final fantasy VI

『永遠に巡る』

 

 先日、管理人は、『行き止まりの路地裏@期間限定春休み』チャットルームにおりまして(って、何時、閉じるんですか、自分)。
 その時、隠し部屋のキリ番が、ニアピンだった、と云う御報告を戴きました。
 申告して下さったのは、別冊FF6の方で、イラスト担当して下さってるHayakawaさんだったのですが。
 その時のお話の流れで、その時チャットにいらっしゃった皆さんのリクエストを合体させて小説を一つ、と云うことに相成り(ニアピンだった、とかその他諸々の兼ね合いで、そうなりました)。
 『美女と野獣』と云う有名な物語を下敷きにしたセツエド小説を、今回、海野はお届けすることになりました。
 チャットに参加して下さっていた方は、計四名の方。
 ですので、お話も、人数分と云う訳ではありませんが(笑)、長いです。
 リクエストを下さった皆さん、有り難うございました。
 それでは、どうぞ。

 

 

 酷い、雷雨に見舞われた日だった。
 昼の内から、夜かと見紛う程に、空は暗く。
 辺りを照らす源は、飽くことなく天を走る稲光りのみで。
 暗い空の所為か、気付かぬ内に街道を外れて迷い込んでしまった、鬱蒼とした森の中を縫う、細い道の先は、雨に霞んで見えなかった。
 ぬかるんだ道に、馬も人も足を取られ、馬車の車輪は何度もわだちから外れ、傾いだ。
「これ以上は……──」
 その一行は、そんな天候の日、そんな道を急いでいたが。
 もう、これ以上の道行きは、不可能に近いと判断したのだろう。
 先頭の従者が、跨がっていた馬から降りて、背後の、豪奢な馬車の扉を叩き。
 中の者──彼等が主、に、進むことは困難であろう旨を告げた。
 轟音にも似た雷鳴と、叩き付ける雨の中、従者が張り上げる声は、聞き取り辛かったけれど、主は扉を開け、頷いて見せ。
「この雨ではね……。だが……進めぬとしても……。──近くに、雨を凌げるような場所でも、あればいいのだけれど」
 扉を開け放った為に、その長い金の纏め髪が濡れるのも構わず、青年の年齢にある彼は、煙る辺りを見回した。
「近くに、洋館らしきものがありましたので。そちらに、頼んで参ります」
 何処かで雨をやり過ごさなければ、と云う主の意向──それは、従者達の意向でもあったが──に答え、付近の様子を見て来た別の従者が、そこに近付き告げた。
「では、そうして貰えるかい?」
 駆け寄って来た二人目の従者に答え。
 主は、彼の指し示す方角を見遣った。
 すれば、そこには確かに、森に囲まれた、洋館らしきものが窺え。
 彼は、雨宿りの依頼を従者達に任せることにして、ぱたりと、馬車の扉を閉めた。
 

 

 この、酷い天候から逃れる術として、救いを求めた大きな館は。
 降りしきる雨がそう思わせるのか、ヤケに暗い雰囲気だった。
 エントランスにも、階段にも、窓辺にも、燭台の火はなく。
 作りは、100年も前に建てられたように古めかしく、人気はなく。
 軋む扉を潜り、立ち入った者達──主と、数人の従者や女官は誰もが皆、ここは空家なのだろうと信じた。
 事実、先程、雨を凌がせてくれと、先触れに走った従者が、館の扉を叩いた時も、どやどやと、人々が踏み入った時にも、誰も姿を現さなかったから。
 如何なる者であろうとも、この館に住む者はいないと云う判断を下すだろう。
 唯。
 その割には、荒れ果てた感はなく、積もる埃もなく。
 生活の匂いがある訳ではないが、誰かがここに出入りはしているのかも知れない、程度の憶測は付いたので。
「管理人でもいるのかな……」
 フード付きのマントを脱ぎ、一見して貴族と判る衣装を晒し、雨露を払い落としながら、主は呟いた。
「どうでしょうか…。見て参りましょうか……」
 主の手を濡らしたマントを慌てて受け取りながら、従者が答えた。
「でも……鍵が壊れていたのだろう?」
 感謝の代わりに、にこりと主が微笑んだ。
「ええ、まあ…………」
 すれば。
 若干曖昧に、従者は云った。
「……どうするにせよ……そうだね……。この雨が止むには、一晩掛かるかも知れないから……。手分けして、住まわれている方がいないか、見て来てはくれないかい?」
 だから、主は僅かに思案し。
 従者達に、そう告げる。
「はい。それでは」
「仰せつかりました」
 彼の声に答えて、人々が散った。
「鍵、ね……」
 ──広いエントランスに一人残された主は。
 曖昧だった従者の言葉に、微かに何かを覚えて、一人、大きくて、古めかしい、重たい扉を振り返った。

  

   

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