final fantasy VI

jealousy
(後日談)

 

 

 

 ダリルが逝ってしまった日の、翌日。
 前夜に起きた、ささやかな『騒ぎ』の席にいた、士官達が。
 午前の訓練を終えて、ランチタイムを過ごす為、空軍基地内の食堂に顔を見せたセッツァーを捕まえたのは、一寸した疑問を、晴らしたいが為だった。
「なあ、セッツァー?」
「……何だ? お前ら。雁首揃えて」
 Aセットのトレイを持って、適当な席に腰を降ろした途端、周囲を取り囲んだ仲間達に、セッツァーはぎょっとし。
 不機嫌そうに、眉間に皺を寄せ、それでも彼は、さっさと食事を済まそうと、右手でフォークを取り上げた。
「その、さあ……」
 そんな彼に、誠に云い辛そうに、集った男達は、話し掛ける。
「だから、何だってんだ。云いたいことがあるなら、とっとと云えばいいだろう」
 もごもごと、さて、何と切り出したらいいやらと、そんな風情の仲間達を見比べ、鬱陶しい話にのんびり付き合ってやれる程は暇ではないエースパイロット殿は、ぐっさり、フォークをグリーンサラダの皿に、突き立てた。
「えっと……変なこと、聴くようなんだが……。エドガー陛下ってさ……」
 ──このままでは、程なく彼が怒り出す。
 その気配を察して、仲間達は、意を決し、とある人物の名前を舌に乗せた。
「…あいつが、どうかしたか?」
 密かに想い想われる恋人の名を出されて、ぴくり、セッツァーは片眉を持ち上げる。
「うん…まあ……。他愛のないことなんだけど、さ」
「だーから。なんなんだ、さっきっから。他愛のないことなら、とっとと云えっ」
「あのー……。陛下って、さ。酒癖、悪い?」
「いや、別に? 昨日のアレを見て、そう云ってるんだろう? あんなのは、先ず滅多にない。たまたまだ、たまたま。あの騒ぎの雰囲気に当てられたんだろ」
 一体、仲間達は、恋人に関する何を言い出すのかと思いきや、問われたのは、本当に他愛のないことで。
 何だ、そんなことか、と、彼は苦笑した。
「でも……多少は、酔ってた…んだよな?」
「まあな。そりゃ、具合は決して良くなかったが……。だが別に、前後不覚って程じゃなかったとは思うが」
「ならさ。…あの、さ……」
「……なら、何だ?」
 ──それにしても。
 こいつらは、一体、何が知りたいのだろうと、仲間達の他愛無い疑問に答えながら、セッツァーは、トレイの上からオレンジジュースを取り上げ。
「お前と陛下って……。あのっ……怒る…なよ……? ……お前と陛下ってさ……本当に……唯の親友同士な訳……?」
 ジュースを口に含んだ途端、耳に届いた不躾な質問に、ブッっと、飲み込み掛けたそれを、少々盛大に吹き出した。
「…………はあぁぁ?」
 トレイの上や、軍服の膝に散った、ジュースを拭うのも忘れ、甲高い裏声を、彼は放つ。
「キタねえな……」
「あ……ああ……」
 それ、何とかしろよ、と促され、漸く、紙ナプキンを引っ付かんで辺りを拭き取り。
「…どう云う意味だ?」
 新しく掴んだもう一枚で、口許も拭って、セッツァーは、深く深く、それは深く、眉間に困惑故の皺を刻んで、友人達を見た。
「いや、な。ことの発端はな。昨日、お前とエドガー様があの店出てった後に。陛下って、あんな人だったんだなあ……って話になった処から始まってるんだ」
 何をどうしてどうなれば、そんな発言が出て来るんだと、眼差しで訴えるエースパイロットに、男達の一人が、語り出した。
「酷く、酔ってたのかなあ、とかさ。もしかして、陛下って、酒乱なのかな、とかさ……。まあ、そんな話を、皆でつらつらして……。そりゃ、俺達にしてみりゃ、陛下は雲の上の方で、本当の人となりなんて、知りようもないから、実際の処なんて判らないけど。でも、それにしたって、あの話の後に、男のお前にキスするってのは……冗談にしても…その……何だな、と……」
「……冗談だ。何処までも、冗談だ。確かにあいつは酒乱って訳じゃねえが。……ああ、昨日は確かに、酔ってた」
 もごもごと、『何か』を疑う風に告げて来る仲間へ。
 セッツァーは、強い口調で云い募った。
 ……だが。
 取り繕うようなセッツァーの言葉に、どうも、深い疑問を抱えてしまった士官達は、納得を示さず。
「でも今さっき、前後不覚って訳じゃなかったって、お前が云ったんじゃん。…………お前…達……さ。まさか、とは思うけど、さ。その…………唯の親友って云う範疇を越えちゃってる……とか云う訳じゃ…ない……よな?」
「親友の範疇を越えてるってな、どーゆー意味だ」
「だから、そーゆー意味だよ。その……友情、でなくて、愛情、の関係」
「それにさー。考えれば考える程、一寸、符に落ちねえんだよな。何か、お前を見てる時の陛下の目って、何処となーく、色っぽいし。幾ら相手が陛下だからって云っても、普段からは考えられない程、お前、なーんか、陛下に異様に優しいし」
「……昨日の、陛下の『冗談』、さ。他の奴がやったら、お前絶対、ぶっ飛ばしてるだろ? 例え陛下が相手だって、お前だったら咄嗟に、振り払うくらいのこと、出来たよな? なのに何であの時、お前にそれが出来なかったのかなー……って話にも、夕べ、なってさ……」
「……………………お前等、な……」
「いや、下衆の勘繰りで申し訳ない、たぁ思うさ。俺達だって。でも、その……気になっちまって……」
 進んで行く話に、セッツァーが、少しずつ、少しずつ、あからさまに機嫌を損ねて行くのにもめげず。
 彼等は口々に、ぶつぶつ、ごそごそ、疑問をぶちまけた。
 ──頭上で、代わる代わる、言葉を投げ掛けられ。
 フッとセッツァーは、短く太い、溜息……と云うよりは、息を吐き。
 手にしたままだった紙ナプキンを、丸めて捨てて。
 女性を魅了するには充分過ぎる程整ったスカーフェイスより、一切の感情を消し。
「……死にてぇのか? お前等」
 ぽつり、彼は呟いた。
「あー……だからー……気に障ったんなら謝るからさー。唯、その……お前の口から、そんな馬鹿なことが有る筈ないって、俺達は聴きたかっただけなんだよ……。そのー…夕べのことが一寸、尋常じゃなかったから……」
 …ああ、マジだ、と。
 抑揚のない呟きを受けて、男達は慌てて謝る。
「聴くまでもないことを、一々、一々、尋ねてくんじゃねえ。友情じゃなくって、愛情だあ? ……あいつが女だったらな、そういう話もアリなのかも知れねえが。──エドガーが、男にしちゃあ、ちょいと華奢な印象を与えるってのは否定しねえし。顔だって、ああだ、ってのはいっっくらでも認めてやるが。…あいつは、れっきとした男だぞ? 俺達と同じモン、付いてんだよ。俺が男にほだされて、愛情傾けるようなタイプだと、思ってやがんのか? あり得る訳がねえだろうがっ。寝言ほざくのも、大概にしとけっ」
 つまらないことを云って悪かったよと、多少後ずさりしつつある仲間達を鋭く睨み付け、セッツァーは、もうランチを取る気も失せた、と、席を立った。
「ま…又、後でなー……」
 苛立った足取りで、その場を去って行く彼を、落ち着け、と云うジェスチャーで以て、男達は見送る。
 そして、その後ろ姿が、食堂の入り口から出て行くや否や。
 セッツァーの悪友達は、顔を見合わせ頭を突き合わせ。
「…………な、どう思う?」
「限りなー………く、クロだなー……。普段のあいつだったら、こんな話、冷たくあしらって、はい、お終い、の筈だからな。あそこまで怒ることがそもそも、尋常じゃない」
「あ、やっぱりお前もそう思う? 唯の親友だ、の一言で、済む話だもんなー、こんなん」
「俺達さ。最初は、唯の親友同士なのか? って聴いただけじゃん。それで、吹き出すか? 普通」
「──さっきさ。あいつ、陛下が女だったらそういう話もアリだ、って云ったじゃん? ってことはさ。あいつの性格からして、陛下が男だって部分以外は、all ok、好みの範疇ってことだよな? 容姿のことまで聴いてねえもん、俺達」
「……昨日…セッツァーさぁ……。陛下送ってった後、官舎に戻って来たっけ……? 来なかったよな…」
 ──彼等は、興味津々の顔をして、親友同士である筈の、祖国の君主と、己らが戦友の本当の関係に付いて、ランチタイムの間中、盛り上がり続けた。
 

 

 その後。
 さあ、楽しくなって来た、と。
 空軍に於けるセッツァーの仲間達が、彼と彼の『ご親友』の間柄を勘繰り、真実を掴むべく、奔走したのは、語るべくもないこと、だが。
 セッツァー・ギャビアーニ空軍大尉と、エドガー・ロニ・フィガロ二世陛下との本当の関係が如何なるものかを示す事象を、彼等が掴み得たのかと云えば……それは又、別の話で。

 

end

  

 

 

後書きに代えて

 

………………おまけ(笑)。

 

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