final fantasy VI@第三部
『an evening primrose』
前書きに代えて
リクエスト・キャッチ物(謎)小説です。
お題は『遠距離恋愛』。設定は、本編第三部。
目指せ、乙女チックラヴロマンス、の筈だったんですが…………(汗)。
何処でどう、予定が狂ったのやら。ロマンスの欠片も、これには有りません(涙)。
──又。これから始まるお話を。
シリアス、と取るか、コメディ、と取るか、は、皆様次第です。
タイトル、『an evening primrose』は、宵待草の事。……タイトルだけは、可愛いんですけれどもね……。
尚、この作品の中には一部、Javaアプレットが使用されている箇所があります。
御了承下さい。
では、どうぞ。
シーツに浮き上がっていたその無数の皺の波を、壊しては生み、壊しては生みしている指先の動きは、何かの淵から懸命に逃れようと足掻いているそれに似ていた。
そんな指先の後を追う様に、何処から伸びて来たもう一つの指先が、逃れ行くそれをきつく絡み取ってしまったから。
何時しか、足掻いていた指先の持ち主からは、ともすれば、悲しみが放たせる嗚咽にも聞こえる、嬌声が洩れた。
けれど。
泣き声に似た、艶やかな『鳴き声』も、絡め取られ止まった、指先の動きの様に。
やがて、静かに途絶え。
『そこ』は、折り重なる、二つの静かな吐息で満たされたけれど。
「未だだ。……未だ……。……足りない」
「…だけど……──」
「いいだろう……? 15週間だぞ? 100日以上も、お前に逢えないんだ……」
続いて聞こえた、短いやり取りの後。
白い布の波が、又、無数に沸き上がった。
フィガロ及びサウスフィガロ連合王国と、東方のドマ国は、政治、経済、軍事、その全ての方面に於いて、非常に有効的な関係を保っている。
故に。
両国の、陸・海・空、三軍が参加する、大規模な合同演習と云うものが、今までも度々、行われて来た。
──その年の夏も。
両国の、陸軍歩兵師団の幾つかと、海軍艦隊の幾つかと、空軍航空軍の幾つか、それに、第…空挺部隊数隊、と云う、この数年の演習の中でも、最大規模の合同演習が、ドマ国で行われる事になっていた。
そして、それぞれの軍が、それぞれの国にての準備期間と、実際に演習を行う期間を足せば、都合15週間にも及ぶ、少々異例な長さのその任務に。
今年は、セッツァー・ギャビアーニ空軍大尉も、赴く事は決まっていた。
このミッションが始まってしまえば、目の回る様な忙しい日々で、彼の生活は塗り潰される。
ドマへ赴いた後は勿論、その為の準備期間も、空軍基地の方に詰めなければならないのは、必至だ。
だから彼はその日。
セントラルパーク前のマンションを訪れて、恋人との名残りを惜しんでいた。
十五週間の間。
彼と、彼の恋人である、エドガー・ロニ・フィガロ二世は恐らく、電話のやり取りも、PCや携帯メールのやり取りさえも、行えないから。
彼に限らず、その任務に従事する者は誰もが、15週間の間、最愛の恋人や家族達と、暫しの別れを強要される。
──『少々異例な長さ』である、演習ではあるけれども、若干特殊なその任務に赴く者達の全てに言える事だが。
彼等が基地にいる間はそれでも、家族や恋人達との電話のやり取り程度は出来るものの、民間には洩らす事の出来ない機密事項やその他、複雑に入り組んだ諸々の諸事情がある故、その間、基地内部から外部に向けて行われた通信の記録は、公私に関わらず、記録される事になっている。
他の兵士達はその事実を知ってはいるが、別段、家族や恋人の無事を確かめ、己の無事を伝える程度の、ささやかなやり取りの記録など、今更気には止めないけれど。
彼等は、そうはいかない。
同性同士であるだけなら未だしも、お互いの恋人が誰なのか、決して知られる訳にはいかない。
だから彼等は、電話など出来ないし。
通信内容を、記録される事はないだろう携帯の持ち込みに関する許可は、降りてはいないし。
手紙を書く時間も、あるかどうか判らないから。
彼等はその日、一晩を掛けて。
15週間に渡る別れを惜しむしか、方法がなかった。
けれど。
15週間と云う長きに渡る『暫しの別れ』は。
相思相愛の恋人達にとっては、少々、長過ぎる別れの期間だったから。
だから、彼等は。