〜なんかエロい10のお題〜 02.欲求不満
見渡す限り、一面砂だらけの砂漠の直中に建つ、恐ろしく機能的ではあるけれども無骨極まりないその城の中で、最も景観に恵まれているのは、本棟の最上階にある、物見台だ。
その城──フィガロ城より高い建物など、この辺りでは有り得ないから、空を眺めても、風景を眺めても、その視界を遮る物はなく、見晴らしは抜群。
吹きっ晒しであるが故に、砂漠よりの風が少々きついのが唯一の難点だけれど、砂漠を渡る風が穏やかな時を見計らって立つようにすれば、それとて、大した問題とはなり得ない。
故にそこは、セッツァーのお気に入りの場所の一つで、フィガロ城を訪れる度、必ず一度は、彼は物見台を訪れた。
でも。
確かにそこはセッツァーにとって、フィガロ城に於ける、お気に入りの場所の一つ、ではあるけれども。
訪れたいから訪れている、というのではなく。
時間を潰す為に何処かをうろついていなくてはならないから、どうせなら、気に入りの場所の方が良い、との発想で、仕方なくそこを訪れている、と言った方が、彼の場合には当て嵌まる。
恋人との逢瀬の為に、わざわざ空さえ駆けて、セッツァーは、砂漠の直中の城を訪れているのだ、如何にその場所が気に入りだろうと、抜群の景観だろうと、物見台なぞでぼんやりしているよりは、想い人との楽しいひと時を得た方が、良いに決まってる。
だけれども彼の恋人は、この城の主であり、この国の主でもある、フィガロ国王その人で、何時如何なる時でもフィガロ国王──エドガーを追い掛けてくる『厄介な仕事』は、セッツァーとエドガーの逢瀬の時にさえ、風穴を空ける。
故に、逢瀬の最中でも、セッツァーは、一人ぼんやり時間を潰さなくてはならないことが、ままあり。
そんな時は決まって、この物見台へ、と。
──景観抜群の物見台。
要するに、何物にも遮られることなく、セッツァーにとっての、ある意味での唯一の場所、空を、地上からでも余すことなく眺められる場所、そこに、文句などない。
例え、時間を潰す為に訪れた場所であろうとも、こよなく空を愛するセッツァーに、その場所に文句を付けられよう筈もない。
だから、恋人との逢瀬に風穴空けられて、手持ち無沙汰になっても。
余すことなく空を見つめていられる場所、そこに佇む限り、己と、幸福めいた何かを、セッツァーは引き換えに出来る…………、否、これまでは、そう出来ていた、のだけれど。
最近の彼は、大地よりは空に近く、余すことなく空を眺められ、己と幸福めいた何かを引き換えに出来る、そんな場所に佇む刹那も、満足を覚えられなくなっていた。
──仕方ないと思ってる。
我が儘盛りのガキじゃない、大人の事情はきちんと汲める。
自分だって、そんな大人だ。
……判ってる。
何も彼も、ちゃんと飲み込める。
でも。
空を眺めていても、空の直中にあっても。
……いいや、何をしていても。
彼がいない、エドガーが傍にいない、それだけで、焼け付くような想いを覚え、焼け付くような、想いを飲み込む。
彼がいない、唯、それだけで。
何も彼も全て、『判って』いるのに。
…………と。
最近のセッツァーは、そんな想いに駆られる。
遮るモノ一つない、空の真下に在っても。
エトガー、という存在に、彼は酷く、飢えている。
────その日。
飲み込むしかないと判っている事情に、致し方ない風穴を空けられた、逢瀬の日。
空の真下に立ちながら、セッツァーは又、焼け付くような、想いを覚え、焼け付くような、想いを飲んだ。
何時の日か、この飢えは、エドガーを抱き竦めたまま空に溶けても癒されぬ程に、焦がれてしまうのだろう。
どれ程に、深く深く、恋人と繋がっても。
拭い去れぬ飢えとなって、この身を襲うのだろう、と。
End
後書きに代えて
相変わらず、色気がないなあ、自分…………。
要、精進。
セッツァーの基本性格は、相変わらずだけどね……。
──皆様に、お楽しみ頂ければ幸いです。