〜なんかエロい10のお題〜 01.君の目を見るとダメと言えない
寝台の片隅に怠惰に横たえられた躰から、別の片隅に丸まる白い躰へと伸びた腕が、微かに爪を立てて、緩い弧を描く白い背中を、カリ、と掻いた。
それはまるで、産まれて程ない仔猫が母猫にじゃれ付くような仕草で、可愛らしい、とすら言えた。
でも、産まれて程ない仔猫の爪は、存外鋭いもので。
白い肌へと伸びた腕は、産まれて程ない仔猫の爪先では有り得ないけれど、仔猫の、存外鋭い爪先同様、仕草だけは可愛らしいのに、いたく『鋭かった』。
だから、肌を掻かれた彼──エドガーは、落ちていた微睡みの中、あやふやに閉じていた瞳をこじ開けて、文句を言おう、と。
仔猫とは比べようもないデカイ図体をした、可愛らしい仕草なぞしてみせる柄には到底見えない、今は寝台を共有している恋人を振り返って、睨み付けた。
「………………ん? どうした……?」
何で眠りの邪魔をするんだと、そう言わんばかりにエドガーは恋人を睨んだのに、睨まれた当人──セッツァーは、唇の端を笑いの形に微か歪めて、恍けた問い掛けを放つ。
「どうした、って…………。君、ね……」
余りにも悪びれた様子のないその風情に、肩を落として吐息を零して、エドガーは嘆いた。
「……な、エドガー。……もう一回」
しかしセッツァーは、エドガーの呆れになど構いもせずに。
「………………はあ?」
今の今まで肌を重ね合わせていたのは、夢幻だとでも言いたいのか、君は、と、エドガーは、眦を吊り上げ掛けたのだけれど。
「本当に、もう…………っ……」
からかってでもいるかのように、けれど優しく笑んでいる、セッツァーの紫紺の瞳のその奥に、『何時も通り』の真剣さを見てしまって、彼は、溜息だけを付いた。
産まれて程ない仔猫とは似ても似つかぬ、可愛げのない図体をしていて、可愛げのない性格をしている己が恋人は、自分にだけはとても甘えたがりで、何時だって自分に甘やかして貰うことに真剣で、『判り易い愛情表現』を得られないと、直ぐに、見えない所で不安を抱える質だと、エドガーは、知ってしまっているから。
どうして、こんなに……、とは思いながらも。
溜息だけを零して。
真摯さの見え隠れする、紫紺の瞳の、奥を覗き込んで。
「君の目を見ていると、ダメと言えなくなる私は、本当に、どうかしてる…………」
産まれて程ない仔猫のように、甘える仕草で伸ばされた、可愛げのない図体をした恋人の腕に、彼は、黙って抱き込まれた。
End
後書きに代えて
セッツァーさん、変な所(笑)で、甘えたがりな人なんじゃないかな、と。
まあ、そう思うことも、私はある訳で(笑)。
──皆様に、お楽しみ頂ければ幸いです。