た。
「いや、でも……私が同席しては、やり辛いのでは…」
「そんなこと有りませんっっ。光栄ですっっ」
 ────どうやら。
 国民達に、絶大な人気を誇る若き国王は、軍人達の間でも又、その評判は変わらなかったらしい。
 幾ら恋人や弟がいるとは云え、二人の仲間が二十人程もいる中に入る訳にはいかないと、やんわり、エドガーは断わりを入れたのだが。
 上ずった声で彼等は、名誉なことなんです、と、訴えて来た。
「……どうしよう?」
 故に、期待の眼差しを一身に浴びた国王は、墓所の前に跪いたまま、小声で囁き、恋人と弟を見比べる。
「どうしよう、たって……」
「…………ま、いいんじゃねえのか? お前さえ暇なら。こいつらも喜ぶんだろうし。逝っちまったダリル達も、『こそばゆい』だろうから。俺もマッシュもいるし。心配はねえだろ」
 彼の問い掛けを受けて、マッシュは口籠った。
 が、軽く微笑んで、付き合ってやってくれ、とセッツァーは答えたから。
「じゃあ……お言葉に甘えて、少しだけ」
 にっこりと、エドガーは顔を綻ばせ。
「安らか、に」
 もう一度、ダリルの墓へと振り返り、祈りの言葉を呟いた。
 

 

 崇めて止まない祖国の王が、直ぐそこにいる。
 その事実に、少しばかりポワリと舞い上がった軍人達に囲まれつつ。
 結局エドガーは、彼等の墓参りが済んだ後、『馬鹿騒ぎ』にも引きずって行かれた。
 一般人であろうと、軍人であろうと、『有名人』に注ぐ思いは、そう大差ない、と云う証明なのだろう。
 祖国の象徴であり、守るべき『Load』である彼を、軍人達は取り巻き、貸しきりにして貰った、空軍官舎近くのパブでは、あれこれと、『ちょっかい』を仕掛けて来たが。
「いい加減にしろ、お前等」
 鬱陶しげな顔をして、何時も通りにしてりゃいいだろう、とセッツァーに追い払われ、漸く騒ぎは、何時もの騒ぎ、になり。
「墓参の日をずらした方が良かったかな」
 パブの片隅のテーブル席の一等奥で、ほっ……と息を付きながら、エドガーは苦笑した。
「……悪かったな。折角の休日に。送り届けてやるべきだった」
 彼の隣に座って、グラスを傾けるセッツァーも又、選択を誤ったかも、と溜息を零す。
「お前に、自覚があるかどうかは知らないが、俺達軍人にとっちゃ、君主って存在は又、一般人とは別の意味で、特別だからな……。少しだけ付き合って貰えたら、とそう思ったんだか……」
「…………あの……御迷惑、でしたでしょうか、陛下……?」
 そんな彼等のやり取りを聞き付け、セッツァーやマッシュと、殊の外仲が良い為に、そのテーブル席に混ざること叶った男の一人が、申し訳なさそうに、ぺこり、頭を下げた。
「ああ、気にされずとも。誘って貰えて、私も楽しめているし」
 だが、畏まる彼へと、エドガーがやんわり、笑みを注げば。
「こういうのって、陛下には騒々しいかも知れませんけど。結構、その……愉快ですし。皆、根は好い奴等ばっかりですし。誰も彼も荒っぽいですけど、セッツァーよりも口が悪いってことは無いと思いますから」
「粗野なのばっかりは、どうしようもないですけどね」
 ほっとしたのだろう、その男や、そのテーブルの近くにいた別の男達は、愉快そうに喋り出した。
「……悪かったな、口の利き方が、雑で」
 ──始まった、と。
 不機嫌そうにセッツァーが、柳眉を顰めた。
「だって、ホントのことだろ? 何がどうしてどうなったのか、詳しいことは知らねえけど。お前が陛下の親友だってのは、物凄いミステリーだぞ、セッツァー」
「だよなー。マッシュとってのは理解出来るけど」
「どう云う意味だよっっ」
 自称したように、口は悪いらしい彼等の語りが、自分へと向いたのを受けて、エドガーの対面に座っていたマッシュも、声を荒げたが。
「事実、だろ?」
「お前がプリンスってタマだとは、思えないもんな」
 けらけらと、男達の会話は続き。

  

 

 

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