東京魔人學園外法帖
『「実際にゲームに登場するアイテムを使って小話を書いてみよう」なMyお題に基づくプチ話 梧主編』
先日、たまたま内藤新宿の往来で行き会った時、王子村で骨董品店を営む如月奈涸に、珍しい物を手に入れたから見に来ないか、と誘われたので、その日、緋勇龍斗は、蓬莱寺京梧と共に、王子まで足を運んだ。
「いらっしゃいませ」
向かった骨董品店で、先ず彼等を出迎えてくれたのは奈涸の妹の涼浬で、密やかに、けれど何処となく嬉しそうに笑んだ彼女に、龍斗が奈涸はいるかと問えば。
「やあ」
店の奥から、直ぐに、彼に誘いを掛けた兄の方が出て来た。
やって来た彼を交えた四人で、ぎこちない手付きながら涼浬が淹れてくれた茶を啜りつつ、暫し、店先にての世間話を交わしてから。
「処で、奈涸。珍しい品とは?」
「……ああ。──実は、これなんだ」
彼が仕入れた珍しい品は何かと、急かす風に龍斗に言われた奈涸が、棚の影より引き摺り出してきた小さな行李の中身を、彼等は覗き込んだ。
「どれどれ……。……ん? 着物、か?」
「着物、とは、少々違うようだが……」
────その中に入れられていたのは、綺麗に畳まれた、水色の衣だった。
それは、透き通るような糸で織られた、透き通るような羽織り物と思しき物で、女物らしいのは疑いようもないが……と、京梧と龍斗は同時に首を捻り、
「これは、『天之羽衣』なんだ」
不思議そうに行李の中を覗き込み続ける二人に、奈涸は種明かしをした。
「天之羽衣?」
「あの、天女の羽衣って奴か?」
「そう。……言っておくが、紛い物ではないから」
「……ほんとかよ。だとしたら、どっから手に入れたんだ?」
「それは、商売上の秘密だ。教えられる訳がないだろう?」
行李の中の衣は、天之羽衣だ、と彼に教えられ、龍斗は唯々目を丸くするだけだったが、京梧は真っ向から疑い、嘘だの本当だのと、奈涸と言い合い始める。
「ホンモンかどうかなんて、判る訳ねぇじゃねえか」
「それは、君が目利きが出来ないだけだろう」
「だから、俺はそういうことを言ってるんじゃねぇよ!」
「なら、どういうことが言いたいと?」
「兄上……。蓬莱寺殿も……」
そのまま、店先にて、ぎゃいぎゃいと始めた二人の言い合いは少しばかり激しくなり、不毛な言い争いを止めようと、涼浬の、おろおろとした困った風な声も被さり。
…………でも、龍斗は。
何も言わず、一人、『天之羽衣』を見詰め続け。
やがて、涼浬に仲裁されても奈涸との言い合いを止めようとしない、傍らの京梧の横顔を、そっと盗み見た。
────天女に恋した男は、彼女を天に帰さぬ為に羽衣を隠した。
……私も、彼も、女人ではないけれど。
男が、恋しい天女の大切な物を隠したように、私も、恋しい男の『大切な物』を隠せば。
恋しい恋しい男の、『刀』を何処かに隠してしまえば。
天女がそうしたように、私の男も、私に添ってくれるだろうか。
End
後書きに代えて
2010.01〜2011.07の拍手小説です。
面目ない…………。
──タイトル通りのお話です(笑)。
何故か、京梧主だけシリアスになった。
あれ? やっぱ、天之羽衣をセレクトしたから?
天之羽衣、とかじゃなくて、拉麺洞の拉麺とかセレクトするべきだったかしら(笑)。
──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。