九龍の手を甲太郎が取った直後、崩れ逝く遺跡の宙に浮かんだ双子──《封印の御子》の精霊だった少女達が振るった《力》は、長髄彦を天上にて与えられる永久とわの夢の世界へ導き、遺跡に踏み留まっていた彼等を地上に送り届けた。

それと気付く間も無く、聖なる夜の白雪降り注ぐ地上への転移を終えた彼等の眼前で、一七〇〇年、呪われた《墓》で在り続けた遺跡は音を立てて崩れ去り。

……ああ、自分達は生きて──生き残ってしまって──いるんだと、彼等は、只の瓦礫と化していくそこを見守った。

「さて、と」

────だが、長らく続いた遺跡の崩壊が費えて直ぐに、九龍は、一応拾って来たAK47をいまだ呆然としている甲太郎へ放り投げると、脇腹を抑えつつ、「あー、痛い」とか何とかブツブツ洩らしながら、静まったばかりの瓦礫の山へと降りる。

「九龍? 何やってる?」

「発掘」

「何の」

「九龍の秘宝の」

「何で」

「仕事」

「……いや、そういう意味じゃない」

「じゃあ、どういう意味だよ。まさかと思うが、お前達、長髄彦の寝言を信じたんじゃないだろうな?」

「だが……、九龍の秘宝なんて、何処にも無──

──ある。そこにあると信じればある。信じて信じて、追い求め続ける者だけに、秘宝は微笑み掛ける。宝なんてな、そういうもんだ。……ほれ」

到底言葉には出来ない、複雑な心中を抱える己達の目の前で、一体、お前は何を始めたと、怪訝に問う甲太郎に早口で答えつつも手だけは動かしていた彼は、やがて、にんまり……、と笑いながら、瓦礫の中から石版を引き摺り出して掲げた。

「それ、は……」

「これが、九龍の秘宝。天御子達が残した、古代の叡智の結晶の一つ。……見た処、ヒトゲノムの解析データだな。詳細は分析に掛けてみないと何とも言えないが、充分、今回の仕事のモトは取れる。……うん。競売に掛けるか。最低でも五億くらいにはなるだろ」

「五億? そんな石っころに、五億円もか?」

「いいや。ドル。交渉の相手は其処彼処の国家だ、五億ドルが五〇億ドルだって出すに決まってる。現代の天御子そのものだからな、連中は。……という訳で。──いい加減、出て来いよ、境のおっさん」

手に入れた石版を掲げたまま事も無げに告げてやった金額に、思わずの馬鹿面を晒した甲太郎を放置し、きょろりと辺りを見回した九龍は、その場にいる筈の無い学園の校務員兼売店々主、境玄道の名を呼んだ。

「……何じゃ、バレとったんか」

「バレいでか。あんただってロゼッタのハンターなんだ。鵜の目鷹の目な一人だろうに。……残念ながら、お宝は俺が頂いた。だから、協会長──あのクソ狸に伝言してくれよ。約束通りロゼッタは継いでやるけど、俺の目を掠めてのお宝の横取り目論んで、あんたみたいな古参のハンター送り込んでくるような奴には、九龍の秘宝はやらん、てな。あんまり、葉佩の名を舐めんなよ」

墓地をぐるりと取り囲む、鬱蒼とした森の影から姿現した境は、どうして……? と見守る学生達の前で正体を暴かれてもニヤニヤとした笑いを引っ込めず、ケッと毒付いた九龍は、これ見よがしに石版を抱えながら瓦礫の山を這い登ると、再度、有無を言わせず甲太郎の腕を取った。

「じゃ、阿門。後宜しく。────仕事は終わった。俺はもう行く。後始末に手子摺るようなら、手ぐらいは貸してやるよ、甲太郎の為に」

望むままに《秘宝》を手に入れた宝探し屋は退場なのだと、腕引っ掴んだ彼を引き寄せつつ、さらりと笑んで、九龍は、振り返りながら阿門へと言う。

「…………おい。九龍、本気か?」

「未だ言うか? 自分の宝を持ち帰って何が悪い? 俺が手に入れたんだ、《秘宝》は俺のものだろう?」

「だからって────

────お前秘宝》は俺のもの。俺の人生は宝と共に在る。宝こそ我が人生。だから、《お前秘宝》は俺の人生そのものの一つだ。俺の人生が、俺の行く所に従うのは至極当然」

身勝手この上無い九龍の所為で、目紛しく進む展開に付いて行けず、甲太郎は二の足を踏んだけれども。

「行くぜ、甲太郎。世界中の宝が、俺の人生達が、俺を呼んでる。──早く来い、見付けに来い。万難を排して、スリルと隣り合わせの路を越えて、お前の人生を掴みに来い、ってな。……今、この瞬間から、それがお前の人生にもなる」

己と己だけの世界の理屈を通し切って、深い深い溜息を零した彼を引き摺り、九龍は闇の中に消えて行った。

確かに手にした《秘宝》を腕に。

呟きだけを残して。

────宝こそ、我が人生。

End

後書きに代えて

これは、二〇一一年の冬コミで出した本の再録です。

十年前に書いた物なので色々諸々がナニなのですが、手を入れると一から十まで書き直しになっちゃうので(笑)、誤字脱字と、「これは、一寸日本語じゃないかも」と感じてしまった数ヶ所を直した程度での再録ですが、御容赦下さい。

ま、その辺は、男前に潔く(笑)。

──私は、冒険活劇が好物です。宝探し屋の物語が大好きです。そして、菊地秀行先生著作の『エイリアンシリーズ』の主人公、八頭大が好きです。大好きだ、大ちゃん!

なので、好物な話@九龍と、好物な話@八頭大ちゃんを、双方、豪速球でぶつけ合ってみたら、こんなことになった。……何でだろう(首捻り)。

──それにしても。

多分、もう二度と、こんなに殺伐とした話は書かない。正しくは書けない(笑)。本当に惚れ合ったのか疑問だしね、皆主二号機。

尚、タイトルの『宝こそ我が人生』。これは、大ちゃんの科白です。大ちゃんの信念の科白。大ちゃんと言えばこの科白(と私は思う。エイリアン魔神国のラストの方の、相棒に関する科白も好きだ)なので、タイトル及び九龍二号機の信念は、件の科白に倣いました。真っ向勝負で真似っ子。

あ、それから。発行した本の方には、この話の一年後のエピソードも載せてあるのですが、それは又別枠で。

──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。